「!!、あ、いやいやあの、
   なんか変な言い方になって
   すみません、、」


   私の少し息を呑んだような表情に
   与田医師はハッとして
   慌てて両手を振りながら
   一歩後退りした。


   「いや、あの、、
   僕たち医師が患者さんのお部屋に
   来れる時間が緊急以外では
   この夕食の時間あたりまでで、、
   その、、あの、すみません、なんか、」



   その少し赤くなった顔を隠すように
   やや下を向きながら慌てる様子が
   なんだか可愛く見えてしまって
   私は笑っていた。


   「いえ、先生
    なんか嬉しいです。
    先生には与えられた仕事でも
    こっちは痛いしここから動けないしで
    なかなか人と話せる機会もないし
    私は先生とこうやって話せて
    心がホッとしています。」


    「あ… ありがとうございます。
    そんな風に言ってもらえると
    なんか、、、僕も嬉しいです。」


    与田医師は
    赤くなった顔を片手であおぎながら
    掛けているメガネをくいっとあげた。


   「あ、、っじゃあ…
    あとは大丈夫…ですかね、
    
    えっと、じゃ
    また明日来ますね〜
    しっかり食事とってくださいね」



    そう言って
    やっぱりちょっと慌て気味に
    与田医師は病室をあとにして行った。



    少しあったかい気持ちと
    少しドキドキが残っていて
    その日はほんのちょっと
    眠るまで時間がかかってしまった。




    次の日ーーーー




    看護師さんが午前の検温の時に
    

   「海山さん、申し訳ないんだけど
     今日ベッド移動してもらいますね〜
     ここの部屋
     ナースステーションのすぐ前で
     術後すぐの患者さんを入れたいから
     ごめんなさいね〜
     
     ベッド移動は看護師と看護助手が
     手伝うから
     海山さんは特になにもしなくても
     大丈夫ですよ。
     10時の回診後に移動しますね〜」

    
    と笑顔でそれだけ告げて
    隣のベッドへと移動して行った。


    
    回診には
    やっぱり知らない医師が
    研修医さんやらを連れてやって来て
    
    「はい、異常なしね〜
     キズも綺麗になってきたね〜
     これ、誰がやったんだっけ?」

     とパソコンのカルテを覗き
    
    「あ〜そうなんだ、へぇ」

    と言って隣の部屋へ行ってしまった。




   ??なんだそりゃ?
   与田先生の知り合いか?
   まぁそっか、そりゃ知ってるか


   などと
   どうでもいい感情に流されていたら
   ささささっと看護師さん達が来て



   「ごめんね〜 急ぎで移動するね〜
   
   ICU の患者さん準備できてる?OK?
   はいはい、じゃコレ運びましょうか」


   と看護師さん同士の会話も慌ただしく
   チャチャチャチャっと
   移動が進んで行く。


   
   すごいなぁ、看護師さんって。。。


   毎日
   医師のみなさんもだけど
   命と向き合って
   仕事してるんだもんなぁ、、、
   いや、ホント凄すぎる。。。。



   と思ってる間にベッドも荷物も
   移動され
   私は用意された車椅子に乗せられ
   丁寧に運ばれて行った。




   その日の夕方

   「夕食でーす。」
   

   と調理の方々が夕食を届けてくれた。



  私はありがたく食べ進めながら

  
  あら?
  いつもはこんな時間に
  与田先生来てくれるのに
  今日はお忙しいのかな?、、
  とちょっと寂しい気持ちになっていた。


  食べ終わり
  食器を回収してもらったあと
  

  ちょっと焦りながら
  コンコンっ!と入り口を叩く音がした。


  「あ、… あれ、もうっ
   びっくりしましたーー!!
   移動してたんですねー、、
   
   さっき行ったら
   呼吸器つけた重症な患者さんがいて
   海山さん、いつ急変したかと
   焦りましたよーー!」


  と、いつになく早口で
  与田医師がカーテンをふわっとさせて
  現れた。



  私は安心感と
  嬉しい気持ちで自然と笑顔になっていた。