今回は嬉野流がテーマです。
この前の棒銀シリーズでは、#1で▲77歩型の居玉棒銀を扱いましたが、それは右銀急戦というか▲26銀型からの仕掛けでした。
その形に対しては、振り飛車は極論的に△31銀型でも受けきれるという結論に至りました。
しかし、今回「嬉野流」と呼ぶ戦法は、いわゆる「鳥刺し」と呼ばれる仕掛けの事で、形で分類するなら、「▲77歩型左銀急戦(斜め棒銀)」になります(ここら辺の呼び方はこだわり出すとややこしいので、ここでは「嬉野流」で統一します)。
この嬉野流の居玉棒銀は、右銀を使った場合(▲26銀型)とは全く様相が変わってきます。結論から先に言うと、嬉野流に対しては△43銀+△32飛型を早く作らなければ、振り飛車が苦戦に陥ります。
例えば、下図のような局面(△52金左まで)で、▲26銀型ならば振り飛車も耐える事ができましたが、今回の▲46銀型では、次に居飛車から▲35歩だけでなく▲45銀もあり、既に受けが利かない格好です。
また、▲26銀型の時は▲35歩に△44角として、▲26銀を射程に入れつつ35に利きを足す手がありました。しかし▲46銀型では、▲35歩△44角▲34歩△32飛に、▲24歩(▲26銀がいないため)も▲38飛(▲26銀にひもをつけておく必要がないため)もあります。
このように、▲26銀型と同様の応手では、嬉野流に全く対応できないのです。
ならば、△52金左に代えて△44歩(▲45銀を消す)ならどうかとなるかもしれません。しかし、▲35歩に△45歩が(▲77歩型のため)先手の手にならず、▲34歩が利きます(▲33歩成が飛車に当たるため)。以下、△22角▲35銀で振り飛車が押さえ込まれた格好になります。
△45歩に代えて、△同歩▲同銀△22飛なら、すぐには潰れません。▲24歩△同歩▲同銀に対しては、△同角▲同角△27歩▲同飛△15銀のようなアクロバットな受けがあります。
しかしこれも、居飛車はすぐに▲24歩と行かなければいいだけ(▲16歩を挟むとか)で、居飛車の銀が5段目(35)で安定した時点で、振り飛車が勝ちにくいでしょう。
では、△31銀型がダメなら、△32銀型ならどうかという事も一応気になるところです。
しかし、以前も言及した事がありましたが、△32銀型は居飛車の居角のラインに備えた(▲33角成に△同銀を用意する)形、つまり△45歩から角交換をするための形のため、▲77歩型の時にはあまり恩恵がありません。前述のように△45歩が手抜かれるのでは、ほぼ意味がないのです。むしろ、飛車の可動域を下げるというデメリットの方が際立ってきます。
ならばと、そもそも▲46銀と出られる前に、△45歩と突けばいいんじゃないか?という発想も出てきます。四間飛車を活かした手です。しかし、すかさず▲37桂と跳ばれてどうでしょう。一生、△43銀と指せない人生になってしまいました。
▲79角の後、どこかで▲46歩から4筋を逆襲する手もあります。これも居飛車が指せるでしょう。
とはいえ、△45歩を突かないでいると、四間飛車に対しては下図のような早仕掛けもあります。
以下、△同歩▲46銀△36歩▲35銀の時、▲48銀型のため△37歩成▲同桂△36歩の筋がないのも痛いです。これもまた左銀急戦だからこそです。
▲35銀に△15角なら、▲26銀△33角▲38飛で次の▲36飛が受かりません。この展開も振り飛車が押さえ込まれ気味で、苦しい戦いになるでしょう。
という感じでして、嬉野流は見た目以上に非常に手強いです。そのため、「最強の居玉棒銀」というサブタイトルをつけてみました。
これまで見た通り、この形を四間飛車で受けるのは無理がありますので、△43銀+△32飛型で対抗するのが、妥当な選択になります。
幸いなのか何なのか、嬉野流のオープニングは独特のため、仮に振り飛車側のプレイヤーが四間飛車党であっても、嬉野流の気配を察知した場合は、最初から三間に振る判断が取りやすいです。そこで、下図から始めていきましょう。
余談ですが、三間に振るのは嬉野流を意識しているだけでなく、この時点では先手が必ずしも居飛車とは限らないので、もし先手も飛車を振ってくるなら、相振りを三間で戦いたい自分としては都合がいい部分があります。
以下、手順は飛ばしますが、▲36歩までの局面が下図です。
この局面で△72玉の時、▲35歩△同歩▲46銀△36歩▲35銀は、△15角(銀取り)▲26銀に△同角と切る手があり、▲同飛△37銀打で振り飛車十分です。
ただ、こうした筋をそもそも消しておく方が安心でしょうか。△72玉に代えて、△43銀を優先すべきかと思います。
▲35歩△同歩▲46銀には△44銀で受かります。△36歩や△42角もあります。
ちなみに、△44銀以下、▲79角△42角▲38飛と強引に銀交換を目指してくるなら、悠然と△72玉と囲いましょう。
▲35銀と来るなら△同銀でいいです。▲43銀が狙いなのでしょうが、手番は振り飛車にあります。交換後に有効な攻めがあるなら別ですが、普通に駒交換する分には、玉を囲っている振り飛車が歓迎の展開です。
△35同銀以下、▲同角には△27銀▲37飛△36歩▲27飛△35飛で普通に駒得して振り飛車よしです。▲同飛なら、△同飛▲同角△28飛▲38銀△27銀▲39銀△38銀成▲28銀△同成銀の2枚換えで振り飛車十分です。▲44角なら57が空くので、△57銀と打てます。
△43銀に対して、それでも居飛車がこの仕掛けにこだわるなら、▲79角△72玉▲35歩は考えられるところです。
振り飛車は△同歩と応じ、居飛車は▲46銀と出てきます。ここで、△36歩▲35銀△15角は先程のような銀取りになりませんが、依然有効です。
▲16歩には△48角成▲同金(▲同玉なら△33桂)△39銀、▲24歩には△35飛▲同角△37銀、▲38金には△33桂▲16歩△48角成▲同金△45桂です。
どうやら、△15角を消さないと振り飛車の反撃がきつそうですので、▲16歩と指してみます。振り飛車は手が広いところですが、△54歩と指してみましょう。△42角~△64角を目指した手になります。
△54歩以下、▲35歩△同歩▲46銀△36歩▲35銀と引きつけてから、△42角と引きます。
▲24歩△同歩▲同銀に△64角と出ます。以下、▲46角△同角▲同歩△37角が一例で、振り飛車よしです。先程の△15角の変化もそうでしたが、コビン系でこうした強い戦いをしていく事が、この戦型では有効なようです。
というわけで、▲57銀型で▲35歩から仕掛ける早仕掛けは、三間飛車相手にはどうやら無理のようです。
そこで、▲16歩と△54歩の交換を入れずに、普通に▲46銀と出てみます。振り飛車は手が広い所ですが、次の▲35歩は覚悟しなければならないので、実戦的には△52金左と締まりたいところではないでしょうか。振り飛車舟囲いの完成です。この一手だけで玉の横腹がケアされ、中央が一応カバーできます。
振り飛車的には、この戦型では△54歩を突きがちなため、△62玉型ではコビンが開いており、この位置で戦うのは少し抵抗があると思うのですが、△72玉型であれば十分です。
この手に▲35歩なら、△45歩と反撃します。
ここからの攻防が、まず1つ目の山になります。次回以降で検討していきます。