私が、
長男の声を聞いたのは
「バイバーイ!ここだから!!笑」
というのが最後だ。


その翌日も、私はあの街にいたけど
会ってはいないし、
電話もしていない。



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長男の住まいは、
私がロックオンした3~4軒のうちの、
一つだった。


私は、
自分の勘は
どれだけすごいんだ
私って人間じゃねーな…と
翌朝、ホテルの前の運動公園を散歩しながら
天を仰いだ笑





本当に、警察は
息子の拠点については
頑なに言おうとしなかった。


地域は特定できていたとしても、
田んぼだらけで民家のないような
山の中ではない。
フツーの、住宅が密集した、町だ。


では、なぜ
数十軒いや数百軒あるかもしれない住宅から
私はたった数軒に絞れたのか。




私は、警察が話す
言葉の一つ一つ、息づかいまで
聞き逃さなかった。


「じゃあ、
息子が財布を取りに行ったアパートは、」

「私が聞いているのは、
住民登録がされているところではなく、
今、息子が寝食をするアパートなんです!」


私が、何度もそう言っても
警察は私をはねつけたけれど


「ですから、息子さんの、
えーと、今いるところは、」

「ん~、…住まいの、」


と、
私が使う『アパート』という言葉を
警察は使おうとしなかったのだ。



そこに気づいた私は、
わざとに
「だったら、息子はアパートに、
~で、~で、こうなんですね?
警察は、そうおっしゃったということで
間違いないですね?」
と、
警察に復唱させるようなことを促した。



やはり、警察は、
「アパート」とは言わなかったし、
言おうとする時の、
ほんのコンマ数秒のためらいのような
言い換えを探すような“間”と息づかいで



私は、息子の住まいが
一般的なアパートではないことを
確信した。



私が探したのは、
不動産屋さんがイマドキの学生さんに
紹介するようなアパートではなく


昭和の時代
それも1960~70年代あたりの
田舎から出てきた貧乏学生や
都会に働きにきた若者がいそうな、
一般住宅の二階にある、
いわゆる『下宿』タイプの住まいだ。



これは、パッと見
フツーの住宅に見えるので
わかりづらいが、
特徴さえつかめば
グッと絞ることができる。



私はこうして、
警察の、“息づかい”にまで耳を澄ませ
『アパート』と表現することを
ためらうような声により、
3~4軒の下宿タイプの住まいを
探しだした。



その中の一軒は、
完全にフツーの住宅風で、
3~4軒の候補に入れようか外そうか
随分迷ったのだけれど


磨りガラスの窓からうっすら見える、
部屋の中にかけてある
窓際近くのブルーらしきシャツが
気になっていた。
ブルーかどうかが、ようやく判別できる程度の
ぼんやりと映るシャツ。


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長男が高3の頃
私は確か
地元のSPORTS DEPOで
kiss markのデニムのシャツを買った。
スポカジとかスキーウェアの、kiss markです


長男は随分気に入り
そのシャツばかりをヘビロテし、
大学に入ってからも
しょっちゅうそのデニムのシャツを着て


私が
「それ、随分着古したわよね」と言ったら
「これはダメ!俺、気に入ってんだから!」
と捨てるのを嫌がった。
おしゃれにはまったく興味を持たない長男が、
こんなことを言い、
思い入れを衣類に持つのは
大変珍しいことなので、
よほどそのデニムシャツは
お気に入りだったんだろう。




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その、一般住宅は
下宿タイプにすら見えなかったのだけれど、
私はkiss markのデニムシャツのことを
ふと思い出し、
「候補の一つに入れとくか~うずまき
と一応チェックしてた。



長男の住まいは、
その、ブルーらしきシャツが
磨りガラスの向こうにうっすら見える
部屋だった。



かなりの高齢のご夫婦のお宅で、
随分前
地方から大学進学で出てきたお孫さんが
二階に下宿できるよう改装されたとかで、
表からは見えないところに
外階段がつけられていた。




この、狭くて古くて暗い
二間の下宿が、
長男の安住の地だった。