今回から、へなちょこ急戦の対策を検討していきます。基本図は下図(▲46歩まで)とします。

 

 

基本図で振り飛車が△43銀のように上がると、▲45歩があり得る仕掛けで、△同歩と応じると、▲24歩△同歩(△同角は▲11角成)▲33角成△同桂▲24飛と自然に居飛車に2筋を突破されてしまいます。これがへなちょこ急戦の基本的な狙い筋です。

 

 

ここで△46歩と伸ばす手が先手で入るなら、振り飛車も面白いと思うのですが、▲48銀+▲58金型のために47が厚く、△47歩成が何でもありません。

 

例えば、▲48銀+▲49金型の時であれば、△46歩に▲21飛成と飛び込んでくれば、△32銀▲11竜△47歩成がありますし、一手遅く▲58金右と備えても、△15角▲27飛△26歩▲29飛△22飛のように切り返して振り飛車も勝負できるところでした。

 

ただ逆に言えば、居飛車としても▲48銀+▲58金型の舟囲いは最低限作っておかなければならないわけで、基本図はそういう意味でも妥当かなと思います。

 

 

では、イントロダクションはここまでとして、基本図以下の指し手について、考えていきます。

 

基本図は振り飛車の手番で候補手も広いです。先ほどは△43銀▲45歩△同歩の変化で居飛車よしとしましたが、実際は△43銀もあり得る手です。▲45歩には例えば△54銀と出て△65銀を見せ、飛車先を開けつつ△65銀を見せて攻めを催促する手が有効なようです。

 

 

以下、▲44歩△同飛▲同角△同角▲88銀△33桂▲41飛△55角打が一例で、実戦的には振り飛車も十分戦えると思います。

 

こうした変化を掘り下げるのもありですが、相手に仕掛けを与えるのも少し癪でしょうか。

 

△32銀型であれば、▲45歩からの仕掛けは△同歩で何でもありません(▲33角成を△同銀と取れるし、▲45桂を△同飛と取れる)。

 

へなちょこ急戦の典型的な仕掛けを封じているのは魅力的なので、しばらく△32銀型で待機する指し方をここでは考えていきたいと思います。

 

そこで、基本図から△64歩と突いてみます。

 

 

この図を第一図として、居飛車の方針ごとに検討していきたいと思います。今回はサブタイトルにもある通り、ここから居飛車が持久戦を目指したケースについて見てみます。

 

「急戦」と言ってるのに持久戦を検討するのも変な話ですが、△32銀型には居飛車も仕掛けを躊躇するケースもあると思いますので、念のために対策しておきます。

 

 

(1)▲77角から持久戦志向

 

▲77角から、居飛車が玉を深く囲おうとしたケースです。

 

へなちょこ急戦の場合、仕掛けを諦めて持久戦に移行した場合、右辺に手をかけすぎているのと形を決めすぎな感があり、通常の持久戦に比べると振り飛車が指しやすいかと思います。

 

▲77角以下、△63金▲88玉△74歩に対して、▲98香から穴熊を目指した場合と▲78銀から左美濃を目指した場合を考えてみます。

 

(A)▲98香

 

△73桂▲99玉△43銀と進めます。ここで▲45歩は穴熊が完成していないため無理筋で、△54銀▲24歩△同歩▲44歩で次に▲43歩成△同飛▲33角成△同桂▲24飛を狙っても、△95歩▲同歩△97歩▲同香△85桂(下図)で振り飛車優勢です。

 

居飛車の攻めの要である▲77角をいじめて、居角のラインから外れれば△44飛のように取る手も生じてきます。

 

 

よって、△43銀に▲88銀と穴熊のハッチを閉めますが、△54銀と出て△65銀~△76銀を見せます。これを受けるなら▲66歩が自然ですが、振り飛車に攻めのターンが来ています。

 

色々な筋がありますが、シンプルに△65歩から行ってみます。▲同歩△同銀に△76銀を受けるなら▲67金くらいですが、△66歩▲同金(▲68金は△85桂(単に△76銀は▲66角で損)▲86角△76銀)△同銀▲同角△65金▲77角△95歩と休まず攻め続けます。

 

 

以下、▲同歩△76金▲59角△97歩▲同香△85桂が一例。どこかで△45歩で角道を開ける手が残っています。振り飛車よしです。

 

 

(B)▲78銀

 

△73桂に▲86歩で銀冠や天守閣美濃を目指す手が自然ですが、それに対して△84歩と反応するのが、いつでも△85歩から仕掛けられるようにする実戦的な好手です。

 

 

この手の応手として、▲66歩と▲87銀を考えてみます。

 

(A)▲66歩

 

いきなり△85歩と仕掛けます。▲同歩なら、△同桂▲68角△45歩▲同歩△65歩▲86歩△66歩▲98玉△88歩が一例で振り飛車よしです。

 

 

よって△85歩は取れません。▲67金と上部に厚く構えるなら、△86歩▲56歩(△65歩に▲57銀を作る)△83銀▲86角△82飛が一例で振り飛車まずまずでしょう。ここからは、対左美濃で扱ったように棒銀で攻め潰す事を目指します。

 

 

(B)▲87銀

 

銀冠を目指した手ですが、これにも△85歩と仕掛けます。▲同歩△同桂▲66角(▲86角とかなら△45歩)△65歩▲55角が香取りで入るため△45歩と突きます。代えて△73銀のように受けると▲78玉で角道を避けられ、チャンスを逃します。

 

 

▲33角成△同桂に▲86歩は△44角▲98玉△88歩で振り飛車勝勢。

 

よって、▲78玉のようにラインを避けたくなりますが、やはり△88歩が刺さるため振り飛車優勢です。以下、▲同玉なら△44角▲98玉△95歩▲同歩△46歩で次に△97歩を狙います。▲97桂なら△同桂成▲同香△89歩成▲同玉△77桂です。

 

 

したがって、△85歩には▲78金と銀冠を作るのが一案です。振り飛車は△83銀と出て、△82飛からの棒銀を目指します。

 

 

居飛車としてもその構想を黙って見ていられないですし、一歩を持ったので▲35歩と仕掛けていきます。

 

ただ、振り飛車が2歩持つと、すぐに△85歩▲97銀△75歩(▲同歩は△76歩)の仕掛けがありますので、居飛車としてもギリギリの仕掛けです。

 

▲35歩に△43銀と△同歩の比較は難しいところです。△同歩に▲34歩を打たれても△22角▲24歩△同歩▲同飛△23歩で△32銀型が活きて、すぐには2筋を突破されません。

 

ただ、△43銀の方が少し突っ張った受け方ですので、△同歩と応じた方がわかりやすいかなという印象です。

 

▲35歩に△同歩▲34歩△22角▲24歩△同歩▲同飛△23歩▲26飛(△36歩を受ける位置)△85歩▲97銀△75歩は妥当な変化の一つかと思いますが、この△75歩が受けづらく、振り飛車が少し指しやすいでしょう。

 

 

 

ここまでの変化を見ると、左美濃~銀冠を目指す場合は▲88玉の一手がそもそも危険だったようです。

 

しかし、▲77角△63金以下、▲88玉に代えて▲86歩を選んで△84歩▲88銀△74歩▲87銀△73桂(下図)と進め、▲88玉を後回しにしてもあまり状況は変わらず、ここで▲88玉なら△85歩があります。

 

 

かと言って、▲56歩~▲57銀のように中央に備える手には△65桂の両取りがありますので、▲66歩を突く事になりますが、それなら振り飛車は△43銀~△54銀から△65歩を狙います。

 

こうした事情から、へなちょこ急戦のオープニングで持久戦に切り替えても、あまり居飛車にとって嬉しい効果はないようです。

 

次回は、先日発売された「一撃!対振り飛車へなちょこ急戦」で紹介されている四間飛車対策についても検討していきたいと思います。