前回は、一直線中飛車左穴熊に対して、藤井システム風に対抗する駒組をご紹介しました。

 

この左穴熊に対する仕掛けは、基本的には中飛車側が一直線に穴熊を目指した場合に発動できるものです。

 

よって、この筋を警戒しながら中飛車が駒組した場合は、仕掛けを回避して左穴熊を組む事ができるかもしれません。

 

ただ、アマチュアの場合、結構、一直線に潜りに来る方が多い印象ですので、後手にとって知っておいて損はない仕掛けのように感じます。

 

また、当たり前ですが、「一直線」でなくとも、この筋が消えないような組み方であれば、少なくとも部分的に存在する筋として残ります(後手としても、基本図から△62玉や△44銀は指しておきたい手です)。

 

では、下記の基本図から▲88銀以下の変化について、具体的に見ていきたいと思います。

 

 

▲88銀に対して、後手は△85桂と仕掛けます。角の逃げ場所ごとに場合分けしていきます。

 

(1)基本図から▲88銀△85桂▲86角

 

後手の端攻めに備えた逃げ場所で、△62玉の一手が間に合っていないため、▲53角成の先手になっています。

 

しかし、先手にそれ以上の攻めがないため、そこで△62玉でも遅くなく、▲79金くらいなら△74飛と回ります(先に△44銀もあるが、飛車の横利きが瞬間的に消える)。

 

△76飛を受けるなら▲75歩ですが、△64飛▲78金△44銀のように進むと、55の歩を支える手段がない形。形勢は後手よしです。ちなみに、▲75歩に代えて▲56飛なら単に△44銀です。

 

 

このように、中飛車側の角を攻めて、55への利きを減らし、▲55歩を左銀で取りに行くのが、この戦法の基本的な狙い筋となります。

 

比較的簡単なコンセプトながら、穴熊に対する端攻めの権利を握りつつ、中飛車の大駒を押さえ込み、後手の角が穴熊を射程に捉えやすくなり、左銀による攻めも狙えるという、かなり勝ちやすい形に持っていけます。

 

この55の天王山の歩が左穴熊のアイデンティティであるからこそ、そこを攻める筋が有効になるのでしょう。

 

△44銀以下、▲54歩と突いてくる場合、△同歩もありますが、△同飛▲同飛△同歩で飛車交換してしまうのがわかりやすいでしょうか。

 

後手陣に飛車の打ち込み場所はなく、先手から早い攻めがありません。▲26飛のような手にも△41金型が活きて、△32金があります。

 

後手は△53銀で角道を通した時、一歩を持っているので、いつでも△96歩▲同歩△97歩からの端攻めの権利があります。

 

先手に飛車を持たせるのはチャンスを与えるようですが、こちらが飛車を持てるのも大きいです。

 

端攻めからじわじわ崩して行った時に、決め手として飛車を打てる瞬間が来るでしょう。後手よしの局面です。

 

 

 

(2)基本図から▲88銀△85桂▲68角

 

▲68角にすぐ△44銀は、▲46角で55の歩が受かってしまいます。

 

よって、▲68角には△74飛と回ります。△76飛と歩を取れれば、△96歩▲同歩△97歩からの端攻めが生じます。

 

ここで▲75歩は△同飛だと▲86角があり、以下△65飛▲53角成は実戦的に嫌な感じになりますが、76の空間を空けた事のデメリットも大きく(後に△76香や△76桂などが生じる)、△64飛▲78金△44銀▲46角△65飛のように、飛車が軽い形を活かして、単純に55に力を集めれば後手よしです。

 

 

以下、▲54歩なら、△同歩▲同飛△52歩と凹んで受けます。次に、△45銀の両取りがあるので、▲59飛くらいですが、▲55歩がいなくなり、後手の角の利きが通ったので、端攻めが有効になっています。△45銀▲68角△97桂成(▲同銀と取れない)で後手優勢です。

 

また、△74飛に▲35角は△44銀がぴったりで、▲26角で53への睨みを外さないなら、△52金左で53をケアした後、次に△55銀を狙います。

▲46角で55の歩を支えるなら、△76飛▲77歩に△46飛▲同歩△47角(△55銀や△96歩もある)のように攻めます。

 

△74飛には▲86歩が少し難しいですが、△97桂成▲同銀△96歩▲88銀△44銀▲77角△76飛が一例です。

 

 

▲79金なら、実は△55銀が成立し、▲同角△同角▲同飛なら、△44角で先手が痺れています。以下、▲58飛なら△97歩成▲同香△同香成で後手勝勢です。

 

 

△76飛に▲54歩△同歩▲同飛なら、やはり△52歩と凹んで受けて、次に△77飛成~△45銀のように、角道を開けながら飛車取りをかける手があるため、▲58飛と引くくらいですが、△77飛成▲同桂△97歩成▲同香△同香成▲同銀△87角▲78歩△96歩▲88銀△97香が一例で、攻めが切れなければ後手が勝てる将棋です。

 

 

 

(3)基本図から▲88銀△85桂▲66角

 

△74飛や△64歩も有力ですが、△64飛がわかりやすいでしょうか。いつでも△66飛▲同歩△67角と暴れる筋があります。後手十分です。

 

 

この筋を消す▲78金なら、△44銀と力を溜める手が間に合い、次に△66飛▲同歩△55銀があります。

歩を持てれば、角道が通らなくても駒損にならない端攻めが生じます。

 

という事で、今回は基本図から▲88銀以下の変化を見てみました。

 

藤井システムの仕掛けと同様、基本的には後手が一方的に攻める展開になりますし、▲55歩が伸びている分、▲66歩型の居飛穴と比べて、後手から戦いを起こしやすくなっている側面もあります。

 

後手は大駒の打ち込みには強い陣形なので、浮き飛車の機動力を活かし、いいところで角と刺し違える手が有効になるのも、わかりやすい部分でしょう。

 

△44銀の前に飛車を転回する事で、「54への利きを止めない」+「角を質に入れやすくする」事が、実戦的にも重要な形のようです。

 

中飛車左穴熊については、まだ調べたい変化もあるのですが、とりあえずはこの記事で一旦区切りとしたいと思います。