大手企業が農業に参入したり、農産事業を拡大したりする動きが相次いでいる。特に目を引くのはスーパー、流通業者の積極的な姿勢だ。


 中国製ギョーザ中毒事件を機に消費者の要望が高まる食の安全・安心に応えるのが目的の一つ。さらには、世界的な食料価格高騰の時代を迎え、安定価格で食材を供給し続けるためにも、国内で良質な農産物を安定的に確保する必要がある。


 こうした背景を考えると、大手企業による農業参入が今後、拡大しそうな雲行きだ。


 スーパーのイトーヨーカ堂は8月、千葉県富里市に農業生産法人を設立。地元農協・農家の協力を得て農地2ヘクタールを借りて農場を運営し野菜生産を始める。野菜は同県内の自社スーパーで販売。今後3年間で全国約10カ所に法人を設立する計画だ。


 東北でも果物野菜販売の世界最大手・ドールの系列農業法人が登米市に「パプリカ生産工場」を整備する。非農地にハウスを建て2年後の出荷を目指す。


 秋田県大仙市に流通大手のイオンは「専用水田」を確保した。地元農業生産法人に農薬などの使用を抑えた特別栽培米約1000トンの生産を委託、作付けから販売まで一貫してかかわる。ほかでも専用水田を増やすという。


 企業の参入規制を段階的に緩和してきた法人制度改革が、こうした動きを後押ししているのも確かだ。中でも注目されるのが農業生産法人の活用だ。


 企業の出資は1社なら10%と制限されている。それでもヨーカ堂のように事実上の直営農場化が可能だ。イオンも委託法人への出資を視野に入れる。契約栽培から直営まで幅広いかかわり方ができ、法人の構成員である農家から栽培技術でも協力を得られるのがメリットだ。


 では、参入される地域のメリットはどうか。直接的にはドール進出例のように約30人の雇用が生まれる。生産委託を受けた法人は長期契約で安定経営が約束され、担い手難から危ぶまれた農地の遊休化も防げよう。


 だが、何よりも期待したいのは農業の再生・強化に企業とそのビジネスモデルを生かすことだ。加工・販売も含む農産物の高付加価値化と、それを実現する経営能力が農業の足腰を強くする条件だとすれば、企業との提携・協力関係を通じて得られる「刺激」は少なくないはずだ。


 農村では農地の取得・転用懸念などから、企業に対するアレルギーがある。農業生産法人は農地取得も可能だ。ただ、生産コストが高く地域内の協調・共助が欠かせない水田農業を直接営むことには二の足を踏もう。


 企業が農地を適切に長期にわたり利活用する主体かどうか。必要なのは事業内容を事前に、そして参入後にもチェックする機能を地域が持つことだろう。

2008年07月07日月曜日

河北新聞