今回は、初形から▲76歩△34歩▲75歩△54歩▲78飛に対して、△88角成~△45角の乱戦を後手が仕掛けてきたケースについて、先手目線で実戦的な対策を調べていきます。

 

基本図は下図(△88角成まで)とします。

 

 

この△88角成の局面を自分が使っている将棋AIが解析すると、▲88同銀は後手に100点程度振れ、▲88同飛は後手に170点ほど振れます。

 

この仕掛けは、相振りの本などでは後手が指せるとされていますが、AI的には100~200点くらいしかリードはないそうです。もちろん、先手が進んでこの局面を選びたいわけではありませんが、200点程度の差であれば、十分、検討の価値のある局面です。

 

というか、対抗形の将棋の場合、100~200点くらい居飛車に振れるのはいつもの事ですw

 

逆に、△45角を許しているのに、これくらいの評価値で済んでいるという事は、△54歩型にもデメリットがあるという事でしょう。

 

 

さて、AIに少しだけ勇気をもらったところで、この88の馬、銀と飛車のどっちで取ってやりましょうかw
 

普通は▲88同銀が形で、AIの示す最善手でもあります。しかし、こうした乱戦においては、最善手というより、実戦的に勝ちやすそうな手を選びたいところです。

 

後手がこの乱戦を仕掛けてきたという事は、それなりにこの形を研究している可能性があります。そして、その研究における本命の変化は、▲同銀の可能性が高いと思われます。

 

となれば、▲同飛と取りたくなるのが人情というものでしょうw

 

それに、▲同銀の場合は、後で△67角成とされた時に飛車が質に入るのですが、▲同飛ならそうした状況になりにくいです。

 

序盤の飛角交換は角の方が価値が高いと言われがちとは言え、その交換の権利を後手が握っている状況は、先手にとって実戦的に気持ち悪いですし、少なくともそこから局面が飛車を取るか取らないかで2パターンに大きく分かれるため、研究が複雑化するのも嫌です。

 

よって、今回は△88角成に▲同飛と応じ、△45角▲85角以降の変化を見ていきます(ちなみに、▲88同飛に△44角は、▲98飛が形で、▲77銀が間に合えば、飛車が自由になります)。

 

 

 

ここで△62銀のように▲43角成を受ける手には、先手も▲38銀と応じ、双方共に馬を作る事ができません。

 

後手から乱戦を仕掛けて、そうした落ち着いた局面になるなら、先手としては不満ありません。そういう展開は、△45角に▲76角を打てたケースと似たようなニュアンスの展開です。

 

したがって、仕掛けた後手は主張を通してくるのが本線。警戒すべき候補手は、△27角成と△84歩あたりでしょう。

 

実は面白いことに、先ほどの▲88同銀か▲88同飛と取るかの選択により、将棋AI的に△27角成と△84歩のどちらが最善手になるかが、それぞれ逆になるらしいのです。

 

もし、後手が▲88同銀の局面を研究している場合、ひょっとしたら、▲88同飛と取った時も同じ手を選んでくれるかもしれません。

 

それは先手にとって、少し嬉しいですね。

 

という事で、具体的に局面を見ていきましょう。

 

 

(1)△27角成

 

△27角成には、▲63角成で先手も馬を作ります。

 

この変化においては、後手の馬は基本的に△45馬型で安定する展開になりがちだと思います。

 

例えば、▲63角成に△26馬なら、先手は▲54馬で歩を取れます。

 

また、▲63角成以下、△52金右▲85馬のように先手の馬をずらしても、△42玉等のような不急の手を後手が指すと、先手には▲28飛で馬を消す手段が生じます。

 

 

したがって、後手は△42玉に代えて、△45馬のように▲28飛の筋を警戒する手を指すのが妥当です。45の位置なら、△44馬のようなラインへの活用も容易になります。

 

先手は、この△45馬を押さえ込みにいければ面白いのですが、簡単ではありません。

 

下図が一例で、後手の馬が5段目で安定していて、先手は3筋から5筋の歩を突きづらいため、動かせる駒が限定されています。

また、27の歩がなく、後手の馬の圧力もあるため、先手は右に玉を囲いにくい印象です。

 

 

どこかで後手から、△74歩▲同歩△同銀のような仕掛けもあり、実戦的にはこれからの勝負ですが、客観的に見れば、先手が少し指しにくい展開でしょう。

 

そこで、先手には別の構想が求められます。

 

例えば、後手が△45馬と引いた局面でも、▲28飛と回ってみるのはどうでしょうか。

 

2筋が切れている事が災いし、これは▲23飛成の先手です。

 

▲88飛型のままでは、△44馬の射程に入ってしまい、狙われる危険性もありました。後手側から見た、そうしたわかりやすい狙いを緩和する事ができます。

 

 

また、▲28飛型にしたことで、▲27銀から▲36銀 or ▲26銀のような右銀の進出が可能になります。

 

下図(▲46歩まで)のような局面が一例で、先手は銀2枚の活用が出来ており、飛車の利きが2筋を直通しているのも大きいです。後手は馬の位置がよく、玉を囲いやすくはあるのですが、飛車がまだ眠っています。

 

 

ちなみに、上図の最終手▲46歩は△35歩に▲47銀を用意しています。

 

この後の先手は、右桂の活用や棒銀、1筋の端攻めなどが狙い筋です。

後手は、△74歩から仕掛け、▲75歩型を咎めに来るのが狙い筋の1つですが、▲66銀型に組めば、簡単に崩れる事はないと思います。▲66銀と出れば、▲77桂の余地も生まれます。

 

左側では、受けながらカウンターを狙う。右側では、動かせる駒を増やしながら、仕掛けを狙っていくといった感じかと思います。

 

2手損して居飛車にしているのが少し痛いですが、互角の範囲でしょう。

 

 

(2)△84歩

 

△84歩は、▲63角成を催促する事で、△67角成を実現する狙いです。

つまり、後手が27に馬を作りたい時は(1)を選び、67に作りたい時は(2)を選ぶという事です。

 

先手にとっては、△84歩以下、▲63角成△52金右に、馬をどこに逃がすかが1つの問題になります。(1)では▲85馬と逃げていましたが、今回は△84歩型のため、▲96馬か▲64馬の二択です。

 

まあ、▲96馬で端に追いやられるのは気が引けるので、▲64馬を選んでみましょう。

 

 

(1)の変化では、▲64馬には△62飛で、△67飛成が受からない形のためダメでしたが、今回はまだ△45角が残っているので、△62飛には▲46馬と角取りで返せます。以下、△67角成に▲68銀と自然な形で弾けるのが、この乱戦の場合、結構重要みたいです。

 

 

実は、6手目△88角成の時、▲同銀と取った場合は、同様の変化の時に▲68歩と受ける展開(下図)になります。厳密な形勢は互角の範囲ですが、これは人間的に見て、明らかに後手が指せる局面でしょう。△45角に▲85角がプロ間で微妙とされているのは、この変化があるためです。

 

 

しかし、今回は7手目に▲88同飛と取ったので、違う世界線になり、▲68銀を指すことができました。これなら、先手もまだまだ頑張れる形ではないでしょうか。

 

▲68銀に対して、後手は▲75歩を狙うのが自然ですが、△76馬なら▲78飛、△85馬なら▲56馬 or ▲45馬と返していきます。

 

また、△66馬▲77銀△75馬は、手順に▲75歩を取られた上、△57馬を狙われて嫌な感じですが、▲58金左△32銀▲45馬が歩の両取りで、部分的には△54歩型を咎めた格好です。

 

△33銀▲54馬のように進むと、54の歩を取りながら▲81馬の桂取りになりますし、後手陣に圧力がかかってきます。

 

 

以下、△72銀▲48玉(△69飛成には▲72馬)△63銀▲36馬△53馬▲38銀△54銀▲39玉のように進んだ時、△69飛成は気になりますが、▲68金△79竜▲78金で、飛車交換に持ち込めます。

 

 

先手的には、(1)と比べれば右側に普通に玉を囲いやすく、機を見て▲68飛として飛車交換を迫る狙いがあります。

 

振り飛車らしく指せるのは(2)の変化でしょう。形勢は互角の範囲です。

 

 

といった感じで、今回は3手目▲75歩4手目△54歩からの△45角乱戦の変化を見てみました。

 

評価値的には、後手に100~200点くらいは振れる力戦ですが、まあ、どちらの変化も実戦的には互角の範囲でしょう。

 

5手目▲78飛とした時に、本当に後手が△45角を打ってくるかはわかりませんが、今回の検討を生かしながら、実戦で戦ってみたいところです。また、ひょっとしたら、▲78飛の前に、5手目▲16歩くらいであれば突いてもいいかもしれません。

 

まあ、自分が実戦に戻るのは、いつになる事かわかりませんが(研究の方が楽しすぎます)。

 

とりあえず、6手目△88角成に対しては、しっかりと飛車で取りたいと思いますw