前回の記事の第三図(△43銀まで)から、▲45歩と仕掛ける手を検討していきます。

 

 

これは「一撃!対振り飛車へなちょこ急戦」でも解説されている仕掛けです。ちなみに、放っておくと▲44歩△52銀(▲同銀は▲45歩で銀が取られる)▲45銀で押さえ込まれます。

 

△同歩には▲同桂△15角▲27飛で次に▲16歩で角が死ぬため、△41飛で△51角を作りますが、▲24歩と突かれます。

 

△同歩は▲16歩で論外。△同角は▲54歩△同銀▲22角成で次に▲23馬が厳しく、飛車が押さえ込まれそうです。居飛車よしです。

 

 

▲24歩を手抜いて△44銀で桂馬を取りに行くのは、▲23歩成△45銀▲32と△36銀▲41と△27銀成で飛車を取り返せますが、▲25飛△37角成▲21飛成が一例で、居飛車十分です。振り飛車は23の成銀が居飛車玉に遠いのが辛いところです。

 

 

従来の「5筋位取り」の局面であれば、△41飛や△12香等が事前に入っているため△45同歩が推奨手になるのですが、へなちょこ急戦では悪手です。

 

この辺がへなちょこ急戦の主張である「仕掛けの早さ」のメリットであり、局面の定性的な違いの1つになります。

 

そこで振り飛車は△45同歩に代えて、△54歩で位に反発するのが本線です。今度▲44歩△同銀▲45歩には△55銀と出る手があり、振り飛車よしになります。この△54歩から、また分岐を見ていきます。

 

 

(1)▲16歩

 

△15角を消す意味はありますが、この場合はほぼ手待ちです。振り飛車は△55歩▲同銀に△35歩で桂頭を狙います。

 

 

▲26飛△54歩に居飛車は分岐点ですが、▲46銀なら△45歩で角交換を挑み、▲66銀なら△34銀で振り飛車が盛り返せます。

 

▲24歩△同歩▲44銀と切り込んでくるなら、△同銀▲同歩に△同飛(△同角も有力)▲同角なら△同角が先手のため、振り飛車がターンを握れます。

 

 

以下、▲41飛△99角成▲88銀△98馬▲99銀打には△89馬▲同玉△97香が鋭く、▲同銀なら△77桂があります。▲41飛に代えて▲88銀なら、△36歩▲同飛△35銀▲56飛△38角で飛車を狙っていきます。

 

 

(2)▲同歩△同銀▲55歩

 

5筋の位を確保しようとする手です。穏やかに指すなら△43銀で、▲44歩△同銀▲45歩に△53銀と引けるようになっていますので、すぐには潰れません。

 

少し激しくいくなら△65銀で△76銀を狙います。この場合、▲同銀△同歩はほぼ必然です。

 

 

振り飛車は次に△46銀(桂取り)から△56歩や△57歩▲59金△47銀成などを狙えますので、居飛車はこの手番で攻めを継続します。

 

▲54銀は△73金とかわされると今ひとつ。▲45桂のような追撃ができない状態では指しすぎです。

 

▲54銀に代えて▲24歩には△同角(下図)が正解で、次に△56歩と垂らすような手を狙っています。▲68銀には△56歩と垂らして△57銀を狙います。▲35歩は△同歩で良く、▲26飛△57歩(▲同金なら△36歩が金桂両取り)▲68金△58銀(△15角もある)です。

 

 

 

(3)▲24歩

 

先手が急戦党なら、本線はこの手でしょうか。

 

まずは△同歩の場合ですが、▲35歩△同歩▲44歩に△同銀は、▲34歩△22角▲24飛△36歩▲43歩△52飛▲45桂△55歩▲33歩成(下図)が一例で居飛車よし。△同桂には▲44飛で、居飛車が捌け過ぎです。

 

 

△44同銀に代えて△44同角なら、▲24飛には△22歩で、△36歩も残っているので意外と耐えれます。しかし、▲45銀と出られると、△33角▲34歩△55角▲同角△同歩▲24飛が一例で、振り飛車の主張が乏しく、やはり居飛車が指せます。

 

 

そこで、▲24歩には△同角と応じます。このへなちょこ急戦流の「5筋位取り」の仕掛けでは、▲24歩は基本的に△同角で取るのが正解になります。

 

この時、▲55歩型によって居飛車の角道が止まっているのが逆にデメリットになっており、居飛車側が咎めにいくまで時間がかかります。また、先程も出てきましたが、将来的に△56歩のように垂らす手も見ています。

 

 

この△24同角が振り飛車にとって本線の変化ですので、詳しく分岐を見ていきます。

 

(A)▲54歩

 

5筋を取り込んできた場合です。放っておくと、▲55銀~▲44歩で押さえこまれます。

 

△同銀▲44歩(次に▲55歩△65銀▲同銀△同歩▲54銀△73金▲43歩成)と取り込んだ手に、△55歩(△35歩も有力)を自ら打ち、▲同銀△同銀▲同角に△56歩と垂らします。AI的には形勢互角ですが、実戦的に振り飛車が指しやすそうです。

 

 

(B)▲44歩

 

4筋を先に取り込んだ場合です。

 

△44同銀▲45歩は△55銀▲同銀△同歩▲同角に△57歩(下図)▲68金寄△58銀で振り飛車よし。ちなみに、△57歩に代えて△56歩も有力ですが、上の図と比べると、居飛車の角のラインが通っていますので、少し急ぐ手を選ぶ方が有力なようです。

 

 

▲45歩に代えて▲43歩は、△同飛▲24飛△同角▲32角のような強手を作る意味がありますが、飛車切りはこの局面では少し無理筋。△42飛▲21角成△55歩くらいで振り飛車が有利に戦えます。

 

そこで△44同銀には、▲54歩として△55銀を消しつつ5筋に嫌味を作ります。そこで△55歩が好手。盤上で存在感の大きい▲56銀に働きかけるのが効果的です。

 

 

▲55同銀△同銀▲同角は△49飛成で振り飛車よし。▲47銀なら△46歩▲38銀△54金で振り飛車十分です。

 

△55歩には、▲同銀に代えて▲43歩△同飛(後の▲44歩が飛車に当たる)を利かせた後、▲45歩から攻め合います。

 

以下、△56歩▲44歩△41飛▲45桂に△54金は有力。また、代えて△57歩成▲53歩成(下図)のような攻め合いも想定されます。

 

 

この場合、△58とに▲63とは△69と▲72と△同金に対して、△69とを取る手段が▲69玉しかなく、居飛車玉がかなり危険な形になります。

 

よって、居飛車は△58とに▲同金と手を戻します。以下、△73金▲43歩成には△57歩▲68金寄に(ぶっちゃけ実戦で打てるとは思えませんが)△59金(下図)が妙手。△58歩成▲同金△69銀が意外と受けづらく、振り飛車よしです。

 

 

現実的には、△59金に代えて△58金だと思いますが、▲52と右だと△45飛がありますし、▲52と直では△43飛▲61と(▲53桂成なら△同飛▲同と△56桂)△同銀で一旦すっきりするため、居飛車のと金は意外と動かしづらく、振り飛車まずまずでしょう。

 

 

(C)▲68金寄

 

「一撃!対振り飛車へなちょこ急戦」で紹介されている研究手です。△56歩に対して▲58歩の受けを用意したり、△57歩等からの金の当たりを弱くしている意味があります。

 

この手に対する自分の使っている将棋AIの言う最善手は△75歩で、▲同歩と取らせた後、△35歩から仕掛けたいそうです。7筋の突き捨ては、後に△76歩と垂らして77からガジガジ行く展開を狙っているようです。

 

しかし、実戦的には▲74桂とかの傷になりますし、▲68金寄を見ただけでは、普通ここにアマチュアの手は伸びないでしょう。

 

そこで、▲68金寄には△84歩と指しておきます。囲いが広くなるだけでなく、後の▲85桂を消したり端攻めに強くなる意味もありますので、振り飛車にとって自然な手です。

 

 

この手に対して、先程の(A)や(B)のような仕掛けを行うとどうなるかを見てみます。

 

(ア)▲54歩

 

△同銀▲44歩に先程は△55歩と打ちましたが、今回は▲同銀△同銀▲同角△56歩に▲58歩がありますので、有効手になりません。

 

そこで△55歩に代えて△46角と出ます。この手に対して、▲58金型であれば▲47金が先手を取るぴったりの受けでしたが、今回はそれがありません。これが▲68金寄のデメリットの1つです。

 

 

受けるなら▲27飛くらいですが、△55歩▲47銀△24角で次に△46歩や△44飛が残り、振り飛車十分です。この△55歩が打てるのが△46角と△15角の違いです。

 

▲27飛に代えて▲55歩で攻め合うなら、△37角成▲23飛成△22歩▲34竜△38馬▲31竜△41歩のような展開が予想されます。形勢は難解ですが、振り飛車陣の堅さと広さを見れば、やや振り飛車持ちでしょうか。

 

 

 

(イ)▲44歩

 

比較のため、(B)と同様の変化を想定します。

 

先ほどは▲45桂に対して、△54金と△57歩成があるという風に書きました。しかし、▲68金寄の一手が入ったことで、△58と▲同金~△57歩と手順に拠点を作る順がなくなったため、▲45桂には△54金の一択になります。

 

 

ただ、それで先ほどよりも格段に形勢が悪くなったとかではなく、攻め合うという選択肢がなくなっただけです。

 

次に振り飛車から△57歩成がありますが、歩切れのため▲58歩を打てません。

 

忙しい居飛車は▲24飛△同歩▲32角と飛車を切って暴れてきますが、△51飛▲42銀△52飛▲43歩成△42飛▲同と△45金▲54角成△57桂でどうか。

 

 

▲45馬は毒まんじゅうで、△69桂成▲同金△48飛で王手馬取り。▲58金上なら△69銀▲同金△同桂成▲同玉△57金と噛みついて振り飛車よしです。

 

 

という事で、へなちょこ急戦流の5筋位取りからの仕掛けを見てきました。

 

▲24歩に対して△同角と取るのが一番の急所で、それ以降の変化では互角以上に戦える局面が多い印象です。

 

▲68金寄は実戦的な研究手ではありますが、△46角と出やすくなったりもしますので、△56歩に▲58歩を用意している等の理屈さえ理解した上で自然に指せば、そこまで脅威に感じる手ではないと思います。