連作20首:自転車用迷路集001 | 喜劇 眼の前旅館

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短歌のブログ

 「いらないものあげる」  我妻俊樹


坂ばかり 私は錆びた自転車が好きだと君に思われている

トンネルを騒がしくする一団のいちばん前をゆくしゃぼん玉

猿ぐつわされてる猿の横顔を(写真はイメージです)愛してる

三分間写真に朝まで閉じ込めておくために買ってきた生野菜

消えたまま襖を映す大きすぎるテレビいらない あげる いるなら

自転車はどこに捨てても何度でも帰ってくると母が云うから

階段をのぼっていたら歯車で回りはじめる ような気がした

首都高を台車が進むサングラスはずしたことがない歌手揺れて

本当は百年前から待っていたバスだから乗れただけかもしれない

遺伝子はなにも見てない窓の外ながれる屋根も浮く雨雲も

顔のない(あるべき場所に椅子のある)男が目の前に立っている

「ごめんね人間はもう終ったんだ そう云うぼくも間にあわなかった」

若者が食べる花しか咲かせないつぼみを鳥たちが食べてしまう

夜道から帰ってくると快速に飛び込むひとの気持ちに近い

屋根裏がよくないことを考えているのでぼくも汗ばんでいた

Tシャツがはためくほどの南風吹く あればだがお金をわたす

振ればまた点くいつのまに消えている懐中電灯が壁に吐く環

壁紙が剥がれかけてる 人生を棄てる夢から誰かが覚めて

君を妊婦にしておくのはなんか惜しいね そんなこと別に思ってない

あのことで文句があって玄関で待ってたけれど空き家だった