では今度は第一図(▲56飛まで)に戻って、居飛車がノーマルな左美濃の形を保ちながら駒組するケースを見てみます。この場合、△63銀にひもがついているため、▲96角のような筋が生じません。

 

前回は角交換型中飛車の将棋で、中飛車側が5筋と7筋の位を取り、石田流含みで攻めを狙う指し方を見てきました。今回はその続きです。

 

前回も使用した第一図(▲56飛まで)からスタートします。

 

 

第一図は中飛車が浮き飛車にした直後の局面ですが、この瞬間、▲36飛で△34歩を狙う手が部分的には発生します。

 

ただ、すぐに▲36飛と回るのは△57角と打ち込まれるのが少し気になるところです。▲34飛が実現しても、馬を作られるのでは実戦的に不満かと思います。

 

 

中飛車の角交換振り飛車では、57の地点をケアするかどうか、ケアしないとしたら居飛車からの打ち込みが大丈夫か?というのがポイントになります。なので、片美濃ではなく▲48銀型の囲いにするのも一案ではありますが、居飛車の左美濃が堅いため、実戦的には勝ちにくいでしょう。最低でも片美濃は作っておきたいところです。

 

この記事では▲68銀と引いて57をケアしておきます。次は▲36飛があります。

 

居飛車が▲36飛を形よく受けるには、△24歩や△44歩を突いて金銀を23や43に上がれるようにしておくのが普通です。

 

そこで、まずは第一図からすぐに△44歩と突いた形を見てみます。

 

 

この手を指すと、実は部分的に中飛車に新たな仕掛けが生じます。最速で仕掛けるなら、△44歩以下、▲76飛△94歩に▲54歩と突きます。

 

 

△同歩は▲71角△72飛▲44角成。

 

△同銀は▲74歩△同歩▲同飛△73歩▲64飛△63歩▲66飛△57角▲72歩△同飛▲83角が一例でどうかというところ。戦いを起こす事はできていますが、はっきり中飛車がいいとは言えないでしょうか。

 

 

この仕掛けを自重するなら、やはり▲68銀と引きます。53の地点をケアして、飛車が動きやすくなっただけでなく、▲77桂も指せるようになりました。

 

▲68銀以下、前回で見たような▲56銀型を目指していくと、下図のような局面になります。

 

 

一見中飛車が不満なし見えますが、43の空間が空いているのが、前回とは違う点です。

 

上図から、△74歩▲同歩△同銀と仕掛けられた時、▲75歩には△43角で居飛車よし。この△43角が生じるのが、この戦型における△44歩型の効能の1つです。▲75歩に代えて▲86歩△75歩▲66飛△63銀の進行も中飛車が指しにくいと思います。

 

この展開を中飛車が避けるなら、もっと早めに動くのが一案。▲68銀以下、△94歩▲77桂△95歩▲76飛△24歩のような進行なら、そこで▲54歩を突いてみます。

 

 

△同歩は▲71角で馬ができるので、とりあえず成功です。

 

△同銀は先程と同じ▲74歩△同歩▲同飛△73歩▲64飛△63歩▲66飛の変化の時、▲68銀型のため△57角がありません。中飛車は5筋と7筋の歩が切れ、▲72歩のようにちょっかいをかける手が権利として残っています。これも中飛車不満なしです。

 

 

▲54歩に対して、居飛車の最善は△43角のようです。早指し戦でアマチュアがこれを打てるかな?とはちょっと思います。もし万が一に打たれても▲53歩成と踏み込むような手は、中飛車党的には面白いのではないでしょうか?

 

 

△同金なら▲56飛でとりあえず飛車は助かります。中飛車は5筋が切れたのでまあまあでしょう。

 

代えて△76角と決戦になった場合は▲71角と打ちます。△72飛は▲52と△71飛▲62とが飛車銀両取り。△83飛は▲63と△同金△72銀が飛車金両取り。△92飛は▲52と△同銀▲44角成。△84飛は▲74歩△同歩▲52と△同銀▲62角成が飛車に当たります。

 

 

また、少し上等なテクニックになりますが、▲68銀に△94歩と指した局面に戻りまして、そこで▲36飛と揺さぶっておくのも一案のように思います。▲34飛を受ける自然な手は△43金ですが、それなら前回やった高美濃志向の形に一手損ではありますが合流し、△43角が消えるので、▲76飛+▲77桂+▲56銀型から攻める構想が復活します。

 

 

 

では次に、第一図から△24歩と突く手を見てみます。

 

 

この歩を突いたからには、居飛車は銀冠を目指すのが自然でしょうか。▲68銀△23銀▲77桂△32金には▲46銀と上がります。中飛車は仕掛けの糸口を探しつつ、左銀を玉の周辺に移動させ、堅さを強化しています。この局面(▲46銀まで)を第二図とします。

 

 

第二図から△42金右で固める手には、▲76飛を一度指してみたいところ。△44歩のような手なら前回扱った▲85桂の仕掛けがあります。

 

 

△42金右に代えて△44歩なら、今度は▲54歩を突いてみたいところ。

 

△同歩は▲71角なので△同銀が本線ですが、▲55銀(下図)とぶつけます。46と64の歩にも当たっていますので、普通は△同銀▲同飛のと進み、次に▲71角や▲74歩△同歩▲85飛が発生します。居飛車はそこで意外と軽い受けが難しく、△54銀と打つくらいでしょうか。一歩損にはなりますが、銀を手持ちにした中飛車が少しポイントを稼いでいます。

 

 

△54銀に▲56飛と引いた時、▲41銀の割銀が発生しているので△42金右が普通ですが、これには先程と同様の理屈で▲76飛と回ってみたいところ。▲74歩を△63銀で受けるなら▲85桂。△84飛で受けるなら△62角(下図)があります。

 

 

つまり、第一図から△24歩指した場合、居飛車は銀冠を目指すのが自然ではありますが、右金を動かしたり△44歩を突いたりした時に、中飛車の仕掛けが復活してくるわけですね。

 

ただ、▲46銀の局面で△95歩など、中飛車の仕掛けを完全に封じるような手を優先してきた場合は、中飛車としても自陣に手を入れる方針に切り替えざるを得ません。

 

△95歩以下、▲26歩△42金右▲36歩△44歩に▲54歩は、(そもそも▲41銀がないので無理筋ですが)△同銀▲55銀に△45角(下図)があり得ます。先程の局面での△45角なら、▲46歩で角を取れそうでしたが、今回は▲36歩が浮いている所を突かれた形です。この角を打たれると、▲59飛△55銀▲同飛△54銀の時、飛車が56の地点に戻る事もできません。△54銀以下、▲59飛△36角▲56飛△45角▲76飛にも△54角でまとわりついてきます。▲56飛型や▲76飛型にとって、この筋違い角のラインは天敵に近いです。

 

 

かと言って、△44歩に▲27銀で▲36歩をケアしつつ銀冠を目指すと、△69角で居飛車よしです。

 

 

よって、△44歩には中飛車は▲37銀か▲37桂のように駒組するのが賢明です。堅さ重視なら▲37銀、攻め重視なら▲37桂でしょうか。

 

個人的な好みは▲37桂で、これはある種、△44歩に反応した手です。この手を指しておくと△45歩に▲同桂と取れるため、位を取られません。4筋の位を取られると△44角のような手が発生し、居飛車が指しやすくなる可能性があります。居飛車としても有効な仕掛けは簡単ではないので、少しでも手段を制限したいところです。

 

 

仮に、▲37桂の局面で居飛車が手に詰まって、とりあえず△43金直と銀冠の定位置に左金を移動させるなら、▲76角(下図)が前回も出てきた必殺の角打ち。飛車の横利きが止まったからと言って△86歩と来ようものなら、▲47角成△同金▲86飛で捌けます。

 

 

▲76角に△52銀のように受けるなら、とりあえず▲85角は可能ですし、△93桂なら▲52角成△同飛▲86飛と華々しく捌いてどうか。居飛車は歩切れのため対処が簡単ではありません。これも厳密な形勢は居飛車に振れますが、実戦的には中飛車が勝ちやすいと見たいです。

 

 

▲76角に△93桂なら、今回も▲74歩と突きます。△同歩は▲43角成△同金▲73金、△同銀は▲54歩△同歩▲同角△53歩▲43角成△同金▲55銀が一例で、次に▲54歩を狙います。厳密な形勢はともかく、これなら実戦的には中飛車ペースでしょう。

 

 

 

という事で、角交換型中飛車の浮き飛車志向の指し方を見てきました。

 

個人的にはこの指し方で実戦的に十分戦える感触です。中飛車っぽい変化が多くて楽しそうだなと思いました。