前回の続きです。
△65歩に▲57角と逃げた場合の応手として、△73銀を考えていきます。
△73銀は部分的には矢倉への組み換えに見えますが、真の狙いは△64銀型を作る事にあります。これはミレニアム対策でも推奨した形です。
△64銀型になると、△65歩が比較的安定しますし、7筋や5筋で振り飛車から戦いを起こす事ができるようになります。
▲77桂△64銀▲29飛には△75歩▲同歩△72飛と桂頭を狙って先攻できます。ここを攻めると居飛車的には桂が狙われている上、角のラインも止まりますので、地下鉄飛車の構想はとん挫するでしょう。
そこで、▲29飛に代えて▲86歩と突いてみます。
この▲86歩はなかなかわかりづらかったのですが、▲87銀を作った意味の他に、将来の△85桂のような手を消す意味もあるのだろうと思います。この場合、7筋を攻めて桂馬を取れても響きが薄いかもしれません。
そこで今度は△52飛と回り△55歩を狙います。この時、▲57角型なので角への当たりが強いのと▲57金上のような手が消えているのが、▲48角型との違いになります。下図を第二図(△52飛まで)として、ここからの居飛車の応手を見ていきます。
地下鉄飛車志向のアマチュアは、へなちょこ急戦に限らずそれなりにいると思うので、その対策としても第二図はいい例題なのかなと思います。
(A)第二図から、▲24歩△同歩▲45歩
△同歩は▲同桂△22角▲24角(次に▲42角成~▲22飛成)△23歩▲46角△44歩▲64角▲53銀△45歩が一例で、居飛車ペースでしょう。居飛車の右桂に捌かれては、振り飛車が勝ちづらいです。
そこで▲45歩には△75歩と反撃します。▲24角△同角▲同飛には△23歩でもすぐには潰れませんし、△15角▲27飛△26歩のように先手を取る手段もあります。
▲87銀と受ける手には、△76歩▲同銀△55歩と突き、▲同歩なら△45歩と取った手が△55角を作って振り飛車十分です。
(B)第二図から、▲29飛
あくまで地下鉄飛車を目指そうという手です。振り飛車としては、仕掛ける前に△72金のように引き締まっておく手もあるのですが、▲98香~▲99飛が間に合うと▲95歩の仕掛けを許してしまいますので、△55歩と仕掛けたいところです。
▲同歩△同銀にも、居飛車は▲98香と地下鉄飛車を目指します。ここで△56銀と突っ込めば銀交換はできますが、それ以上がありません。
△42角と引くのが急所の手です。△86角を防ぐ▲87銀が自然ですが、△56歩▲48角と押さえた後、△64角と出て△46銀を狙います。
▲99飛なら、△46銀▲同銀△同角▲47歩△68角成▲同金△57銀が一例で振り飛車よし。これは中飛車の勝ちパターンに入っています。
▲99飛に代えて、▲65桂と跳ばれる方がいつでも▲53歩で飛車を押さえられてしまうため、中飛車から見ると嫌な手かもしれません。
振り飛車は△54金と出て、この桂馬を取りに行きます。▲53歩△62飛▲66歩なら、△同銀と噛み千切ります。▲同角△65金に角が逃げるようなら△66桂が刺さりますし、▲67歩なら△55桂と追撃して振り飛車よし。▲38銀には△66金▲同歩△67歩▲69金△57角のようにガジガジやっていきます。
次に、△42角に対して▲87銀も指さずに▲99飛から地下鉄飛車の仕掛けを目指してみます。
振り飛車が△86角と出たところで居飛車は▲95歩から仕掛けますが、以下△同歩▲93歩△同香▲同角成△同桂▲95香には△97歩で受かります。△42角~△86角の動きには、端攻めへの受けの意味もありました。
(3)▲48角
「地下鉄飛車志向」の最後に、△65歩に▲48角と引いたケースについて見ていきます。
▲57角型と比べると、▲37桂に事前にひもがついている点(△15角が無筋)や振り飛車の5筋からの攻めに対して強い(角への当たりが弱い)といったメリットがある一方、▲24歩~▲45歩の引き角のラインを使った仕掛けがやりにくいというデメリットもあります。
振り飛車は、▲57角型の時と同様に△73銀▲77桂△64銀と進めます。次に△75歩からの攻めがありますので、居飛車は何らかの対策が必要です。
ここから、居飛車の対応ごとに場合分けしていきます。
(A)▲86歩
先程は中飛車から仕掛けましたが、▲57角型の時と違って△56歩が角取りで入らないため、居飛車の地下鉄飛車の▲95歩の仕掛けが間に合ってしまいます。
そこで、振り飛車は△75歩▲同歩△72飛から攻める事にします。ただ、居飛車も▲57角型の時は▲45歩から反撃できましたが、今回はそれがありません。
△72飛に対して▲87銀は、△75銀~△76歩の直接的ない受けにはならないので、△75銀と出て振り飛車が好調です。
この形の場合、△75銀に▲65桂(▲73歩で飛車を止める手を用意)と跳ねる手が部分的によく出てくるのですが、むしろ▲87銀型の方が△86銀の開き王手が銀にも当たるため、攻めやすくケースまであります。
そこで、こうした開き王手の筋を避けるためにも▲69玉と早逃げするのが好手段になります。
▲69玉には△71飛が最善らしく、▲87銀(後の△76桂をケア)△75銀▲65桂△64歩▲72歩△同飛▲73歩△同桂▲53桂成△同金▲75角△65桂の角取りが、歩切れのために妙に受けづらいです。
▲66角では△76歩と垂らされるので▲76銀打と受けますが、△84桂と追撃して振り飛車よしです。
△71飛は高度な印象も受けますが、部分的な形として知っておいた方が良さそうな手です。
(B)▲97銀
△72飛に▲86銀を用意しており、手強い手です。
△72飛▲86銀△42角に対して、▲69玉と▲29飛の変化を考えてみます。
(ア)▲69玉
△75歩と仕掛けて駒交換が行われても、最後△75同飛と走った手に▲86角△71飛▲73歩△同飛▲64銀のように反撃され、玉飛接近の振り飛車が勝ちにくいでしょう。
そこで、△62金上のように陣形を整備しつつ手待ちします。
▲69玉と指したことで地下鉄飛車の構想もなくなり、居飛車としても打開は難しいです。
例えば、▲95歩△同歩▲同銀と端棒銀に行くと7筋の守りが薄くなるため、△同香(すぐ△75歩の方が有力)▲同香に△75歩と仕掛けて振り飛車が優勢です。
後手振り飛車としてはまずまずでしょう。
(イ)▲29飛
あくまで地下鉄飛車を狙う手です。▲78玉型だからといってすぐに△75歩から仕掛けても、やはり互角の捌き合いにしかならないため、玉が薄い振り飛車の分が悪いです。
△43銀▲98香△52銀▲99飛と固めたところで、満を持して△75歩と仕掛けます。ある意味では、先程の局面では△32銀が遊んでおり、実質銀落ちみたいになっていましたが、今度は囲いにくっついているのが大きく、十分戦えます。
75で駒交換になった後の一例として、▲86銀△72飛▲22角△76歩▲65桂に△75銀と合わせるのが好手。▲同銀△同飛で△77銀と△65飛を狙います。振り飛車よしです。
(C)▲66歩
6筋の位に反発する手です。有力ではありますが、もはや地下鉄飛車を目指す感じではなくなっており、△64銀型を選んだ振り飛車としてはこちらの土俵に持ち込んだとも言えます。
▲66歩△同歩▲同金直△75歩▲66金△76歩▲同金△72飛▲67金△75歩▲86金△65歩(下図)が一例で、この変化では振り飛車が位を2つ保持しており、多少気は楽かもしれませんが、ここからも熾烈な玉頭戦が続きます。形勢は互角です。
という事で、地下鉄飛車志向のへなちょこ急戦の将棋を見てきました。
6筋の位を活かした△64銀型や△42角のような活用、袖飛車や中飛車からの攻め等、対へなちょこ急戦の時以外にも使えるような振り飛車の実戦的な変化が色々と見れたと思います。
次は、へなちょこ急戦側が5筋の位を取って仕掛けてくる作戦について、検討していきます。