今回は、居飛車が▲76歩を先に突いておく、”通常”のケースを考えてみます。振り飛車は△44歩と応じます。

 

今度も、まずは振り飛車が悠然と美濃囲いを目指したパターンを見てみます。

 

基本図から、△62玉▲76歩△44歩▲36歩△72玉▲26銀△82玉に▲35歩。

 

 

ここで△72銀は、▲34歩△22角▲24歩で居飛車よしです。△同歩は▲23歩で角が死ぬので、△45歩から暴れるくらいですが、▲23歩成△88角成▲同銀△46歩▲同歩△同飛▲37銀△47飛成▲58金左が一例で、居飛車の右銀まで受けに利いてくるので、相手が居玉とは言え振り飛車の攻めが細いです。振り飛車の有効な攻めがないため、23のと金の存在もこの場合は大きいです。

 

 

そこで、△72銀に代えて△45歩で角を捌きに行ってみます。しかしながら、以下、▲33角成△同桂▲55角(△64角なら、▲同角△同歩▲77角)で振り飛車が痺れています。△32金のように受けても、▲34歩があります。

 

 

今回の手順における振り飛車のネックは、▲33角成に△同桂と応じるしかなかった事でしょう。それによって、桂頭攻めが厳しい攻め筋として生じてしまいました。

 

そこで、先ほどの変化の中で、△82玉に代えて△32銀と指し、▲33角成に△同銀を用意してみます。

 

▲77歩型では出番がなかった左銀が、ようやく動き出しました。

 

ちなみに、△32銀▲35歩△43銀は△32飛が間に合っていないため悪手。▲34歩△同銀▲38飛の時に、△45歩を突いても▲33角成△同桂▲34飛で銀損になります。かといって、▲38飛に△43銀は▲34歩で押さえ込まれます。

 

よって、△32銀型のまま▲35歩のタイミングで△45歩と突きます。ここで▲34歩は、△88角成▲同銀△46歩▲同歩△同飛▲55角△47飛成▲11角成△64角が一例で、振り飛車優勢です。

 

 

▲34歩に代えて▲33角成なら、△同銀▲34歩△同銀▲55角△33角▲同角成△同桂▲55角△32金▲35歩△43銀が一例。振り飛車まずまずです。いいところで、△54歩▲77角△64角のような筋もあります。

 

 

よって、△32銀型であれば、棒銀の▲35歩からの仕掛けに対して、その瞬間△45歩と突けば、振り飛車が十分対応できると思われます。これは、この居玉棒銀の形以外でも、おそらくそうだと思います。

 

しかし、それでもまだこの仕掛けにこだわって、色々やってみます。

 

まずは、△32銀に▲66歩△82玉△72銀▲65歩で、露骨に△64角を消してみます。

 

以下、▲35歩△45歩▲33角成△同銀▲55角(△64歩の受けでもある)△33角▲同角成△同桂▲77角△32金▲35歩△43銀▲58金右(△47角や△46歩をケア)のように進んだ時、形勢は振り飛車がいいのですが、案外、振り飛車からの指したい手がよくわからないかもしれません。

 

 

自分の場合は、相手の急戦をひとまず受けきったところで、こちらから攻めたいとなった時に、どこから仕掛けていいかわからず時間を使い、自滅していくというケースはよくあります。△64角が、「ない」又は「有効打にならない」時は特にです。この局面もまた、実戦的に難しいなと感じる局面です。

 

ここでは、△64歩▲同歩△62飛と6筋から逆襲するのが好手段のようです。

 

次に、△66歩と居飛車の角道を止めて、△55角を狙う手がありますので、▲67銀と受けます。以下、△36歩▲68金△66歩▲同銀△同飛▲同角△64角▲18飛△27銀が一例。

 

 

6筋の位を取られたら取られたで、それを取り返しに行く手が有効になっていました。ちなみに、△36歩は△64角の受けの手段を減らしている意味もあると思われます。

 

振り飛車の狙い筋としては、やはり「△64角」が本命で、AI的には飛車を切ってまで実現させたい筋のようです。振り飛車側が左の金銀を繰り出しづらいこの局面の場合、そうした有効な角打ちを実現するために、どうするか?という部分を考えるのが重要かもしれません。

 

 

では次に、△32銀以下、▲66歩△82玉▲56歩として、△55角を消しつつ振り飛車からの角交換を防いでみます。以下、△72銀に▲35歩で下図。

 

 

これまでのように△45歩は有力で、▲34歩△44角で居飛車にこれ以上攻めがありません。振り飛車は(▲77歩型の時と同様に)、△54歩~△55歩を狙いたいところです。ちなみに▲65歩には、△88角成~△46歩です。

 

 

また、この場合は▲35歩に△43銀も有力です。この手は、居飛車の角道が開いている状態では悪手でしたので、△43銀に▲65歩と突いてみましょう。

 

今回の場合は、△32金と上がっておいて、▲34歩△同銀▲38飛に△45銀と出て、▲56歩型を咎めに行く筋もありますが、わかりやすいのは▲65歩に対して△45歩と突く筋でしょう。

 

振り飛車から角交換できれば、△54銀が△65銀~△56銀を狙いつつ△46歩を作る好手になります。△44銀型から、△54歩~△55歩を狙う手もあるところです。

 

よって、居飛車から角交換してくるのが自然ですが、▲33角成△同桂▲77角△32金と受け止める事ができます。▲34歩△同銀なら、△46歩が自然と生じます。振り飛車まずまずです。

 

 

つまり、▲66歩型であれば、▲35歩に△43銀で対処が間に合います。ある意味、一手には一手という事ですね。どの手にもメリットとデメリットがあり、相手の特定の手を消そうとすれば、他の手が有効になってきます。

 

ここまで、居飛車が6筋の位を取ったり、自ら角道を止めたりしても、居玉棒銀側が振り飛車に有効な打撃を与える事ができませんでした。

 

 

という事で、居飛車が角道を普通に開けてきても(▲76歩型)、振り飛車が最低でも△32銀型まで組めば、▲35歩に△45歩と反撃して、振り飛車が十分指せるようです。

 

やはり居玉による棒銀は居飛車側の負担が大きいです。

居飛車が攻めにかけた手数分の戦果を挙げられていませんし、振り飛車から一撃でも有効打が入れば、あっという間に崩れてしまいます。

 

少し余談ですが、居飛車は居玉で振り飛車陣を倒せないけど、藤井システムによると、振り飛車は居玉で居飛車穴熊を倒せるという点は、少し面白いかもしれません。

 

そこに関しては、居飛車が左側に玉を囲う事と、振り飛車の角の位置との相性の問題が、本質的な気がします。

 

ただ一方、居飛車が舟囲い等の一般的な囲いに組めば、振り飛車と互角に戦える事も事実です。

 

とすると、居飛車と振り飛車を相対的に考えた時、美濃囲いに組むまでは振り飛車の方が価値がある手を指せるが、美濃囲いに組んだ後は、(居飛車に比べて)価値の高い手を指せなくなるとも言えるかもしれません。

 

つまり、振り飛車の駒組で本当に重要なのは、美濃囲いに組んだ後という事かもしれません。

 

よく初心者向けの振り飛車の本で、「振り飛車は形を覚えやすいから初心者におススメ」等と言われますが、安易にそんな事は言わない方がいいような気はしています。

 

美濃囲いに組んだ後の難しさ、形のわずかな違いによる大きな変化、主導権の有無、攻めと受けでの指し手の難易度の差等も含めて、総合的に実戦的に議論するべきではないかな?と思います。

 

個人的には、初心者にはとりあえず、居飛車で普通に何かの急戦をやってみてほしいです。

 

今回扱った形にしても、初心者にわかりやすいのは、明らかに棒銀側でしょう。

 

振り飛車側は、「▲35歩を△同歩と取らずに、△45歩と突いて角を捌く」なんていう、一目わけが分からんことをしているわけですからw

 

だからこそ、▲77歩型や▲66歩型など、すぐに角交換できない形を扱ってみた部分もあります。

 

また、居飛車側だけでなく、振り飛車側の形の違いも本質的に重要で、今回と前回で強調した△31銀型と△32銀型の違いはもちろんですが、今回、左金が△41金型なのも見逃せないポイントです。

 

単純に本美濃に組む前に戦いが始まっただけで、あえて52に行かなかったわけではないのですが、41にいたおかげで、△32金のような手厚い受けができている部分もあります。

 

次回以降はさすがに居玉棒銀は辞めますが、今回と同様にステップバイステップで、形に対する理解度を高めていきます。