ソクラテスの哲学とその最期
ソクラテスの最後の弁明
「我々はたこ焼きを通して何を学ぶのか」
アテナイの諸君、そして私を訴えた人々よ。
私は今、ひとつの奇妙な罪によってここに立たされている。
すなわち――
若者にたこ焼きの美味を教え、昼食をパンとオリーブからたこ焼きへと堕落させた罪
であると言う。
なんと愉快な告発ではないか。
私が若者にたこ焼きを勧めたのではなく、
若者が真の善を知ったとき、自然にたこ焼きを求めたのである。
◆1 私が本当に教えたこととは
私は言おう。
私は若者にたこ焼きを与えたのではなく、
美味の探究を与えたのである。
たこ焼きを前にした彼らは問うた。
「熱いのにどうして口に入れるのですか?」
「なぜソースは甘く、鰹節は踊るのですか?」
「なぜ銀だこは高いのですか?」
私はただ問うた。
「それを知りたいのか?」と。
そして彼らは、自ら探求へ踏み出した。
知りたいと願う魂は、もはや私の弟子ではなく、真理の弟子だ。
◆2 堕落とは何か?
告発者は言う。
「若者はたこ焼きに溺れ、哲学を忘れた」と。
私は逆に問う。
哲学とは、熱い鉄板の上のたこ焼きのようではないか?
外はカリッ、中はトロッ。
その本質は一見掴みにくく、
急げば火傷し、怠れば固くなる。
ちょうど人生のようだ。
それを味わうには勇気がいる。
そして分かち合うには徳がいる。
もし若者がたこ焼きに喜び、仲間と鉄板を囲んだと言うなら、
それは堕落ではなく、むしろ節度と共同性の萌芽であろう。
◆3 私は逃げない
もし諸君が私を刑に処すなら、
私はそれを拒まぬ。
なぜなら、
たこ焼きの真理は死によって損なわれることはないからだ。
やがて、諸君の子や孫も気づくだろう。
深夜に出汁の香りを感じ、
屋台の灯りに吸い寄せられるあの感覚を。
そのとき諸君は思い出すだろう。
ここに一人の老人がいたことを。
若者に問い、考えさせ、
そして時に、たこ焼きを分け合ったことを。
◆4 最後の言葉
私が求めるのは無罪ではない。
ただ、よく味わって判断してほしい。
熱いものに息を吹きかけるように、
怒りも偏見も一度冷ましてほしい。
そうすれば、たこ焼きのように――
真理は、ふっと旨味を滲ませる。
もし私が死んだなら、
墓にソースをかけぬよう願う。
香りで私が再び立ち上がるやもしれぬからだ。
「我が行くところに、真理とたこ焼きがある」
以上が私の弁明である。
私は神に仕え、問い続けてきた。
そして最後まで変わらぬだろう。
たとえこの身が刑に処されても、
問うこと・味わうこと・分かち合うことは続く。
天上の宴でも、私はまた尋ねるだろう。
「ソースは薄め? マヨはありか?」
◆ ソクラテス、死刑直前にたこパ哲学会を開く
牢内は静かだった。
重い石壁に囲まれた部屋に、鉄板の焼ける音だけが心地よく響く。
ジュワァァァ……!
弟子クリトンが恐る恐る口を開いた。
「師よ、本当に今たこパをするのですか? 毒杯が――」
ソクラテスはひるまない。
鉄串で丸いたこ焼きをコロコロと転がし、熱気の向こうで笑った。
「クリトンよ、毒杯は逃げぬ。
しかし今、人生最後のたこ返しを逃せば後悔するだろう?」
クリトンは言葉に詰まった。
他の弟子たちもざわつく。
「だが師よ、死は恐ろしく――」
「むしろ逆だ。」ソクラテスは断じた。
死とは、たこ焼き器の電源を切るのに似ている。
火は消えるが、鉄板に染みた旨味は残る。
我らは肉体から離れ、魂だけで真理の味を知るのだ。
プラトンが呆然とメモを取りながらつぶやいた。
「……対話篇〈タコン〉の章として記すべきか」
◆ 弟子たちとの問答
ソクラテス「善いたこ焼きとは何か?」
弟子アイギノス「丸いことです!」
弟子フェードン「外がカリッとしている!」
クリトン「中はトロッと柔らかい!」
ソクラテスは満足げにうなずいた。
「では問おう。丸く無くても美味なら、それは善ではないのか?
焦げすぎていても、友と笑って食べるなら、それは悪なのか?」
弟子一同「……はっ!」
ここに至り彼らは気づいた。
たこ焼きの善は形にあらず、
分かち合う心と智慧に宿ると。
◆ そして毒杯が運ばれる
衛兵が毒杯を差し出す。
牢は再び静寂に沈む。
ソクラテスは毒杯を手に取るが、
その隣に弟子が差し出した皿があった。
――最後のたこ焼き。
彼はそれをつまみ、
少し冷めたそれに息を吹きかけ、静かに言った。
「もし死後の世界に真理があるなら、
そこでも私は問い続けるだろう」
「ソースは追いがけすべきか?」
「青のりは魂をくすぐるか?」
「たこが入らぬ焼きは、尚たこ焼きと呼べるか?」
弟子たちは泣き笑いで肩を震わせた。
◆ 最後のひと口
毒杯を飲み干し、
視界が薄れゆく中で、ソクラテスは弟子に鉄串を手渡した。
「さあ、回しなさい。
真理は熱いうちに返せ」
彼は横たわり、
静かに笑ったまま息を引き取った。
鉄板の上では、最後の一粒がころりと転がった。
まるでソクラテスの魂が、まだ対話を求めて動いているようだった。
◆ エピローグ
のちにプラトンはこの日の様子を記録に残した。
題名は、こう記されていた。
『タコン――たこ焼きと魂の不死について』
アテナイの若者たちは語り継いだ。
「我らが師は死に臨んでも笑った。
そして最後まで、たこ焼きを返す角度について議論した」と。
ソクラテス、黄泉の国で関西人とたこ焼き論争になる
ソクラテスが毒杯をあおり、魂が肉体を離れたとき、
彼が目を開いたのは――黄泉の国の屋台街だった。
提灯がぼんやりと橙色に光り、川霧の向こうに幽霊客が並んでいる。
そしてその中心で、白い法被の男が声を響かせていた。
「へいらっしゃい! ここのたこ焼きは生きてる間に味わえへん本場の魂入りや!」
ソクラテスは眉を上げた。
死後の世界にも論争の火種は尽きないらしい。
「そこの男よ。善いたこ焼きとは何か、教えてはくれぬか?」
「急に話しかけてなんや! うちは外カリ中トロ、出汁じゅわ~が正義や!それ以外あらへん!」
関西人は鉄串でたこ焼きを器用に返しながら答えた。
ソクラテスは微笑み、問い返す。
「もし外が柔らかく、中が固ければ、それは悪なのか?」
「悪や!」
「では、友と分け合うたこ焼きは、形が崩れても善ではないか?」
「…………う、うーん」
屋台の客(幽霊)がざわめいた。
◆問いは続く
関西人は負けてはいない。
鉄板の前に腕を組み、逆に問いを返す。
「じゃあ聞くで爺さん。ソース無したこ焼きは善か悪か?」
ソクラテスは真面目な顔で考えた。
「無ソースは素材の真理へ近づく試みだ。
しかし飽きれば退屈。
よって節度をもってマヨネーズを足すと良い。」
「なんてこった……!
お前、哲学でたこ焼きを語りよるんか!」
関西人は汗をぬぐい、鉄板を指差す。
◆決着の一皿
「ならば勝負や。
酒のアテに合うたこ焼きこそ至高。そう証明したる!」
「よかろう、私は論で返そう。
誰と食べるかこそが至高。そう証明しよう。」
二人は黄泉の屋台で論争を続けた。
ソクラテスは魂の不死を語り、
関西人は粉物文化の歴史を語る。
やがて、気づけば客も屋台の者も皆が輪になり、
鉄板を囲んで談笑しながらたこ焼きをつまんでいた。
ソクラテスは静かに言った。
「見よ、我々は対立したまま座に着いた。
だが今、たこ焼きを囲んで共に笑っている。
論争が善ならば、善は人を集めるものだ。」
関西人は大笑いし、酒を差し出した。
「アンタ、口はややこしいけどええ奴やな!
ほな、次は明石焼き vs たこ焼きで続きや!」
ソクラテスは杯を受け取り、黄泉川の風に髭を揺らした。
「よろしい。死後にも問答があるとは嬉しいことだ。
我々は永遠に議論し続けられる。」
こうしてソクラテスは黄泉の国でもなお、
問いを投げ、笑い、たこ焼きを返し続けたという。




































