◇「安い労働力」1万3000人
 「今、彼らに抜けられたら困る」


 熊本県内でトマトのハウス栽培を営む50代の男性が話す。ハウスでは、20~30代の中国人4人が研修生や技能実習生として色づき始めたトマトの手入れに汗を流していた。


 4人は、2年間の予定で来日した。敷地内のはなれで生活し、帰国後の資金をためながら技術を学んでいる。「国に帰ったらハウス栽培をやりたい」と口をそろえた。


 この農家は05年に中国人研修生の受け入れを始めた。他に日本人4人も雇っているが、「研修生は若くて行動力がある。限られた期間に仕事を覚えなければいけないから意欲が高く、理解力もある」と研修生を評価する。


 一方、日本人は、原則として植え付け時期の9月から収穫の翌年6月までの条件で募集するが、3カ月程度で辞める人が大半。60歳前後がほとんどで、冠婚葬祭などに伴う休みも多い。20代の若者がたまに応募してくるが、せいぜい1週間程度しか続かないという。


 農漁業の現場で働く外国人研修生・技能実習生は06年度の推計で約1万3000人。5年前の約5000人から2・6倍に増えた。目的は技能習得だが、農林水産省の担当者は「労働力として期待されている面があるのは事実」と認める。


 背景にあるのは農家の高齢化と後継者難だ。日本の農業就業人口は07年で312万人。ピーク(1960年)の1454万人から4分の1以下に減り、しかも65歳以上が6割を占める。06年の新規就農者は約8万人だが、40歳未満は約1万5000人に過ぎない。


 受け入れ先が、研修生らに違法な深夜労働や低賃金を強いるケースも増え、農業でもトラブルから訴訟や事件が起きた。対応を迫られた政府は今年3月、最低賃金法などの労働法規を研修生にも適用する方針を決めた。


 食料自給率低下の要因の一つは、安い輸入品の攻勢にさらされた農漁業の衰退。その現場を今度は、「安い輸入労働力」が支えている。=つづく


毎日新聞 2008年7月1日 東京朝刊