救急隊の人が由良(ゆら)に説明している時点で

 私の記憶は薄れて行った。


 バンっ!バンっ!バンっ!!!

 と、少し強めに肩を叩かれ意識を取り戻した。

 


 「海山(みやま)さんっ!聞こえますかっ?

  海山さんっ!!病院ですよ!!」


   看護師さんなのか女性のスタッフさんの声。

 

 病院、着いたのかぁ、、。

 なんとなく聞こえる声に少し頷いた。


 また肩をバンバン叩かれ

 「海山さんっ!聞こえますか?

  返事出来ますかっ⁈」

 

 「は、はい、、」

 

 「聞こえてるのかな?この患者さん?!

  意識あるよね?

  聞こえますかー?!海山さーんっ!!」

 

 「… あ、聞こえてるんだけどな、、

  返事もしてるんだけど声、届いてないのか…」


  次は男性の声で

 「海山さーん、研修医の菊池ですー

  採血していきますねー、聞こえたら

  返事してくださーい」と

  右腕のパーカーの袖を捲り上げながら

 「あーこれごめんなさい、生地が厚いから

  洋服切らせてもらいますよー」と

  ザクザクっと袖を切り開き血管へ注射針を

  刺して行った。

  

  「うーん、、血管細いなぁ

   上手くはいらないな〜

   佐藤さーん!

   こっち手伝ってもらえますかー!」

  「はーい!

   はいよー!えっと研修医の佐藤ですー

   海山さーん、反対側の腕も

   見せてくださいねー」

  「看護師の佐久間ですー

   腕見せてもらいますねー」

        

   と、なんだか両腕に

   3、4人くらいのスタッフさんが

   来てくれていた。

   替わるがわる看護師さんや医師の方々が

   側に訪れては名前を名乗って

   処置をしてくれてる。

   意識があるかないか分かってない中で

   ちゃんといちいち名乗ってくれるなんて

   日本の医療人って凄いなぁ、と

   ぼんやりと考えていた。

   するとまた、

   

       バンっバンっバンっと肩を叩かれ

  「海山さーんっ!!聞こえてますかー!

   意思表示お願いしますっ!

   輸血が必要なんですっ!海山さーん!

   答えてくださいっ!

   これやらないと

   私達があなたの命を救えませんっ!

   海山さーん!!輸血させてください!!」

   

   うぉぉ、、っと、、なんと

   

   この女性の看護師さんの言葉が

   ずんっと胸に響き

   「…、、んっ…っ、は、はいっ!!!」

   っと私は思いっきり力を込めて声を出し

   コクコクと精一杯頷いた。

  

  「はいっ!ありがとうございます!

   聞こえました!ではこの書類に同意と

   記入しますね!輸血して行きます!」

        

   ガシャガシャといろいろな器具が用意され

   輸血が始まったようだった。

   このもの凄くたくさんのスタッフさんが

   テキパキテキパキ動いてる中

   私はぼんやりとした視界のなか

   たぶん瞼は薄く開いてる状態で横たわり

   処置をし続けてもらっていた。

   

   「海山さーん!

   目、開けてみましょうかー⁈

   今から少し移動しますー」

        ガラガラガラガラっと違う室内に入り

   空気が少し変わった気がした。


  「今からね、内視鏡でお腹の中

   診て行きますよ。

   ちょっと体、横にしますね〜」

   と動かしてもらい

   3台くらいのモニター等々が確認出来た。


   喉がカラカラすぎた私は

   側に立っていた看護師さんに

   「あの…水、飲みたいんですが、、」

   と声をかけた。

   「あ、ごめんなさい、もう一度、、」

   と私の口元に耳を近づけて看護師さんは

   対応してくれた。

  「えっ?、、あー、、

   今検査中なのでお水を飲むのは、、」

   と申し訳なさそうに答えてくれた。

   

   冷静に考えたらそりゃそうだ。

   今から内視鏡を

   喉から入れて行くって言うのに

   水を飲むなんてもってのほか。

   わ〜バカなこと言っちゃったな〜

   っと思っていたところへ

   さささっと

   目の前に1人の医師が現れた。

   

   「消化器内科の武藤です。(kinggnu常田大    貴さん)」

   

   大きなモニター画面の前に座り

   すぐ左横のベッドに横たわる私に

   胸ポケットつけてあるネームプレートを

   ちょっと向けて

   少し顔を覗き込んでくれた。

   

   武藤医師の顔はよく見えなかったけど

   ちょっと威圧感は感じた。

   

   モニター画面を見る医師の

   ちょうど左膝あたりに

   私の左頬がある感じの距離感。

  

  「えー、っと。海山さん。

   海山楓衣(みやまかい)さんね。31歳、と。

   

   内視鏡、胃カメラ検査は

   やったことありますか?」

   

   私は首を横に振った。

  

  「あー、、初めてなんですね〜

   んー、、と、

   今からちょーっと頑張ってもらいますね」

   と

   モニターを見ながら手袋を装着して

   武藤医師は準備に入った。