※  妄想小説です 

実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません 

BL的表現を含みます。

 

 

智side

 

風呂からあがって、エアコンの下で涼んでいるとキッチンから呼びかけられた。

 

「智~、ビール飲もうよ~」

 

「おぅ」

 

「つまみとかどうする?」

 

「そうだなぁ…やっぱ夏だし」

 

この前買い置きしたアレが残っているはず。

 

冷凍庫をガサゴソ探ると、目当ての物が見つかった。

 

「何か作ってくれるの?」

 

「作るってほどの物じゃないよ。

翔は向こうで待ってろよ」

 

「智が何作るのか見たい!」

 

「じゃ、俺の代わりにお前が作ってみる?」

 

「え?俺でも出来んの?」

 

「出来る出来る!

茹でるだけだし」

 

「茹でる…?」

 

「ほら、これだよ」

 

カチコチに冷えた袋を手渡すと、翔の顔がパッと輝いた。

 

「枝豆!」

 

「そ、ビールのおともに最高だろ?」

 

「だね!そっか~。

こういう物が売ってるんだ~」

 

「簡単だからやってみろよ」

 

「うんうん。

じゃ、まずお鍋?」

 

「これ使え」

 

「よし!えーっと。

どのくらい茹でようか?」

 

「それ結構量あるからなぁ。

半分くらいで良いか…」

 

「お水は?どのくらい?」

 

「結構たっぷりめ」

 

「じゃ、こんくらい?」

 

「ああ、そこに枝豆入れて火にかけて…」

 

翔に作らせるつもりが、結局付きっきりになっている…。

 

まあ、こういう作業を2人でするのも楽しいから良いけどな。

 

翔が枝豆を茹でている間に、ザルと皿を用意しスタンバイする。

 

そろそろ良いかな?

 

「翔、もう良いよ。

そこのザルに移して」

 

「らじゃ!」

 

ホカホカと湯気を立てる枝豆の完成だ。

 

「ホントに簡単に出来るんだね~」

 

「だろ?

レンチンする方法もあるけど、俺はこっちのやり方の方が好きなんだよ」

 

2人でリビングに移動し、枝豆をつまみにビールで乾杯をする。

 

「うんっ、旨い!」

 

「この塩気と豆の甘味が最高だな~」

 

「だねぇ。

すげえ、夏って感じがする」

 

「ふふ、そうだな」

 

火照った身体に沁み込むほろ苦い炭酸が心地いい。

 

強か呑んでいるうちに身体までフワフワしてくる。

 

今日は色々あったからな…。

 

風間さんに打ち明けるのは勇気がいったし、緊張もした。

 

それが今、全部解きほぐされている感じがする…。

 

これは酒のせいだけじゃないよな。

 

隣に翔がいるからだよな…。

 

ほんのり紅く染まった頬を眺めながら、しみじみ思ってしまう。

 

こんな時間がずっと続けば良いのにって。

 

「智…」

 

「ん?」

 

「毎日こうやっていられたら良いのにね」

 

「…ッ」

 

今まさに考えていた事が翔の口から漏れてドキっとした。

 

もし俺が芸能人じゃなければ、容易い事のはず。

 

「ごめん、困らせたね」

 

「いや…、

俺も同じこと考えていたから…」

 

「ホント?」

 

「ああ」

 

「ふふ、その言葉だけで嬉しいよ」

 

「言うだけなんて意味ないだろ?」

 

「そんな事ないよ。

今は無理でも、きっとそういう日が来るって思っているし」

 

「…そっか」

 

「って思ってても、やっぱ欲が出るよね」

 

「ああ、そうだな」

 

「今だって…十分幸せなのについ高望みしちゃうんだ」

 

「……」

 

翔の言いたい事は分かっている。

 

分かっているつもりだ。

 

別れていた2年を思えば…今がどんなに幸せかって事だろ?

 

でも俺も高望みしてるんだよ。

 

もっと翔と一緒にいたい。

 

誰にも隠すことなく、正々堂々と2人で過ごしたいって…。

 

迷路みたいな場所でグルグルするのはもう嫌なんだよ。

 

「ごめん、困らせた?」

 

「いや…。

困ってなんかないよ」

 

ただ少し…。

 

いやかなり申し訳ないって思うだけだ。

 

そんな事を言えば、翔は気に病んでしまう。

 

そう分かっているから言いはしないけど…。

 

言わなくても伝わってしまっている気がするけどな。

 

しんみりした空気を破るように、翔がワントーン明るい声を出す。

 

「何か、別のもの呑もうか?」

 

「ん、だな。

翔の好きな芋焼酎も冷えているぞ」

 

「え!やった!

智も呑む?」

 

「ああ、そうしようかな」

 

こういう時の翔の笑顔はすげぇ癒しになる。

 

暗くなりかける心をパッと晴らしてくれる太陽のように思えるんだ。