国内で耕作されていない農地「耕作放棄地」が増えている。高齢化で農家が減っていることなどが理由だ。専門家は「農家に任せるだけでは放棄地は増える一方」と指摘する。そんな中、農業生産法人やNPOが工夫して放棄地の再開墾に取り組むケースも出てきている。【山口知】


 三重県鈴鹿市の中心部から西に約5キロ。同市国府町の川沿いに約3000平方メートルのヒエ畑がある。


 農業生産法人「ドリームファーム」(鈴鹿市)専務の杉本二良さん(52)と従業員の前田安弘さん(60)は今春、この土地を重機を使って再開墾した。約5年前までは花が栽培されていたが、放棄地となり、竹が生い茂っていた。


 ヒエは乳牛の餌として近くの酪農家に販売する予定だ。杉本さんは「飼料の価格が高騰し、需要はありそう」と話す。法人は他にも近くで4カ所、計約1ヘクタールで放棄地の再生に取り組む。


 法人は耕作放棄地以外でも、約30ヘクタールの田畑で稲、花などを栽培。農業で収益を生もうと飼料用イネなど新品種の栽培に意欲的に取り組む。放棄地を利用しての牧草作りはその一環だ。杉本さんは「需要があれば、もっと放棄地を再生して牧草を作りたい」と意気込む。


 「プロの農家に『あんなひどい所で、よくがんばったね』とほめられることもあります」。そう言って笑うのは同県四日市市のNPO法人「四日市農地活用協議会」代表理事の矢島正浩さん(62)だ。会は04年から四日市市内の耕作放棄地を再生してきた。放棄地の活用に興味を持った矢島さんが地主から無料で土地を借り、会員を募集。約20人の会員と約6000平方メートルの畑で野菜などを栽培している。今後も畑を倍近くに増やす予定だ。


 1人あたりの耕作面積は約70~330平方メートル。ほとんどの会員が会社員など農業の素人だ。耕す動機は「農作業を楽しみたい」「社会貢献したい」などさまざまという。


 矢島さんも本業はグラフィックデザイナー。「素人でも農作業ができないわけではない。我々のような動きが全国に広がれば」と期待する。


 三重大学生物資源学部の石田正昭教授(農業経済学)は「農家による再開墾だけでは放棄地は減らせない。農家だけでなく地域の住民が、収益を度外視し、まちづくりの一環として耕作放棄地の再生に取り組むべきだ」と話している。


毎日新聞 2008年7月28日 14時10分