◆人格を奪われた"非人間”

 

マルタ・・「丸太」とは関東軍憲兵隊、同特務機関およびその下部にあったハルビン保護院によって捕えられたロシア人、中国人、朝鮮人、モンゴル人捕虜のことである。

 

関東軍に捕えられた愛国者たちは、その瞬間から人間ではなくなった。「丸太」であるから人間の名はいらない。彼等には三桁の番号がつけられ、研究目的に応じて生体実験の‟材料”となった。

 

女性のマルタもいた。反日分子の容疑で捕まったロシア人女性、中国人女子学生などである。彼女等は主として「性病の実験材料」となった。

 

 

マルタは各班の実験研究目的に応じて個室に移されたり、3~10人単位に雑居房に移されたりした。

 

第731部隊に収監されるまでは、彼等は昼夜を分かたぬ憲兵隊の拷問に責め抜かれていたが、部隊に送り込まれてからは、一切の拷問、虐待は止み、訊問(じんもん)も苦役も強制されなかった

 

マルタには最良の食事が与えられ、栄養満点の三食に、時には果物などのデザートまでがついた。睡眠も十分に与えられ、ビタミン剤すら配られた、という。

 

 

ただ、栄養たっぷりのその"日常”はあまりにも短かった。大体、2日に3人の割合で実験材料(マルタ)が使用されていった。

 

後のハバロフスク極東軍事裁判における川島被告の供述によると、1940年~1945年にかけて、第731部隊によって"消費”されたマルタの数は3千人に達したとあるが、「もっと多かったのではないか」と元隊員たちは一致して証言する。

 

 

関東軍は「第731部隊」が秘めた特殊任務を重視し、その研究実験を容易ならしむるため、あらゆる便宜を計った。

 

"便宜”の一つは、マルタをふんだんに供給することである。

 

実験順番の回ってきたマルタには、ペスト、コレラ、チフス、赤痢、梅毒スピロヘータ、などの生菌が注射され、あるいは飲物、まんじゅうなどに混入して与えられ、あるいは人為的に"移植”された。凍傷実験、銃殺実験、ガス壊疽(えそ)実験もあった。

 

 

◆残酷な食事

 

第731部隊に収容されたマルタには十分な栄養が与えられていた。マルタを肥えさせておくのには【4つの意味】があった。

 

 

(1)完璧な実験材料を得るため

 

研究目的のためには健康体の‟実験材料”が必要であった。

 

(2)各種伝染病に対する予防・治療方法の研究のため

 

細菌戦を遂行するためには、敵地の奥深く、あるいは前線で大量の病原菌をバラまかねばならないが、その時に日本兵が誤って病原菌に経皮・経口で接触する危険性が高く、兵士自身が感染するだけではなく、友軍(味方)に損害を与えてしまう可能性がある。

 

 

大規模な細菌戦には、ペスト、コレラ、チフスなどに対する予防ワクチン、血清療法、他の薬による化学療法を確立する必要があり、部隊は細菌を大量生産すると同時に、予防用、治療用ワクチンの開発研究を行った。

 

ワクチン製造のためには多くの実験と大量の血清が必要である。そのためにもマルタは健康で太っている必要があった。

 

(3)細菌戦用”兵器”の開発

 

 

【細菌戦用兵器】は、小動物(ネズミなど)や昆虫(ノミなど)だけではなく、炭疽菌、チフス菌などを食物に混入し、井戸水や飲料水に混ぜれば、立派な兵器になるため、細菌チョコレートやまんじゅうが開発され、マルタに試用された

 

(4)中国東北部にある風土病の予防・治療法の研究

 

 

当時、ソ満国境沿いで展開していた日本軍の一部に、原因不明の流行性出血熱が蔓延していた。

 

この病気は、ある種のウイルスあるいはリケッチャによって引き起こされるものと推定され、マルタを使って流行性出血熱の研究を進めた。(動画などは各自でお探しください)

 

(参考)「新版・悪魔の飽食」(森村誠一・著)

 

アバンギャルディ(Money、Money、Money)