今回は、自分が最近考えてい中飛車の作戦について、書いてみたいと思います。

 

自分は中飛車党ではありませんが、戸辺先生の本など数冊は読んでいます。

 

それらの本の中にはない思想の作戦だと思いましたので、タイトルに「新型」とか付けてみたのですが、中飛車党的には一般的な作戦だったら申し訳ありません(後日追記:実は、菅井先生の実戦集には出てくる形のようです)。

 

 

最初に前置きしておきますが、この記事には5筋位取り中飛車に対する、批判的な内容を含みます。

 

自分は中飛車が嫌いなわけではなく、むしろ今から中飛車をやりたいと思っているのですが、5筋位取り中飛車については違和感がありますので、率直な考えを書かせていただいています。

 

そういう内容を見るのが嫌だという方は、この先を読まない事をお勧めいたします。

 

ただもしかすると、この指し方が、現状の先手中飛車にとって最も難敵とされる「後手超速」を封じる作戦になり得るかもしれないと、個人的には思っています。

 

もし中飛車党の方で、後手超速に苦しんでいるという方は、騙されたと思って、ご一読いただければ幸いです。

 

 

 

 

では、本題に入ります。

 

この前、先手番の時に、初手▲76歩に対して2手目△84歩としてきた時の戦法選択について、少し悩んでいるという記事を書いた事がありました。

 

その時は、「先手中飛車を検討しているが、▲55歩型が負担になりやすく、左金が囲いに寄せづらいなどあり、ちょっと抵抗がある」という事を書きました。

 

そこで考えたのですが、無理して5筋の位にこだわらず、いっそずっと▲55歩を保留し続ける指し方もあるんじゃないか?と思いました。

 

要するに、▲56歩型をしばらく保持し続ける、角道オープン型の中飛車です。

 

 

振り飛車陣だけを見れば、居飛車が△54歩で5筋位取りを拒否してきた時に出てくる形だと思いますが、それを△53歩型でもやってみようという事です。

 

まあ、角換わりの▲25歩保留型の親戚みたいなもんでしょう(違う)。

 

実は、王将戦第三局の角道オープン向かい飛車から、インスピレーションを受けたりしています。

 

△84歩型でも向かい飛車に振っていいなら、△53歩型でも中飛車で角交換型を目指してもいいんじゃないか?という発想です。微妙にかみ合っていませんがw

 

この▲55歩を保留する指し方は、後手超速や角道不突左美濃の対策として推奨される形ではあります。それらの作戦では、普通は△34歩に▲55歩と指します。

 

しかし、今回考えているのは、△34歩にすら▲55歩と指さない形です。

 

 

なぜこういう指し方をやりたいかと言うと、大きな理由は3つあります。

 

1つは、中飛車党ではない自分としては、率直に言って、▲55歩型自体が中飛車にとってメリットではなく負担になっているように見えるからです。

 

中飛車にとって問題なのは、超速の仕掛け自体もそうですが、「△64銀型」という形そのものなのではないでしょうか?

 

5筋位取り中飛車のアイデンティティである▲55歩にプレッシャーがかかるだけでなく、▲54飛と走った時に、△55歩でフタする手さえ狙えます。厄介な事、この上ないでしょう(この前書いた左穴熊対策の記事でも、△44銀から▲55歩を狙っていく速攻の筋をご紹介しました)。

 

だとすれば、△34歩をトリガーにして▲55歩を突いても、△64銀型に組まれている場合、あまり変わりがないように思います。

 

それに、▲54歩を突くタイミングもいちいち難しいです。なんなら、二枚銀にプレッシャーをかけられて取られそうだから、仕方なく▲54歩と突くケースすら見かけます。▲54歩を突くタイミングくらい、中飛車の権利でなくてはおかしい気がします。

 

また、5筋が切れたら切れたで、いきなり角道オープン型の将棋になるため、角交換に備えていない形では▲54歩と行きづらかったり、とにかく実戦的に色々と難しいのです。

 

こういったわけで、▲55歩型がメリットどころか実戦的な負担になっている印象があります。だから、ある一定のタイミングまで、▲56歩型のままで戦ってもいいように思います。

 

中飛車の素人である自分の感覚としては、最初から角交換するつもりで、ずっと▲56歩型にしておいた方がわかりやすいです。角道オープン状態がずっと続くため、逆にその方が攻撃的な思想の可能性もあります。

 

 

2つ目の理由は、「角交換型中飛車」が有力に思えるからです。

 

中飛車戦法の本質的なメリットは、左右両側で隙なく駒組できる事だと思います。

 

そうした「バランス」の取りやすい陣形が活きるのは、角交換型の将棋ではないでしょうか?

 

▲78金+▲59飛型も角交換型の方が自然な好形でしょう。▲77角がいない方が▲66銀+▲77桂型のような好形にも組みやすい面があります。

 

また、戸辺先生の中飛車の本でも、角交換型の将棋の方が中飛車的に楽しい変化が多い気がしました。

 

▲56歩型で、角交換型を含みにバランス重視の中飛車を目指す指し方は、あってもいいと思うのです。

 

 

3つ目の理由は、1つ目の理由とも少し被りますが、▲55歩型を決めない事で、超速的な△64銀型からの急戦に対応しやすくなると思うからです。

 

先ほども言及しましたが、後手超速や角道不突左美濃対策では、▲55歩を保留する指し方は普通にあります。

 

また、▲56歩型であれば、そもそも角道が常に開いているため、いざとなればこちらから角交換してしまえば、居飛車の急戦はおおむね問題ないと思います。いざとならなくても、こちらから交換してもいいです。

 

居飛車に急戦の意志なしと見れば、機を見て▲55歩と突いて、5筋位取り中飛車の形で指すのもありでしょう。

 

なんなら、▲66歩と突いて、ノーマル振り飛車風に指しても一局でしょう。

 

もちろん、振り飛車からの角交換と▲55歩、どちらも保留し続ける指し方もありです。

 

まるで「振り飛車のデパート」のように、様々な形に無理なく変化しやすいのも、この作戦の大きな売りです。

 

急戦を封じられた居飛車は持久戦志向になるかもしれませんが、角道オープン型の対抗形では穴熊を目指しにくいですし、△44歩と角道を止めるなら、そこで振り飛車に「主導権」が移ります。

 

また、そもそも△22角がいなくならないと深く囲えない事もあり、居飛車から角交換してくる可能性も十分あります。可能であれば、居飛車から角交換してもらいたいところです(手損しないため)。

 

そんな流れで角交換が行われた後、その角交換の直後に▲55歩と指して、▲54歩を狙う将棋に切り替えます。5筋が切れて好形に組めた一例が下図(▲77桂まで)です。形勢は互角ですが、こうした陣形まで組めれば、角交換振り飛車は楽しいでしょう。とりあえず、振り飛車陣の陣形が美しすぎますw

 

 

では、序盤のオープニングの手順を具体的に少し見てみます。

 

初形から▲76歩△84歩に3手目▲77角と指しておき、△34歩には▲68銀(△77角成に▲同銀を用意)のように対応します。以下、△85歩▲56歩△62銀▲58飛がスタートの一例です。

 

 

余談+考え方次第かもしれませんが、厳密には3手目▲68銀の方が有力な可能性もあります。後手に先手が矢倉指向だと思わせた方が、実戦的に有効な可能性は少しだけあると思います。

 

3手目▲77角だと、後手に先手が振り飛車指向だと悟られる可能性が高まります。また、△54歩型に対して、戸辺先生の本にあるような中飛車から角交換する形にしようとした時、仮に居飛車が△85歩を決めてきていないケースでは、▲88角型のまま角交換に行けるので、▲77角と上がった場合よりも一手得の勘定になります。

 

ただし、先手が5手目に向かい飛車に振るような余地が消えてしまうデメリットはあると思います。

 

ちなみに、先程のスタートの一例の手順中、△62銀に代えて△77角成▲同銀△57角には▲66角△同角成▲同歩で大丈夫です。

 

ただ、この筋によって▲66歩型を強要されており、67に空間が出来てしまいますので、このケースで中飛車にするのは、少しためらわれる面もあります。

 

すぐに▲58飛と振ると△67角がありますので、67をカバーしようとして▲78金型を作ってから振るのが自然ですが、その陣形で▲54歩△同歩▲同飛と走ると、下図のように△45角と打たれてしまうかもしれません。

 

この局面では真の両取りではなく、▲58飛で受かりますが、△57歩▲68飛(▲同飛は△78角成)のように進んでも、あまり気分は良くありません。

 

 

そこで、▲66歩型を強要された場合は、角交換振り飛車の通常の定位置である、向かい飛車に振る方がいいかもしれません。

 

 

▲66歩型になっているために、▲66銀と出ていく形は目指せませんが、△44角のような自陣角のラインに対して強くなっているというメリットもあり、逆棒銀がやりやすくなっています。

 

居飛車から角交換してきた上、△57角以下の筋によって、手順に▲66歩型になっていますので、手損どころか手得しており、居飛車の逆棒銀への対処も少し遅れがちになります。

 

 

 

ここまでは先手番でのオープニングの検討ですが、この作戦のセールスポイントの1つとして、後手番の時にも目指せる可能性がある事もあります。

 

具体的には、初形から▲26歩△34歩▲25歩△33角として、先手が後手の△33角を強要してきたケースにおいて、目指せる可能性が高いと思われます。▲76歩には△42銀と指します。

 

ここで▲48銀のような手なら、△54歩~△52飛で今回想定している形に合流できます。△54歩の時、▲33角成△同銀▲53角には△55角で駒得できます。

 

 

また、▲48銀に代えて▲78金(又は▲68玉)のような手で、△55角に受けがあり得る形になっても、構わず△54歩と突く手があります。

 

先ほどの先手番の時にも言及しましたが、▲33角成△同銀▲53角には△44角と切り返せます。▲同角成△同歩に、▲43角は△32角、▲53角は△42角で対応できるため、先手が指しすぎです。

 

 

通常のゴキゲン中飛車のスタート(▲26歩△34歩▲76歩△54歩)の場合は、△55歩を保留するのは少し無理そうなのですが、(以前、記事にもしましたが)通常のゴキゲン中飛車を封じようとして、居飛車側が「3手目▲25歩+5手目▲76歩」のスタートを選択した場合は、逆にこの作戦を使いやすいようです。ある意味、後手ゴキゲン中飛車と補完的な関係にあるとも言えます。

 

 

という事で今回は、まだ検討段階の作戦ですが、▲56歩型の角道オープン中飛車(△34歩にも▲55歩を突かない)について、ご紹介しました。

 

もちろん、まだオープニングを適当に考えたり理想形を描いたりしてるだけで、具体的に急戦が本当に大丈夫なのかどうかなど、戦法としての定跡は全くできていません。

 

ただ、今の時代、AIに頼れば、ある程度の定跡を作る事は、アマチュアでも不可能ではないでしょう。また、従来からある△54歩型に対しての指し方を参考にする事もできそうです。

 

また、一応、単純に手数だけを考えれば、先手番でこの作戦を採用する場合、とりあえずは以下のように分類できるようです。

 

・5筋の歩を切れる場合

先手中飛車の「対△54歩型」の5筋を切れるパターンに相当

 

・5筋の歩を切れない場合(△63銀型などを居飛車が用意した場合)

後手ゴキゲン中飛車の「対丸山ワクチン」に相当

 

つまり、途中経過はともかくとして、現状存在する定跡や指し方を応用する形で、この作戦を採用することは十分可能だと思われます。

 

現実に、菅井先生の実戦例もあるくらいです。しかも、菅井先生は後手番で採用しています。決して、変な作戦ではないという事です。

 

5筋の歩を切れない場合、後手番での形と合流してしまうのは少し不満ですが、現状、先手中飛車にとって最も厄介な相手であろう「後手超速」の将棋を回避できるだけでも、十分価値のある作戦だと思いますし、先手でも後手でも中飛車をやるという方にとっては、殆ど新しい準備をする事なく取り入れられる作戦ではないでしょうか?

 

しかも当たり前ですが、▲55歩と指して、5筋位取りの形に戻す権利はこちらにあります。

 

藤井システムは、いつでも通常の四間飛車の形に戻せるのが売りの1つですが、それと同じです。

 

中飛車党が、今までの指し方の経験を活かしつつ、無理なく後手超速を封じられることに、この作戦の本当の価値はあると思います。

 

 

では、今回の記事について、補足を交えながら少しまとめておきます。

 

中飛車の現状の難敵は、持久戦よりも急戦だと思います。

 

5筋位取り中飛車(通常のゴキゲン中飛車)は攻めを志向する形なのでしょうが、特に急戦の場合、その位が負担に見える面もあり、△64銀型が厄介な相手になるケースが多い印象です。

 

その△64銀型に対して、中飛車は▲66銀型で対抗する形を推奨されがちですが、中飛車使いではない自分から見ると、かなり不満な形に見えます。

 

なぜなら、ゴキゲン中飛車は攻める戦法のはずなのに、▲66銀型では居飛車の仕掛けを封じる事に重きを置いているからです。結果的に角の利きが二重で止まる形になり、角が捌きづらく、戦法としてのわかりやすさやメリットをあまり感じません。

 

とはいえ、英ちゃん流のような▲57歩型も少し守備的で現代調ではありませんし、攻める方が勝ちやすいアマチュア将棋では、指しにくい印象があります。

 

こうした事情から、▲56歩型を保持した状態で駒組みし、負担になりやすい中飛車の角をいつでも交換できるようにしておく事が、実戦的に有力な気がしています。

 

また、自陣の全体のバランスを保ちやすい中飛車は、角交換振り飛車の一般的に言われるメリットが活きやすい陣形だと考えられます。そのため、角交換型の将棋に持ち込みたいという意図も強いです。

 

▲56歩型が「△45角問題」をしれっと解決しているのも売りです。角交換四間飛車と同様に、比較的安全に序盤の駒組を進める事ができると思います。

 

もし実戦に復帰することがあれば、試してみたい作戦かもしれません。

 

 

最後に、一応のお知らせですが、これから少し別分野の仕事に取り掛かりますので、ブログの更新はしばらくできなくなります。ご了承ください。