それから毎日夕方になると
 与田医師は様子を見に来てくれた。

 コンコン
 っと静かに病室の入り口をノックして
 カーテン越しに
 「海山さーん、失礼しますねー」
 と やって来る。
 
 
 「どうですか〜? 変わりないですか〜?」
 と決まってやや下向き加減で
 そっとカーテンを開ける。

 「あ、はい。まぁまぁです。」

 「そうですか。なによりです。
  キズ口も経過はよさそうですね。
  何か気になることはありますか?」

 「あのー、救急搬送された時
  血糖値が高すぎるとかで
  糖尿病かもって言ってたじゃないですか?
  それってどうなんでしょう?」


 「なるほど。そうですね、
  ICU に入ってた時の数値が
  あまりにも高かくてちょっと大変でしたね。
  油断せず糖尿病治療の対策も
  とった方がいいかも知れません。」

 「なるほど〜どんなことに注意すれば?」

 「うん、まず食事に注意ですね。
  入院中に
  管理栄養士から指導を受けてください。
  それと糖尿病のリスクとしては
  『し・め・じ』です。」

  「しめじ??何ですか??」

  「はい。し、は神経。
   手先や足先が麻痺してきて壊死に至る。
   め、は目です。
   視力が落ちたり
   緑内障から失明に至ったり。
   じ、は腎臓です。
   腎臓機能が落ちて腎不全や
   血管機能に弊害が出ます。」


      「えー、、怖いですね、糖尿病、、」


  「そう。
   だから回復出来るうちに体調管理です。」

  「はぁ、、なるほどです。」


  そんな風に
  病気に関していろいろ分かりやすく
  教えてくれたり
  ちょっと世間話も交えたり
  とにかく心が和んだ。


  病院食が始まってからは
  だいたい夕食時間に覗きに来てくれた。

  「あれ?与田先生、
   今日は白衣じゃなくて
   ユニホーム違いますね?」

  「あ、これ。
   ちょっとさっきまで手術してて」

  「え。そんな、先生
  ちょっとコンビニ行って来た、みたいに」
  と大笑いしてしまっていた。



 「や、早く行かなきゃ
  海山さんに会える時間がなくなるから
  急いで来たから着替えられなくて」



  うわっ。なに。



  なんかドキっとするじゃん。。



  気軽にそんな言葉
  発さないでよ、、、


  与田医師の何気ない言葉が
  妙に心に刺さってしまった。