足の踏み場、象の墓場 | 喜劇 眼の前旅館

喜劇 眼の前旅館

短歌のブログ

かたちととのえながらゆうべの足音を靴にかさねてゆく雨通り


投げ上げた穴あき帽子! おめでとうの云える機械にふかく囲まれ


生まれてから一度もきみが終バスに乗ったことのない話をしよう


いいえわたしはホテルではなく牢屋です 赤いのは眼できみをみている


聞こえてるつもりのクラウン人形を洗ってた夢の中で唄って


砂の吹く中央通りにバスがなくだらりと腕にまきつけたバッグ


眉を順路のようにならべて三分間写真のように生まれ変わるよ


月光はわたしたちにとどく頃にはすりきれて泥棒になってる


勇気ある安コーヒーの迷路からとびだせホース! 散らかしながら


中里さんの塗り替えてくれたアパートに百年住むこの夕暮れから




(初出『朝日新聞』2011年4月26日夕刊「あるきだす言葉たち」)