対一直線穴熊の第二回です。基本図は下図です(△95歩まで)。

 

 

前回はここから居飛車が▲98香と指して、マジで一直線に穴熊に組みに行った場合を検討しました。

 

今回は、▲48銀の一手を指してから、穴熊に潜りに行く形を調べます。

 

(2)基本図から▲48銀

 

▲48銀△72銀▲98香△64歩▲99玉△93桂

 

手が広いですが、△62玉型ノーマル四間飛車がコンセプトですので、△72銀と美濃っぽく上がっておきます。次の△64歩を突きやすくしている意味もあります(▲55角には△63銀)。

 

▲98香には、これまた手が広いですが、穴熊に仕掛けるなら、やはり△64歩は突いておきたいところです(ただし、工夫の余地あり)。

また、△85桂から仕掛けた時、▲66角に△65歩と追う手を用意している意味もあります。

 

次の居飛車の手も広いですが、「一直線」のコンセプトどうり、余計な手は指さず、▲99玉と潜ってみます。

 

これで穴熊が確定しました。一直線穴熊相手に穏やかに指す気はないので、トマホーク風に端桂を跳ねていきます。

 

これで振り飛車が穴熊を潰せるかどうかが、この一直線穴熊シリーズにおける大事なテーマの1つになります。

 

ちなみに、将棋AIの評価値的には、この局面はほぼ互角です。後手振り飛車の初期値が低い事を考慮すれば、振り飛車側のこの駒組には妥当性があるという事になります。

 

 

 

ここから色々な変化を丁寧に、できるだけ定性的に理解しながら見ていきます。

 

今回の記事では、▲95角の変化を調べます。

 

(A)▲95角

 

端桂を咎めにいくなら指してみたい手でしょうが、一歩得の代わりに、穴熊のハッチが閉じるのが一手遅くなるというデメリットも生じます。

 

振り飛車は△85桂で角取りをかけます。角の逃げ場所によって展開が変わるので、場合分けしていきます。

 

(ア)▲68角

▲68角型は端の守りに機能していないため、△45歩▲88銀に△97桂成で部分的には端攻めが成功します。

 

振り飛車の角の利きにより、▲88銀が動けないため、桂香交換が確定しています。

△97桂成以下、▲同香△同香成▲同桂△96歩▲98歩△97歩成▲同歩です。

 

ちなみに、この端攻めの理屈を藤井猛九段がわかりやすく解説している動画があるので、参考までにリンクを貼っておきます。

 

 

 

 

ただし、対居飛車穴熊への速攻はこの桂香交換してからが勝負で、上手く攻めをつなげていく必要があります。

△46歩▲同歩で4筋の突き捨てを入れた後、△84桂が狙いの手です。

 

 

居飛車は▲77銀のような受けは危険で、△46飛と走って、次に△76桂(△76飛もある)や△26香があり、振り飛車が優勢です。

 

よって、△84桂には▲77香(▲78香とかなら、角筋が二重では止まっていないので、△96歩▲同歩△同桂を狙う筋が生じる)のように香車を使って受けますが、△46飛(▲47香がない)と走り、次に△26香を狙います。ここでの▲56歩(飛車取り)には△45飛で横の可動域を確保しておき、△74歩~△75歩で▲77香を狙っていきます。

 

AI的には、この局面は振り飛車がいいですし、部分的な手さえ知っておけば、人間的にも振り飛車が指しやすいでしょう。

 

ただし、(この戦型全般に言えるかもしれませんが)完全な穴熊に組む事を防ぐのは比較的容易なのですが、穴熊に潜った時点でかなり居飛車玉が遠いので、振り飛車は角のラインを生かしながら、上手く攻めを繋げる必要があります。振り飛車玉は薄いため、攻めが切れたら勝ちづらくなります。

 

 

(イ)▲59角

 

▲68角の時と同様にすぐに端攻めに行くのもあり、先ほどの△84桂はある手だと思いますが、次の△76桂が両取りにならないため、一手の猶予があります。

 

それにより、▲89玉(下図)のように振り飛車の角筋を避ける手が可能になります。

 

 

この局面では、△46歩から飛車を捌きたい(△26香や△76飛の狙い)のですが、飛車が走った瞬間に、▲47香が待っています。

 

そこで、端攻めに行く前(桂香を互いに手持ちにする前)に△46歩から行くのはどうか?という発想が出てきます。

 

自分は驚いたのですが、▲95角△85桂▲59角△45歩▲88銀に△46歩と突いたとき、実は▲同歩△同飛なら、AI的には振り飛車側に大きく評価値が振れます。

 

 

振り飛車には、次に△97桂成から桂香交換し、△47歩▲39銀で▲47香を消した後、△26香を打つ狙いがあります。

 

△46同飛には、▲47歩△76飛▲77歩で振り飛車の飛角の利きをシャットアウトしたくなるかもしれませんが、既に振り飛車の攻め駒が食いついていますので、感覚的には振り飛車側が踏み込む順を考えるところです。

 

▲77歩に△97桂成から端攻めに行くのですが、▲同香△96歩▲76歩(▲96同香なら、△同飛▲97歩△26香)。

この▲76歩で飛車を取った瞬間(下図)に、振り飛車の角筋が復活します。

 

 

以下、△97歩成▲同桂△96歩▲98歩△97歩成▲同歩△同香成に、居飛車は▲66桂(▲77桂なら△85桂)で角道を止め、詰めろを解除しますが、殆ど命がけの受けになります。

 

以下、△88成香▲同玉△65歩▲64香△63香▲同香成△同玉(△同銀では▲92飛で少し紛れる)のような進行が予想されます。

 

 

居飛車の飛車角が眠っており、持駒の飛車の打ち込み場所も限られているため、居飛車に早い攻めがなく、振り飛車が角筋を生かして攻めを繋げる事ができれば勝てる将棋です。AIは後手優勢まで言う局面です。

 

ただ、桂は取れますが、瞬間的に無仕掛けの状態になり、居飛車玉は孤立していますがやや広いので、実戦的には油断できません。△85桂などでわかりやすい拠点を作り、じわじわ行くのがわかりやすいでしょうか。

 

ちなみに、△46歩に対する居飛車の最善は▲58金右で、振り飛車は端攻めで桂香交換に行った後、△47歩成▲同銀△27香▲同飛△35桂のような手で技をかけに行きますが、▲46香の切り返しもあり、この進行(下図)はAI的に互角の形勢です。

 

 

 

(ウ)▲86角

この手にも、△45歩▲88銀に△46歩と行きたいところ。▲同歩△同飛とさばければ、次の△76飛が受からず、86で飛車を切る手まであります。

 

△46歩に▲58金右には、△97桂成から端攻めに行きます。

 

以下▲同角なら、△同香成▲同香に△74角が好手で、▲46歩(△47歩成の受け)に△96歩▲同香△同角で87の地点を狙います。△46飛と走る手も残っており、振り飛車よしです。

 

 

この局面では、もはや▲88銀が居飛車玉の邪魔になってるまであり、振り飛車が駒得の攻めのため、比較的わかりやすいかもしれません。

 

△97桂成には▲同香が本線ですが、この場合は注意が必要で、普通に△同香成▲同角△96香に▲98歩△97香成▲同歩の進行は、角は取れますが、先ほどの▲同角の時の変化と比べて、振り飛車が香1枚損しており、案外攻めが続きません。

 

▲97角を取るために△96香と投資せざるを得ないのがカラクリで、▲97桂型であれば、△96歩で済んだところです。角なら、△96歩には端に利きを残したまま逃げる事が出来ます。▲86角型は端攻めに強いのです。

 

△97桂成▲同香には、△96歩が上手い端攻めで、▲同香△同香▲97歩とさせて▲86角が手順に動かないようにしておきます。

 

この▲86角型に対して△84香で角取りをかけるのが、穴熊攻略において部分的によく出てくる筋です。▲89桂が99と77には利いていても87には利いていないのが、当たり前とはいえ重要な事です。87が穴熊の急所の1つになります。

 

 

普通に角が逃げたら△87香成がありますし、▲77角とぶつけてくるなら、△同角成▲同桂△97香成▲同銀△87香成で振り飛車勝勢。

 

よって、▲96歩で香車を取るくらいですが、△86香と角を取った手に▲同歩では、87の地点が空くことが致命傷。

△47歩成▲同銀で銀を質に入れた後の△87角が、△69角成と△47飛成(△98銀までの詰めろ)の両狙いで、居飛車が倒れています。

 

 

△86香には▲98玉が最善らしいですが、△65角のような追撃もあり、普通は受けきれません。居飛車から早い攻めもありません。

 

最後に、△97桂成に▲同桂なら、△96歩で桂を取りに行き、後の△84桂が△76桂だけでなく△96歩▲同香△同桂▲77銀△84香のような筋も狙っており、振り飛車が指せます。▲86角型には、香を入手してからの△84香が急所の攻めになるようです。

 

というわけで、ここで一旦、区切りとしたいと思います。

 

角の逃げ場所だけでも沢山あって大変ですが、1つ1つ丁寧にやっていくことで、理解が深まる感じがしています。

 

次回も一直線穴熊です。