※  妄想小説です
実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません
BL的表現を含みます







皆んながワイワイしてる中、そっと俺に近づいてきたカズが眉をひそめて声を掛けてきた。

「翔ちゃん…
智とまたなんかありました?」

ギクッ!

咄嗟な事に表情を隠しきれない俺を見て、カズが溜息を漏らす。

「はぁ〜…
次から次へと…
今度はなんなんです?
なんか智はずっと機嫌が悪いし
翔ちゃん、なんかやらかしました?」

おい!
なんで俺がやらかしたって決めつけてんだよ!

でも、当たりなだけに反論ができない…

カズがチラッと智くんの方を見て

「ま、ここじゃあれなんで
帰りにどっかで聞きますよ」

智くんへ視線を向けたまま、こそっと耳打ちしてくる。

「あ、あぁ…」

有無を言わせないカズの言葉に、生返事を返す。
頷いたカズが皆んなの輪に戻っていった。

その時、こっちを向いた智くんと視線がぶつかった
笑ってた顔が、スッと真顔に戻って直ぐに視線を外された。

くそっ…

智くん、まだ怒ってる…

俺だって、智くんがあんなに怒るなんて思わなかったんだ。

でも…

そうだよな。

智くんはあんな可愛い顔してるけど、中身は結構男っぽい。

まあ、そのギャップがまた良いわけなんだけど…

じゃない!

そんな男前な智くんが、女扱い…てか彼女なんて言われたら、そりゃ怒るか…

かと言って俺が彼女って言われても、それはそれで俺が嫌だ。

こんな平行線しか辿れない問題、どうやったら解決するんだよ…

いや、解決…しない?

え?

じゃあ…

もう智くんと付き合えない!?

そんな!

俺、やっと自分の気持ちを自覚して

失恋したと思ったけど、大逆転で智くんと付き合える事になったのに!?

そんなの…

絶対嫌だ!!


「…ちゃーん。しょうちゃーん!」

ん?

誰か呼んでる…?

顔を上げると、目の前で潤が手のひらを俺の顔の前でヒラヒラと振っていた。

「大丈夫?何回呼んでも返事しないし…」

「ああ…大丈夫だよ。
何?なんかあった?」

潤が眉間に皺を寄せる。

「ほら、やっぱり聞いてなかった。
これからあのマイク、テストしようって
話してたんだよ」

ああ、なんだそんな事か…

「マイクね。おっけ。
今からやる?」

それから、松岡先生にも手伝って貰って
ヘッドセットマイクをつけて、皆んなで歌った。

マイクの性能が抜群なのは、素人の俺らでも分かった。まあ、智くんは使った事あるって言ってたから知ってるだろうけど。

「凄いね!このマイク!
こんな小ちゃいのに、細かい音までしっかり拾ってるよ!」

雅紀が目を見開いている。

「本当ですね。これじゃ下手に息切れなんて
出来ませんねぇ…」

カズが口の端を上げてニヤリと笑う。

「まあ、俺らかなりその辺の練習もしてきたし
その心配はしなくても良いんじゃない?」

潤が自信有り気に言う。

「じゃ、今日はこの辺で終いにするか。
また明日からこれ着けて練習するぞ」

俺がそう締めくくり、片付けをして皆帰る支度をする。

「ねえ、カズ!
この後カラオケ行かない?
俺、さっき声出てない部分あったし」

雅紀が眩しいくらいの笑顔をカズに向け、誘っている。

ちょっとだけ顔を赤くしたカズが、俺をチラッと見て

「今日はダメです」

素気無く断るカズに、しょぼんとする雅紀。

「そっかぁ…残念。
じゃあまた今度ね」

心底残念な響きの声に、心の中で謝る俺。

ごめん。雅紀


そして、いつもの駅前。

ハンバーガーにかぶりつきながら、向かいに座るカズが口火を切る。

「で?なんで…ムシャ
智は…ムシャ、ムシャ…」

「おまっ、きたねーなぁ〜
食ってから話せよ!」

「はいはい、ゴックン…
で?なんで智はあんなに機嫌悪いんですか?」

「それは…その…」

良いのかな?智くんこの話カズにしたら余計怒らない?

俺が言い淀んでいると、それを見透かすようにカズが続ける。

「心配しなくても誰にも言ったりしませんよ。
まあ、大方?
翔ちゃんが余計な事言ったんでしょ?」

憎たらしい奴!

ズバリなとこを突いてきやがって…

「何を言ったか知りませんけど、悪いと思ってるなら謝れば良いんじゃないですか?」

ポテトをひょいと摘みながら、口をもぐもぐさせている。

あや…まる…?

言われてみれば、俺、智くんに謝ってない!