今回も相三間飛車がテーマです。
実はこの相三間飛車シリーズは、高崎先生著の「わかる!勝てる!!現代相振り飛車」を参考にしながらプロの流行の歴史を追っていたりします。
#1「相金無双」と#2「高美濃 vs 金無双」では、どちらも先手が面白くないという結論に至りましたが、本当は「相金無双」の後に、「相高美濃」の時代があって、それは先手が指せるという見解だったようです。
そして、先手の高美濃に対する対抗策として、#2で扱ったような後手の金無双の速攻が流行したようです。
という事で、今度は先手が工夫を求められるわけですが、今回は互いに囲い合う前のオープニングについて検討していきます。
今更感もありますが、このオープニングで先手が新たな構想を披露する事になるのです。
また、ぶっちゃけ初段以下のアマチュアの場合、オープニングのどこかの段階でどちらかが我慢できず▲74歩(△36歩)を突いて乱戦の変化になる事もだいぶ多いです。この戦型を指すなら、オープニングの基本はしっかり押さえておく必要があります。
今回は下図(△32飛まで)を基本図とします。
互いに飛車先の歩が5段目まで伸びている上、角が向かい合っています。少なくとも自分が相三間をやる場合は結構な確率で乱戦模様になります。
さて、まずは互いに飛車先の歩を切れるかどうかが最初のテーマかと思います。
基本図から▲74歩△同歩▲同飛は、△88角成▲同銀△36歩でやや後手ペース。▲同歩は△55角、▲28銀には△65角▲56角(下図)で飛車を取られるのは先手が少し不満でしょう。
▲74歩に代えて▲76飛も危険な意味があり、△88角成▲同銀△36歩があります。
△36歩に▲同歩は△55角▲77角△19角成▲11角成△29馬▲21馬△47馬の乱戦です。後手は桂香を先に取れる上、次に△65馬や57、36の歩取りの狙いがあり見た目以上に後手が指せます。
△36歩に▲28銀は、△37歩成▲同銀△45角▲58玉△27角成でやはり乱戦模様。
先手は▲74歩△同歩▲55角で返せそうですが、△49馬▲同玉△65金で後手よしです。
したがって、基本図から先手はそう簡単に迂闊な事ができません。
それではまず本命の変化に入る前に、基本図から互いに金無双を目指した場合を考えてみます。下図(△82銀まで)を第一図とします。
第一図で▲38玉は少し損で、△36歩▲同歩△同飛が王手で入ってしまうため、▲37歩△34飛のように後手に自然に飛車先の歩を切られてしまいます。
代えて▲74歩は、(前回も触れましたが)△同歩▲同飛に後手は△73歩とは打つ必要がなく、△88角成▲同銀△72金のように手厚く構えられると、先手が動いていった意味があまりありません。
かと言って、第一図で▲76飛と浮くのも「△55角」の筋がちらつくわけで、△36歩と突かれた時に対応に少し困ります。
▲同歩は△88角成▲同銀△55角、▲同飛は△同飛▲22角成△同銀▲36歩△55角で後手よしです。▲28銀にひもについていないのが痛いです。
△36歩には▲38金と備えるのが最善ですが、△37歩成▲同銀△36歩▲28銀で実戦的に面倒くさい拠点をスムーズに作られてしまうのをよしとするかどうか、というところです。
つまり、互いに普通に金無双に組みに行った第一図で、先手の指す手に少し制限があるわけです。
もちろん▲76飛は成立する手です(相金無双の定跡的には▲76飛です)し、▲86歩や▲68銀とかでも一局なわけですが、特に▲38玉を指しにくいのは気持ち悪いでしょうか。
こうした前提を踏まえた上で、先手の新しい工夫を見ていきます。
基本図から、▲58金左△52金左▲48玉△62玉と進めた下図を第二図とします。
ここで先手が美濃囲いを目指して▲38銀と上がるのは、△88角成▲同銀△28角でダメです。▲38玉を指しにくいのは前述の通り。▲74歩は「△55角」の筋があるのでやはりダメ。
よって穏便に進めるなら、前回のように▲46歩~▲47金で△36歩を受けて高美濃を目指すか、▲28銀と上がって▲76飛と浮いた時の△36歩に▲38金を用意するような手になります。
しかし、それらでは今までの指し方と変わりません。
今回の先手の主張は、この第二図の時点で▲76飛と浮く手は実は成立するんじゃないか?というものになります。
第二図から▲76飛に後手が「基本図から▲76飛」と同様に「△55角」の筋で咎めに行った時、後手には先程の△47馬がありません(下図は▲21馬まで)。先手からは次に▲35香があります。
対して後手は飛車が質に入っている上、△31銀を動かしづらい状態のため、少し気持ち悪いかもしれません。△34飛には▲26桂の飛車取りが好手で、△14飛を防ぎつつ△24飛が飛車成の先手にならないようにできます。
よって、第二図での▲76飛は、少なくとも実戦的には成立する手です。
後手が▲76飛に追随するなら△34飛ですが、実は先手は自分だけが▲76飛と浮いておきたいのです。そこで、▲74歩と仕掛けて咎めに行きます。
△同歩は▲22角成△同銀▲55角△33角以下、桂香を取り合った後に、先手の左銀が▲68銀と逃げられるのが大きいです。先程の後手の場合と違って、先手の飛車が既に浮き飛車になっているため、飛車と銀が身軽になっています。これは先手よしです。
▲74歩には△同飛が手強く、▲同飛△同歩▲22角成△同銀に▲55角は△75飛があります。▲88角で受かりますが、少し変調でしょう。
よって、先手は▲55角に代えて▲68銀でバランスを取り、▲55角を楽しみにします。
ちなみに、▲41飛のように打ち込む手は△31飛のように合わせる手で受かります。▲68銀型では△82飛を打たれそうですが、後手が飛車を手放せば、先手も飛車を打てる仕組みになっています。
さて、上図の局面ですが、実戦的には先手持ちというのがプロ間の認識のようです。
後手には一歩得の主張がありますが、▲68銀型と△22銀型、▲37歩型と△74歩型の違いは明白で、後手は常に▲55角の筋を警戒しなければいけないため、そういう意味で嫌な感じなのは確かでしょう。
例えば△73桂で▲55角を受ければ、▲77桂△72銀▲55角△33銀▲85桂が一例で、これは先手十分です。
また、そうやって▲55角の筋を警戒している内に後手陣に隙ができて、先手は大駒を打てそうです。
こうした事情で、第一図からの▲76飛に対して、後手は△34飛と追随できない(しにくい)というのが定跡のようです。
では、先手だけが早く▲76飛が指せると何が嬉しいのでしょうか?
仮に第一図で先手が▲76飛と浮き、後手が△34飛を成立しないと判断し、△82銀と指した局面が下図ですが、ここで先手は▲38玉と指す事が出来ます。下図を第三図とします。
ちなみに▲76飛さえ先に指していれば、△34飛と指されていても▲38玉は指せます。ただ、△34飛と追随できていると、後手も△72玉を指す事ができるので、先手だけ得した事にならならい、という意味があります。
さて、先手は▲76飛型のため、後手から△36歩▲同歩△同飛がありません。「△55角」の筋も無理で、先手は▲38玉型のため、後手は21の桂馬を取れません。先手よしです(下図は▲11角成まで。ひもつきのため△21馬ができない)。
そしてこの▲38玉を指せると、先手は金無双以外の囲いを選びやすくなります。
そして何を選ぶかと言えば、振り飛車の定番である美濃囲いという事になるわけです。
次回は、先手が美濃囲い、後手が金無双を選んだ場合について見ていきます。