武藤医師は準備に入った。

  

  看護師さんたちは防水シートや

  受け皿やあれこれ用意しながら 

 

  「ちょっと頑張りましょう!

  少し吐きそうなのは我慢しましょうね」

  と背中をさすりながら

  寄り添っていてくれた。


  「はい、じゃあ始めますね〜

   ゆーっくり息をすって吐いて〜

       鼻から息吸いましょう、ゆーっくり〜」

  

  落ち着いた口調で武藤医師は

  モニターを見ながら私の口から内視鏡を

  挿入して行った。


 「... うっ、、おぇっっっ、、」と

  当然の拒否反応。

 

 「あ〜、大丈夫ですよ〜鼻から息吸って〜…

  

  え?ん? あ、え?これ、、、

  出血が酷いな、、これ吸引していきますー

  んー、、うわぁ、かなり、、、だな〜

  ちょっとクリップくださいー!!」

 

 「はいー!いくつ必要ですかっ!」

 「とりあえず〜、、6個!ある⁈」

 「はいっ!!」

  

  全然見えないけど

  クリップとやらが用意された。

 

 「うー、、ん、こりゃ凄いなー、、」

  武藤医師は少し戸惑っているようだった。

  

  その間にも私は うおぇっ、、と

  吐き気をもようし続けた。


 「海山さん、もうちょっとがんばってー

  まだ内視鏡抜けないからね〜

  ここからね、凄く痛いと思うけど

  頑張ってよー!、、

  

  わ〜っこれは凄いな〜

  じゃもうちょっと奥に入るから

  ぐっと頑張って!」と

  

  モニターを見ながら、まるで

  何かを操縦するコックピットにいるかのように

  武藤医師は手に力を込めていた。

  

  「ごめんねーちょっと痛いよー!」

  

  「!、、うっ!!!ぐわっ!!ゴエっ!」

  っともの凄いドンっとぐさっと言う痛みが

  おへその内側から突き上げた。

  

  「痛いねー頑張ってー!

  

  クリップ留めるよー!っと、、、

  わっ、足りないなー!!!!!

  おーいっ!!!クリップあと4個あるー?!」

  

  私は激痛と気持ち悪さで

  もう何が何だかわからない状態で

  とにかく早く内視鏡を抜いてほしかった。

  

  「じゃもう1回痛いよーっ頑張るよー!」

  

  「!!、、うぅっっ、ゴワッっっ、!、」

   

   痛いっとかって言う次元じゃない!!

   なんだっ?これっ??

   っと武藤医師の予告通りの痛みに

   絶句と悶絶しながら

   

   内視鏡を操るその動作で

   もの凄く痛いよ!って分かる医師って

   凄いなーっと頭の片隅で思っていた。


  「あー!!まだ出血するなー!!

  クリップあと何個あるー!?」

  武藤医師も必死な様子だった。

  私はゴホッとまたかなりの血を吐いた。

 

  「もうちょっとだからねー、、、

  お、、よし、これで、なんとか、、、、」

 

  私は苦しすぎて

  自分の体がどこにあるのか分からないような

  感覚に襲われていた。

  

 「よーし。頑張りましたねー

  じゃ、ゆっくり抜くよ〜」

  っとようやく内視鏡が取り除かれた。


  背中をさすっくれていた看護師さんが

  口元を綺麗に拭き取り

  体の向きを上に動かしてくれて

  ブランケットを掛けてくれた。

  ひとまずホッとして目を閉じていると

  5人ほどの医師の会話が聞こえて来た。


  

  「このままだとマズいですね」

  

  「これ、開腹してどうにかなりますか?」

  「やってみるしか無いと思うよ」

  「いや、リスクが高すぎるでしょ」

  「僕ならやりませんね」

  「いや、開腹して出血とめるしかないでしょ」

  「リスク高すぎますって!」

  

  「これ、出来る先生いる?山中先生は?」

  「ちょっと連絡とってよ」

  

  「他に外科の先生残ってる人いる?」

  「あー 山中先生電話出ませんー!」

  

  「いや、やっぱりやめた方がいいですよ」

  「いや、僕はやった方がいいと思う」

  

  「あのっ!与田先生 (kinggnu井口理さん)

   まだ院内にいますよー!!」

  

  「よしっ!じゃ与田先生にお願いしよ!」

  

  「やるんですか?これ」

  

  「ああ。やるよ。

   このままだとこの患者さん死んじゃうよ?

   俺は見過ごせないな。最善を尽くす。

   主治医は俺がやるから。

   家族の人にも俺が話すから。」と

   武藤医師は反対する医師の方々に言い放ち

   ほんの少し笑みを浮かべた。