「いらないものあげる」 我妻俊樹
坂ばかり 私は錆びた自転車が好きだと君に思われている
トンネルを騒がしくする一団のいちばん前をゆくしゃぼん玉
猿ぐつわされてる猿の横顔を(写真はイメージです)愛してる
三分間写真に朝まで閉じ込めておくために買ってきた生野菜
消えたまま襖を映す大きすぎるテレビいらない あげる いるなら
自転車はどこに捨てても何度でも帰ってくると母が云うから
階段をのぼっていたら歯車で回りはじめる ような気がした
首都高を台車が進むサングラスはずしたことがない歌手揺れて
本当は百年前から待っていたバスだから乗れただけかもしれない
遺伝子はなにも見てない窓の外ながれる屋根も浮く雨雲も
顔のない(あるべき場所に椅子のある)男が目の前に立っている
「ごめんね人間はもう終ったんだ そう云うぼくも間にあわなかった」
若者が食べる花しか咲かせないつぼみを鳥たちが食べてしまう
夜道から帰ってくると快速に飛び込むひとの気持ちに近い
屋根裏がよくないことを考えているのでぼくも汗ばんでいた
Tシャツがはためくほどの南風吹く あればだがお金をわたす
振ればまた点くいつのまに消えている懐中電灯が壁に吐く環
壁紙が剥がれかけてる 人生を棄てる夢から誰かが覚めて
君を妊婦にしておくのはなんか惜しいね そんなこと別に思ってない
あのことで文句があって玄関で待ってたけれど空き家だった