前回は、対居飛車ミレニアムの序盤の駒組を見てみました。

 

四間飛車から三間飛車(向かい飛車や中飛車も有力)に振り直し、△42銀~△53銀のルートで銀を使うところが急所で、6筋の位を取った後、△64銀型を作り、△55歩と仕掛ける事を最終目標にしています。

 

とりあえず一手損三間飛車と呼んでみましたが、ある意味、四間飛車(△42飛型)だから一手損になるのであって、他の振り飛車であれば、手損することなく実現できる構想で、結構有力な気はしています。

 

今回の記事では、△64銀型を作るにあたって、どのような条件が必要かについて、色々な変化を丁寧に見ていこうと思います。

その上で、後手の四間飛車が十分に戦える仕組みについて、見ていけたらいいなと思っています。

 

まずは、前回の記事で示した第二図(△53銀まで)をもう一度見てみましょう。

 

 

△64銀型を目指す上で、まずテーマになるのが、どの条件なら△65歩と突いていいのか?という点です。

 

第二図から▲78金と堅めてきた場合を例に、△65歩の検証を始めていきます。

少々面倒な検証になりますが、形の理解度を上げるには、重要なステップだと思います。

居飛車は、一直線に4枚ミレニアムを目指す方針とします。

 

(1)第二図から▲78金△65歩

 

まずは、単に△65歩と突いてみます。

 

▲同桂は△64銀で桂を取れますが、▲75角が厳しいです。

△63金▲65桂△62銀(△64銀は▲同角△同金▲53桂成)で、振り飛車が狙うべき角と桂に捌かれます。居飛車よしです。

 

 

 

(2)第二図から▲78金△63金▲57銀△65歩

 

次に、高美濃を作った後に、△65歩を突いてみます。

 

今度の▲75角には、△64銀▲86角と角をスムーズに弾けますが、次に居飛車は▲66歩△同歩▲同銀と6筋を逆襲しに行く手が有力で、6筋の勢力争いでは振り飛車が勝てません。

 

▲86角に△84歩は有力ですが、▲66歩△同歩▲同銀△85歩の時、▲97角もありますが、▲64角と切ってしまうのがわかりやすく、△同金▲65銀△63金に▲68飛と飛車まで応援に来られると、6筋が制圧されてしまい、持ちこたえられません。

 

 

▲57銀が居飛車らしい好手で、代えて▲59銀とかなら逆襲の筋がないため、△65歩が通るところでした。

 

 

(3)第二図から▲78金△74歩▲59銀△65歩

※▲59銀に代えて▲57銀は、▲57角と引けなくなり、△65歩で居飛車が単に駒損する

 

次に、△74歩で▲75角を消した後、△63金は省略して、△65歩を突いてみます。

 

厳密には通らなくはない手ですが、実はこの△65歩は▲同桂と取る手があり得ます。

 

△65歩▲同桂△64銀▲57角△65銀が一例で、桂を取れた振り飛車がいいようですが、そこで▲24歩と仕掛けられ、△同歩▲同角△22飛に▲23歩が手筋で、△同飛なら▲46角が王手で入ってしまい、△73桂▲23飛成で振り飛車敗勢です。

 

 

▲23歩に△42飛のように逃げれば敗着には至りませんが、▲33角成△同桂▲22歩成で、次に▲32と△同飛▲21飛成を狙われ、振り飛車苦戦です。

 

 

(4)第二図から▲78金△74歩▲59銀△73桂▲68銀△65歩

 

△74歩で▲75角を消した後、△73桂で玉のコビンをケアして、△65歩と突いてみます。▲同桂もなくはないですが、さすがに▲57角と引くと思います。

 

しかし、▲57角に△64銀とすると、そこでも▲24歩と仕掛けられ、△同歩▲同角△22飛▲25歩の時、64の銀が浮いているため、▲33角成△同桂△31角が生じています。

 

それを△63金と受けても、▲33角成△同桂▲24歩に△25歩なら、▲23歩成△同飛▲32角があり、居飛車よしです。▲57角に△63金でも同様です。

 

 

この局面では、振り飛車の金銀が玉側に偏っているため、まともに角交換になれば、手番を握っている居飛車に角打ちで先攻されてしまいます。そこで用意の切り返しがあれば、振り飛車も頑張れますが、この局面ではないようです。

 

そのため、▲57角には△45歩で、▲24歩△同歩▲同角△22飛▲25歩の時に△44角と指せるようにしておきたいのですが、△45歩には、▲36歩△64銀▲37桂で次に▲45桂を狙われます。

 

それを受けて△42飛と後手を踏んだら、その時点で振り飛車が作戦負けですし、▲24歩△同歩▲同角△22飛▲25歩△44角▲45桂△63金(銀にひもをつける)▲46角のように進むと、次に居飛車には▲24歩と▲64角△同金▲53銀があり、こうした一方的に激しく攻める展開は4枚ミレニアムの理想でしょう。

 

 

また、▲36歩に△55歩は、▲同歩△同角なら振り飛車が調子よさそうですが、△55歩に、なんと▲24歩が入ってしまいます。

 

普通は、△56歩▲23歩成△57歩成▲32と△68と▲同金△55角▲21飛成△19角成と一直線に進んだ時、振り飛車も駒得なので指せるように思えますが、居飛車が手番な事やと金の存在も大きく、▲75歩や▲41飛など、有力な攻めも多くあります。

 

三間飛車にしているが故に、▲32とで飛車を取られてしまうという事情もあります。四間なら取られません。

飛車の振り直しからの左銀の53への活用がコンセプトの駒組なので、それを言っても仕方ないですが。

 

どの手にも、メリットとデメリットがあるという事でしょう。

 

下図(△19角成まで)は、ミレニアムへの速い攻めもないため、受けが強い方でなければ、実戦的に振り飛車が勝てる終盤ではありません。

 

 

反省して▲24歩に△同歩と取っても、▲同角△22飛▲33角成△28飛成▲55馬(▲36歩型のため竜取り)△29竜と進んだ時、▲65桂が入ってしまい、△55歩だけでなく△65歩まで咎められてしまいます。

対ミレニアムでは、▲77桂を負担にできれば振り飛車がいいですが、このように捌かれては振り飛車苦戦です。

 

 

 

(5)第二図から▲78金△63金▲57銀△74歩▲68銀△65歩

 

高美濃の形を作ってから、△74歩で▲75角を消した後、△73桂は省略し、△65歩と突いた場合です。

 

コビンが開いてるのが弱点で技がかかりやすくなっており、(3)と同様に、▲同桂△64銀▲57角△65銀に、▲24歩と仕掛けられます。

 

△同歩▲同角△22飛の時に、先程の▲23歩なら、今度は△63金型のため△62飛と逃げる事ができ、▲33角成△同桂▲22歩成の時、先ほどの▲32とのように先手を取りながら飛車成を目指す手がないため、振り飛車も頑張れます。

 

しかし、▲23歩に代えて、単に▲46角と王手する手もあり、△73桂では▲22飛成△同角▲25飛で両取りが決まるので、△64歩と受けますが、それでも▲22飛成△同角▲25飛があり、厳密には△33角▲65飛(一度△64歩と受けた事で、△63飛成のような強襲の筋は消えている)△28飛(▲25飛を消すのが大きい)くらいで互角の範囲ですが、安全に△64銀型を作ることはできませんでした。

 

 

 

さて、ここまでなんだかんだとしつこく見てきましたが、要するに、第二図から▲78金の時に△64銀型を安全に実現するためには、振り飛車は△73桂型の高美濃に組む必要があるようだ、という結論に至ります。

 

すると、第二図から、▲78金△63金▲57銀△74歩▲68銀△73桂▲57角△45歩(△44角を作る)▲36歩(▲37桂を作り、▲45桂を狙う)が妥当な変化の1つだとわかります。

 

本当はここから銀冠まで組めればいいのですが、▲37桂が間に合ってしまいますので、振り飛車は仕掛けたい局面です。

しかし、△64銀型を作るには、まだ二手(△65歩~△64銀)もかかり、▲37桂が間に合えば居飛車よしです(△15角は▲27飛でダメです)。

 

振り飛車が困ったようですが、▲36歩に反応して、単に△55歩と突く仕掛けがあります。

先ほどの(4)でも部分的には検討した筋ですが、今はしっかりとした高美濃が完成していますので、状況が変わっています。

 

この△55歩の局面を第三図とします。

 

 

実は、(居飛車が▲37歩型の時)▲57角△45歩の交換が入った後であれば、▲36歩を居飛車が突いた瞬間、振り飛車は単に△55歩と突く仕掛けが部分的には可能になっており、△64銀型を目指す必要がなくなるのです。

 

今回の検討図においては、いつでも▲36歩に反応して仕掛ける事ができるよう、隙のない形のまま高美濃を目指すことが、実戦的にとても重要な事がわかりました。

 

今回、△64銀型が間に合わなかったのは残念な事ではなく、こうした駒組の仕組みのため、△64銀型が間に合いづらい後手四間飛車でも、▲36歩を突いてきた瞬間に仕掛けが生じ、十分に戦う事ができます。

 

ここから、△55歩に対する居飛車の応手を見ていきます。

 

(A)△55歩▲同歩

 

△同角▲18飛△56歩▲66角△同角▲同歩△42飛(▲43角を消しつつ、次に△46歩を狙う)が一例で、5筋の拠点も大きく、振り飛車十分。

 

 

(B)△55歩▲66角

 

△56歩は、▲33角成に△同桂は▲24歩、△同飛には▲22角で振り飛車苦戦です。

 

▲66角には△44銀が好手で、後の▲45桂を防ぎつつ、△52飛を作りつつ、55に力を溜めます。

 

▲37桂△52飛と進んだ時、▲24歩△同歩と2筋を突き捨てた後に▲55歩と取るのが、△65歩▲39角△55飛(△55銀は▲45桂でダメ)の瞬間に、▲22歩を用意した強い居飛車党の手です。

 

しかし、2筋の突き捨てでもらった一歩をじっと垂らす△56歩が、これまた強い振り飛車党の手で、形勢は互角ながら、実戦的に振り飛車が十分。この局面から、居飛車に指したい手がほぼありません。

 

 

△56歩に代えて単に△55同銀では、▲45桂が角に当たり、▲53歩も生じてしまいます。

悔しい事に、桂馬一枚で大駒二枚が押さえ込まれた感じです。

 

特に中飛車の形では、▲45桂を可能な限り跳ばせない姿勢が重要なのでしょう。

 

△56歩と垂らした後は、△51角で▲45桂のあたりを避けた後、△46歩▲同歩△55銀のような筋を狙います。そこで▲45桂と跳んできても、角が逃げているためほぼ無効で、△44歩で桂を取りきれます。

 

△56歩の時、警戒するとしたら▲58飛くらいですが、居飛車の飛車が2筋から動いたことで、先程の△65歩▲39角△55飛が成立します(▲22歩△同角に▲24飛がないので)。一歩持てれば、△75歩や△35歩の桂頭攻めが楽しみになります。

 

 

(C)△55歩▲24歩

 

△56歩で斬り合うのは、(4)で見たようにミレニアムペースの終盤になるので、△24同歩と応じます。

 

以下、▲同角△22飛に、▲33角成△28飛成と斬り合ってくるなら、今度は振り飛車陣に隙が無く、(4)で見たような筋がないため、2枚飛車を得た振り飛車が十分。

 

△22飛▲25歩には、△44角とかわしておけば、居飛車に有効な攻めがなく、▲55歩と手を戻すくらいですが、△55同角も△75歩もあります。振り飛車よしです。

 

自分が使っている将棋AIでは、△24同歩には▲37桂が最善で、評価値にして100点ほどは居飛車に振れます。

 

どうやら、▲37桂以下、△56歩▲24角△22飛▲33角成△28飛成▲11馬のような展開の時に、△29竜の形で桂を取られるのを防ぐ手のようなのですが、あまりに強すぎる手なので、見なかったことにしますw

 

△56歩も価値がありますし、人間同士の対局なら、二枚飛車を持った振り飛車が勝ちやすいでしょう。

 

 

長くなりましたが、△64銀型を目指しつつ、▲36歩には△55歩と仕掛けるという構想自体は、単純明快でわかりやすいと思います。

 

次回は、第二図から居飛車が▲36歩と突いて、攻めの形を優先させた局面について、見てみたいと思います。