施設園芸で土着天敵の利用を促すため、高知県は「特区」の申請を目指している。たいへん興味深い。しかし、こうした意欲的な取り組みが、「特区」を設けることだけでしか対応できないところに、農薬取締法(農取法)の不備がある。これを機に、農水省は農取法を見直し、改正してはどうか。


 高知県の「特区」構想は、園芸施設の中で、害虫を捕食する天敵の利用拡大を狙ったものだ。天敵は、商品として市販されている昆虫もあるが、ここで利用を進めようとしているのは、地元にすみ着いている「土着天敵」と定義されている虫たちだ。


 市販の天敵と違い、無料で手に入る、地域の環境にも合っている、生態系を乱す恐れが少ない――などの利点がある。先進農家の中には、道端で土着天敵を見つける度に捕まえて、それをハウス内に放している人がいる。土着天敵は特定防除資材に認められているので、この行為は法的に問題ない。こうした農家にとって、防除資材としての土着天敵は、すでに身近な存在になっている。


 ところが、簡単に道端で捕まえられるからといって、捕まえた土着天敵を増殖して使うことはできない。昆虫マニアはしばしば、捕まえた虫を飼育、繁殖し、増やすことを試みる。しかし、土着天敵を増殖し防除に使うと違法行為になる恐れがある。


 土着天敵は野外にいるから土着なのであって、人工の環境下で増殖した虫は、土着と判断されない可能性がある。土着でない虫に農薬的な効能をうたえば、無登録農薬とみなされる。天敵を捕まえる場所も問題だ。同省は「土着」の範囲を「県域」と考えている。県境近くにいる農家が県境を越えて天敵を捕まえた場合、その虫は「土着」と判断されない可能性がある。


 奇妙な法律である。特定防除資材の土着天敵と同じ効能が期待でき、安全性も同等といえるのに、自家増殖や県境を越えた採取は法に触れるかもしれないのだ。高知県で「特区」構想が出てきた背景が、ここにある。


 同法は、農薬の品質と使用の適正さを確保し、農業生産の安定と国民の健康保護に役立てるためのものだ。土着天敵の自家増殖が農業生産を妨げ、国民の健康を害するだろうか。特定防除資材の概念が同法に盛り込まれた際も、同じような議論が現場にはあって、結局、粉ミルク散布などの民間農法は使いにくくなった。


 現行のままでは、自由な農家の発想や前向きな工夫を縛ることになりかねない。同県の知恵を全国に広げるには法をそのままに「土着」の定義を運用で変える方法もある。しかし、同様の議論を繰り返さないためには、法の不具合を点検することが必要である。特定防除資材のあり方、天敵を規制することの是非などを検討してもらいたい。

掲載日:2008-7-13 11:36:00