今回は△64歩+△55歩型で先手の駒組を制限する指し方について見ていきます。

 

スタートは下図(△64歩まで)です。

 

 

後手は△64歩を早めに突く事で、▲65歩を突きづらくしています。

 

本当に▲65歩を突けないか、早めの△64歩を咎める手段はないのか、といった実際的な課題は後回しにして、とりあえずこの指し方の行き着く先を見てみます。

 

△64歩以下、▲84歩△同歩▲同飛△83歩▲86飛△63金▲96歩△54歩▲38玉△44銀▲95歩△82玉▲75歩△55歩と進めて下図です。

 

 

後手は5筋の位を取って角道を二重に止めたので、左銀が動かしやすくなっています。対して先手は▲66角が指せないため角を攻めに活用しづらく、桂馬を77に跳ねる事もできないため、駒組が少し難しくなっています。

 

ここから、△45銀▲76銀△14歩▲65歩△同歩▲同銀△64歩▲76銀△44角と進めて下図です。

 

 

先手は6筋の歩を切って角道を通しましたが、後手も着々と攻撃準備を進めています。果たしてどちらに分があるのでしょうか。

 

ここから、先手の指し手ごとに分岐を見ていきます。

 

(1)▲85銀

 

銀を前に出して力強いですが、先手がすぐに有効な攻めを狙えるわけではありません。後手陣にプレッシャーをかけているのは間違いないですが、先手の飛車の横利きを通した守備的な意味合いも強いです。

 

ちなみに、後手としては一応△84歩は一応一度は通って、▲同銀は△83歩で銀が死にます。

 

よって△84歩には▲76銀と逃げますが、△84飛を受ける△83銀なら▲85歩と合わせて先手よしです。この場合の銀冠は棒銀の格好の的になります。

 

 

後手は▲85銀を刺激しない方が実戦的に賢明です。そこで△33桂と力を溜めます。

 

先手の狙いとしては、横利きを通した上で▲46歩を突くのが一つの狙いです。△54銀▲47金△15歩▲36歩で片矢倉に組み直しに来ます。後手がそれを防ぐなら、△25桂と跳ねます。

 

 

▲26歩△同角▲27銀(△44角なら▲26歩)には、△37歩と打ちます、▲同桂なら一応桂交換に持ち込めます。先手が▲39玉と頑張るなら、△44角▲26歩△17桂成▲同香△56歩▲同歩△77角成▲同桂△68角と暴れていってどうかというところです。

 

 

先手が△25桂を刺激せず▲88飛くらいで手待ちした場合、後手は△16歩から端攻めに行きたいところですが、金無双相手には少し分が悪いところで、駒を渡せば先手からの反撃も覚悟しなければなりません。

 

AIが示すのは△65歩。これが渋い好手で、次に△66歩で歩成を狙う手に▲同角なら△65銀と左銀を活用できます。

 

 

△66歩以下、▲76銀と引いて受けるなら、△14歩▲同歩△17歩▲同香△32飛▲15歩で▲16香を見せたら△17桂成▲同銀△15香▲16歩に△18歩と垂らしてどうか。

 

 

後手としては、△17角成や△56歩、のんびりいくなら△66歩▲同角△64香もあり、攻める手に関しては困りません。

 

先手からは▲64歩△同金▲84歩△同歩▲同飛の十字飛車がありますが、▲64飛△63銀上で二枚換えながら、飛車を手にする事はできます。

 

 

(2)▲97桂

 

▲85桂からの攻めを狙う手ですが、▲66角型ではないので致命的な威力はありません。ちなみに、▲66角には△36歩から十字飛車を狙って後手十分です。

 

▲97桂以下、△33桂▲85桂に攻める手もありますが、しっかりと受け止める事を考える方が実戦的でしょうか。

 

そこで△84歩と突いて攻めを催促してみます。

 

 

▲94歩△同歩▲92歩△同香▲93歩には、△同桂▲同桂成△同香▲84飛△83歩▲86飛に、△36歩▲同歩△24桂と攻めて後手十分。

 

▲93桂成には、強く△同玉と取り、▲94歩に△82玉と美濃に戻ります。以下、▲85歩△同歩▲同銀△92歩▲84歩には△71玉が好手。▲83歩成△同銀▲84銀△同銀▲同飛△82歩▲83歩△同歩▲同飛成△72金が一例で後手が耐えています。後手十分です。

 

 

 

(3)▲16歩

 

手待ちした意味合いが強い手です。△33桂に対する先手の手を考えていきます。

 

(ア)▲85銀

 

△36歩と仕掛けます((1)でもあり得た)。▲同歩△同飛は十字飛車なので、飛車交換確定。▲85銀が遊ぶ形となり、この交換は後手に分があります。

 

 

△36歩に▲46歩なら、△37歩成▲同銀△36歩▲26銀△同角▲同歩△37銀と踏み込んでどうか。▲同桂△同歩成▲同金には△25桂打です。

 

 

(イ)▲65歩

 

△同歩▲84歩△同歩▲65銀と出て、△64歩なら▲同銀△同金▲84飛の十字飛車を狙っています。

 

先程と違い、△65歩+△54銀型でないため、次に▲44飛から暴れる順があります。後手はこの変化を許してはいけません。

 

▲65歩には△53角と引き、受けに回る中で捌きに行くのが好手。

 

 

▲55角△65歩▲同銀には△54銀とぶつけ、▲同銀△同金▲77角△55歩と収めておき、次に△64金と活用します。

 

 

(ウ)▲67銀

 

一旦引いて手待ちした手です。後手は仕掛けたいところです。

 

△15歩▲同歩△36歩(▲同歩は△同飛で飛車交換)▲46歩△37歩成▲同銀△54銀▲36歩に△17歩と垂らしてどうか。▲同香なら△25桂で後手よしです。実戦的に、後手の手の方が指し手がわかりやすいと思います。

 

 

 

という事で、今回は△64歩+△55歩型を早めに決める後手の指し方を見てきました。

 

先手の▲65歩、▲66角、▲55角のような符号を可能な限り封じる事で先手の攻撃力を下げ、後手は比較的安全に駒組を進める事ができました。高美濃に組んでコビン攻めに備えているのもポイントです。

 

今回は後手の攻め形に△44角+△33桂型を採用しましたが、もちろん△13角+△33桂型も考えられ、多彩な攻撃スタイルを構築できそうです。

 

今まで扱った中では、一番実戦的な作戦のように感じました。適用範囲、応用範囲共に広そうです。

 

実はこの形は、高崎先生著の「わかる!勝てる!!現代相振り飛車」のp18で部分的に出てきた形です。元々、金無双に対して有効とされていたようですね。

 

その本では△53銀型を採用していたようでしたが、今回はAIに候補手を聞きながら△33銀型にアレンジして、課題局面を想定してみました。

 

次回はこの作戦について、もっと詳しく検討していきたいと思います。