ここまでこのテーマで後手目線で向かい飛車対策を検討してきて、なかなか有力な仕掛けを発見する事ができませんでした。
今回は少し趣向を変えて、先手の飛車の位置を変えながら、この戦型の理解度を高める事に重きをおき、次の構想を考えていきます。
具体的な局面としては、下図のようにすぐに△44銀と出てあえて飛車の横利きを止め、先手の▲84歩を誘った局面から始めてみます。
以下、▲84歩△同歩▲同飛△83歩に対する先手の飛車の引き場所ごとに、後手はどういう指し方が適しているかを検討していきたいと思います。
(1)▲86飛
相振り飛車では最もオーソドックスな引き場所でしょうか。ただ実は、引き角のラインに当たってしまうというわかりやすい弱点もあります。
後手は▲86飛に反応して、△54歩と突いて△42角を見せます。この手を指しておくと先手が▲66角型を選んだ時に△55銀と出る事ができますし、▲55角も消えます。
また、先手が▲75歩を突くと△31角と覗かれた時に何か受けなくてはなりませんので、先手は▲75歩が指しにくくなっています。
上図の局面で▲76銀なら、△55銀と出て、次に△36歩▲同歩△66銀▲同角△36飛の十字飛車が視野に入ってきます。
▲76銀に代えて▲76飛△82玉▲65歩なら、△53銀▲86角△64歩▲同歩△同銀▲77桂△65歩のように、先手の大駒を押さえ込みに行く構想が考えられます。
このような感じで、▲86飛型に対しては△54歩と突く事で、後手が先手の駒組を牽制できそうです。
(2)▲85飛
いわゆる高飛車の位置で、後手は迂闊に駒を五段目に出しづらくなります。
しかし、▲65歩や▲75歩など、先手が突きたいはずの歩を突くと、高飛車の横利きは止まってしまいます。先手の銀や桂馬が跳ねていく際の邪魔にもなりそうです。
つまり、この場合の高飛車はその名のイメージに反して守備的な構えで、ある一定の時間まで後手の動きを牽制しておくのが主目的と言えそうです。
後手としては、△14歩などで様子を見ながら駒組を進めるのが自然でしょうか。下図のような局面までくると、先手は▲65歩や▲75歩を指さずにはいられなくなってきます。
仮に、▲98香などと指し、あくまでこの構えを崩さないなら、△35銀▲55飛△25桂と跳ねた手が飛車取りに入ります。
以下、▲85飛△16歩▲同歩△17歩▲同香△同桂成▲同銀△84香のように高飛車を咎めに行って後手十分です。
(3)▲88飛
定位置に戻ってきた場合です。居角のラインに入ってしまいますが、B面攻撃には強い位置と言えます。また、▲86角のような活用も可能になります。
以下、△33角▲65歩に対して、後手の指し方で分岐を見ていきたいと思います。
(A)▲76歩型に対する△64歩
#1と#2で、この△64歩からの仕掛けの検討した時は▲86飛型でしたが、▲88飛型では変わってくるのでしょうか。
(ア)▲64同歩△55銀
▲56銀は△66銀で後手よし。▲88飛型のため▲88角と引くことすらできません。
▲56歩は▲86飛型と違いはなさそうです。
(イ)▲56銀
△65歩に▲同銀は、△55銀が▲86飛型の時よりも有力になります。次の後手の△66銀の狙いに対して、▲75歩で飛車の横利きを通して受ける手がないため後手十分です。
△65歩に▲75歩の変化も同様で、△63金▲65銀に△55銀で△64銀や△66銀を見せられると、先手がやや不満でしょう。
△65歩に▲64歩が、後手としては工夫を求められるパターンです。▲86飛型の時と同様に△54歩▲65銀△55歩では、▲86角がぴったりの手になります。▲63歩成~▲31角成は△53銀と引けば受かりますが、前回のように△64銀とはできません。
この▲86角が生じるのは、▲86飛型ではないがゆえになります。
そこで、▲64歩に後手は△82玉と入城して一手待ちます。▲65銀には依然として△55銀と出る手が次に△66銀の先手で入ります。▲75歩には△66歩が手筋で、▲同角に△54歩を突き、△55銀のぶつけを狙います。
という事で、▲88飛型での▲76歩型に対する△64歩からの仕掛けは、△55銀が△66銀の先手になるため、後手が少し指しやすい変化が多くなっているようです。
また、一応調べてみましたが、▲75歩型でも▲76歩型と同様の変化になるようです。
(B)2筋を伸ばして棒銀に行く
▲86飛型の方が受けの形としては勝りますが、▲56歩+▲68角型さえ間に合えば、後手が棒銀に行けないのは変わりません。
(C)5筋から攻める
△56歩を▲同歩と取りづらい(△79角成が飛車に当たる)のは確かですが、△45銀▲55角△54飛に▲77角と引けば、後手は銀交換以上は難しいところです。
以下、△56歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛▲67金△54飛▲55銀△84飛▲85歩△34飛▲46銀が一例で、次に▲26歩から大駒を圧迫する筋を見せられると、後手が少し指しにくそうです。
という事で、今回は先手の飛車の位置ごとに定性的な違いを見てみました。
▲27飛型もある形ですが、少しマイナーだと思いますので、ひとまずここでは扱いません。
この#5まで色々な変化を見てきましたが、いまだ向かい飛車に対する後手の明快な対策は見つかっていない状況です。
いっそ早々に矢倉に組むのは一案ですが、受けに回る展開になる事が予想されるので、実戦的に採用したいかは微妙なところでしょうか。
流石と言うか、ここまで手強いのかと正直引いてるところですw
ただ、ここまでの検討の中でわかってきた事もありまして、少し箇条書きしてみます。
・先手が▲75歩+▲65歩型まで行くと、先手の飛車と角の利きが強すぎて、後手が実戦的に勝てる気がしない。
→先手の駒組を何らかの手段で制限する必要がありそう。
・▲74歩~▲55角みたいな筋が美濃的にはやっぱり厳しい。
→5筋を突いて、▲55角という符号を消したい。
・金無双は速攻では潰せない。
→しっかりと飛角銀桂を活用できる形まで準備する必要がある。
こういった感触を考えつつ、次回は先手がそもそも▲65歩を突けないようにする指し方について見ていきたいと思います。