子どもの時、うちにあったタオルはすべて白だった。
そして端に、紺や緑のインクで会社や信用金庫の名称が印刷されていた。
ひらがなを覚え、漢字を覚えて、
目に入る文字を片っ端から読むようになってから、
タオルに字が付いていることに気が付いた。
子どもにとっては、家庭が全世界だ。
私はかなり大きくなるまで「タオルとは白くて、字が書いてある布」と認識していた。
高学年になって二泊三日の行事に行くことになった。
新しい下着や大きなリュックサックのほか、
きれいなタオル(柄や色は忘れた)を母が買ってきてくれた。
タオルは白しか存在しないと信じていた私はびっくりした。
そう言えば、バスタオルには色や模様が付いているじゃないか…!
ようは当時は、業者から何かとタオルをもらうことが多かったのだろう。
だから母は普段使いのタオルを買ったことがなかったのだ。
時は流れ、東京育ちの私は他県に嫁いだ。
全く違う環境になって、必死に家事をして気が張り詰めていた。
そんな時、母が「雑巾にでも使いなさい」と持たせてくれた大量のタオルの中に、
「東京瓦斯」の字を見た。
途端に、遠くに来てしまったな、と泣いてしまった。
今思うと笑い話である。