耕作放棄により荒廃した農地に手を加え、里山を再生しようと、富士見町御射山神戸で、2つの住民グループ「御射里(みさと)の会」(小林松雄会長)と「ステップアップゼミ」(小林市子代表)が共同事業を行っている。

自然環境、水資源、景観を保全し、地域活性化を目指す取り組みで、9月からは入笠山山ろくの湧水群を整備し、石積み水路や池を新設する工事を行った。7日までにほぼ完成。昔懐かしい古里の風景がよみがえった。


 工事個所は八ケ岳の景観が美しい「太郎口」と呼ばれる東向き斜面。湧水が各所から湧き出し、昔は地域住民が飲料水や田畑に利用していた。江戸時代に開墾が進み水田が広がったが、近年は農業従事者の高齢化に伴い、耕作放棄地が増加。特にここ10年は顕著で、都会へ移り住む不在地主も増えている。


 不耕作地は雑草が人の背丈以上に生い茂り、人を寄せ付けないやぶと化した。水路は壊れ、周囲の農地にも影響を及ぼしている。やぶにはニホンジカやイノシシが棲(す)み付き、民家の近くにまで出没。

農作物被害のきっかけにもなった。


 「このままでは地域の荒廃に歯止めが掛からない」と懸念した地元の両グループが、地権者から使用許可を得て、昨年度から荒廃農地の再生に着手した。


 ボランティア事業のため資機材購入の資金はなく、各種助成金を申請。御射里の会は県の元気づくり支援金から128万円、同ゼミはトヨタ自動車の環境活動助成プログラムから137万円を受けた。


 今年度は5月に羊4頭を購入し、羊牧場を整備した。荒廃農地に囲いを作り、羊を放牧。雑草を食用に利用した。


 9月からは数個所の湧水を整備。約15人が土日に作業を行い、せせらぎを設け、下流には2つの池を造った。小さな池にドジョウやフナを放すと、イモリが棲み付き、オニヤンマの産卵場所になった。

「自然に帰っている」と小林代表。水量の豊富な湧水は、出口に石を積んで滝を作り水音を演出した。


 今後は、羊牧場をさらに数個所増やす予定で、森との「緩衝地帯」として、野生動物による農作物被害を減らす効果に期待する。


 小林代表は「湿地帯で農業構造改善事業ができなかったことが幸いした。耕作放棄地は逆に自然が保たれた場所であり、有効活用して、里山の素晴らしさを子どもたちに伝えたい」と話している。


更新:2007-10-8 長野日報