昨今の将棋では、アマチュアでもAIの評価値を参考にすることが多くなっています。

 

実際、自分の棋力でも研究めいた事ができるのは、プロ以上の棋力を持つ将棋AIのおかげです。
そういう意味では、いい時代になりました。

ただ、振り飛車党にとって気持ち悪いのは、この将棋AIが振り飛車を評価せず、飛車を振った途端に評価値を下げるという事実かもしれません。

しかし、少なくとも自分はあまり気にしていなくて、むしろ「当然そうだろうな」と思っています。


まず、将棋の初形を見た時に、価値が大きくて頭が弱点の「角」という駒を狙うのが、人間的に見ても合理的だと思います。
そして、その真ん前には最強の駒である「飛車」がいます。

となれば、素直に飛車先の歩を伸ばす居飛車が、当然有力に思えます。
将棋というゲームの設計者だって、そういう意図でこのゲームを作ったはずです。

 

将棋のルールを覚えたての人が初めての対局で、初手▲26歩を指す可能性は案外高いのではないでしょうか?
 

しかし、振り飛車という戦法は、そんな最高のポジションにいる飛車を序盤の貴重な一手を使ってわざわざ横に移動させ、挙句の果てには自ら角道を止めて、大駒の威力を自ら激減させるのです。

 

はっきり言って、無茶苦茶です。どう見たって「奇襲戦法」です。

 

そりゃあ、AIのようなロジック100%の存在からしたら意味わかんないでしょうw

 

これは振り飛車党の自分にとって、気持ち的に気に入らない部分は確かにありますが、理屈的には自然な事のように思います。


将棋の真理が居飛車にあるのは、人間的な感覚としても、わかりやすいのではないでしょうか。

 

 

ですが、それがどうしたと言うのでしょう?

神が作ったらしい自然科学なら、真理を解明するのが最終的な目的になりますが、人間がやる「ゲーム」において真理を解明するなんて事は、どこまで意味があるのでしょうか。

 

人間から見て、実戦的に勝ちやすいか、勝ちにくいか。それこそが重要です。

トッププロともなれば、その真理にかなり近いところで戦っているのでしょうから、居飛車で戦うプレイヤーが多くなるのは自然な事のように思います。しかし、こんな複雑なゲームにおいて、アマチュアが真理通りに指せるわけがないのです。まして10分切れ負けなんていう、鬼畜ルールの中で。

 

よって、アマチュアは個人個人が実戦的に戦いやすい戦法を選べばいい。ただそれだけの話です。

 

その実戦的に戦いやすい戦法と言うのは、客観的なロジックだけで詰めきれるものではなく、個人の好みや棋風等により大きく変わるでしょう。


よって、振り飛車を指したい人が振り飛車を指す事には(特にアマチュアレベルならば)、十分に妥当性があると思います。

 

この「実戦的」という意味において、振り飛車のメリットを書いていきたいところでもあるのですが、それは今回のテーマではありませんので、この記事において、これ以上振り飛車の肩を持つことはしません。


一応、ここで終わっても良いのですが、しかし、あえてもう一点だけ、この記事で書いておきたい事があります。


実戦的には何を指してもいいと言っても、振り飛車が将棋というゲームにおいて、理論の上で居飛車に劣るという事実を否定することは、現時点では(少なくとも自分には)できません。

では、この居飛車に勝てる戦法は何かという点が気になってきますが、振り飛車がダメなのであれば、居飛車には居飛車で対抗するしかありません。


よって、「相居飛車の将棋がどういうゲーム環境になっているのか」という点が、重要なテーマになるわけですが、ここでまず問題になってくるのが、後手の2手目です。

先手が初手▲26歩で居飛車を明示したとき、後手としては△84歩と△34歩が2手目の有力手になります。

後手が△84歩を指した場合、先手には角換わり、矢倉、相掛かりのいずれかの戦型を選ぶ権利が生じます。

 

これは結構恐ろしい事実で、「角換わり」「矢倉」「相掛かり」の居飛車三大戦法の内、1つでも「先手必勝」の結論が出てしまうと、この3つの戦法全てが、終わってしまう可能性がある事を意味しています。

 

なぜなら、先手はその必勝戦法に誘導すればいいわけです。そうすれば先手必勝なわけですから。
他の2つをわざわざ選ぶ必要がありません。

これは後手の居飛車にとって、極めて深刻な懸念になるわけですが、その懸念が今、現実のものとなりつつあるらしいです。

最近の将棋AIによると、「角換わりは先手必勝」という説が有力になっています。


もしもこれが覆らないならば、先ほどの理屈的に「後手が2手目に△84歩と突くと先手必勝」という事になります。


……。



だったら、2手目△34歩はどうかと言う話になります。

しかし、こっちはこっちで、理論的には後手に有力な手段がほぼないとされています。

2手目△34歩の場合、後手に戦型を選ぶ権利が生じますが、そのどの戦型も基本的には先手が有利だというのが、将棋AIの示すところです。

横歩取りは一歩損になりますし、一手損角換わりは手損になります。振り飛車は先述の通り。雁木はまだましですが、ノーマル振り飛車と同様に角道を止めるため、先手に主導権を握られやすくなります。

よって結論として、評価値的に考えるなら、僅か2手目にして後手には指す手がないという事になります。

 

 

……。


はい。将棋というゲームが、理論的には終わっちゃいましたw

 


しかし、当然ながら将棋は、AIではなく人間がやる「ゲーム」です。

将棋は、かなり多様性を持った、人間にとって極めて難しいゲームであることは間違いないでしょうから、将棋というゲームの理論的な結論が出ようとも、将棋というゲームが成立しなくなるわけではないでしょう。


というか、自分で数行前に書いておきながらなんですが、理論的な結論が出たからと言って「終わった」と表現するのが、そもそもおかしい。

 

どんなゲームでも「環境」というものはあるのでしょうから、その理屈で行くと、どんなゲームもある意味では最初から終わっている事になりますw

 

一種の研究対象としての将棋が終わっても、ゲームとしての将棋は、そう簡単には終わらないでしょう。
 

そもそも、まだちゃんとした結論が出たわけでもないのでしょうし。

まあ、という事で、我々アマチュアは、今後も好き勝手にやっていきましょう。