内集団バイアスとは

 

遅くなってしまいましたが、5月の心理学講座です。

 

人は無意識のうちに、他者を自分の仲間か仲間でないか判断しています。それは仲間以外の場合、自分に危害を加える存在であるかもしれないため、警戒する必要があるからです。

 

★内集団バイアス(内集団ひいき)

 

一方、警戒心を抱く必要のない仲間に対しては、好意的になり、過大評価しがちになります。このような仲間内をひいきする傾向を、心理学では【内集団バイアス】、または【内集団ひいき】といいます。

 

内集団ひいきは、所属している団体や組織の【集団凝集性(しゅうだんぎょうしゅうせい)】が高ければ高いほど、顕著になりやすいことが知られています。

 

★集団凝集性

 

集団を単なる個の集合ではなく、心理的な一体感をもったものとしてつなぎとめる力のことです。言い換えれば、集団内に、そのメンバーをとどまらせようとする力のことです。

 

集団凝集性には、「課題達成的凝集性」「対人凝集性」があります。多くの場合、集団には、ある共通した目的や目標があります。

 

(1)課題達成的凝集性

目的や目標が魅力的ならば、メンバーの凝集性は高まります。これが、課題達成的凝集性です。

 

(2)対人凝集性

メンバー同士の良好的な関係性や一体感も集団の凝集性を高めます。これが、対人凝集性です。

 

しかしながら、集団凝集性の度が過ぎると、集団以外の人々に対する敵意が芽生える可能性が出てきます。しかも、いったん敵意が芽生えてしまうと、それを解消するのは非常に難しく、集団と集団との間の感情的な軋轢を長引かせることになります。

 

 

その大きなものとしての例が、国家間の戦争や民族紛争、小さなものとしての例が、政治における党同士や企業における部局間の争いです。こういった集団間の軋轢の背景には、内集団ひいきがあるのです。

 

★タジフェル実験

 

イギリスの社会心理学者ヘンリー・タジフェル(1919~1982)は、内集団ひいきが発生する最小限の条件を明らかにしたことで知られています。

 

 

タジフェルらによる実験では、実験の参加者である14~15歳の子どもたちに対して、いくつか抽象画を見せ、どの絵が好きかを尋ねたうえ、抽象画家であるクレーとカンディンスキーの名前を教えました。

 

そして、「世間の人々は、クレーとカンディンスキーのどちらかを好むかによって、クレー派とカンディンスキー派の2種類に分かれる」という嘘の知識を与えました。

 

さらに、参加者を適当に、クレー派とカンディンスキー派に分けました。

 

そのうえで、実験の参加者ひとりひとりに、「自分以外のクレー派の一人とカンディンスキー派の一人に、実験参加への謝礼を与える場合、どう配分すべきか」と質問し、配分の組み合わせをいくつか見せたのです。

 

★タジフェル実験の結果

 

クレー派一人とカンディンスキー派一人への謝礼の合計額が一定の場合参加者の多くは自分が属する派、つまり内集団が多少多くなる組み合わせを選択したといいます。

 

また、謝礼の合計額がかわる場合は、たとえ謝礼の金額が下がったとしても、自分の属する派に対する謝礼が他の派に対する謝礼よりも高くなる組み合わせを選択したといいます。

 

この実験により、参加者同士がどのようなメンバーが内集団にいるか知らないうえ、一緒に同じ目的や目標に向かって力を合わせたことのない集団だったにも関わらず、内集団ひいきが発生するということが明らかになったのです。

 

 

このタジフェルらによる実験は、集団としての条件を最小限度におさえたという意味で、「最小集団状況」とも呼ばれています。

 

このような状況でも、内集団ひいきが発生するわけですから、現実の社会集団において、その度合いが増すことは、当然といえるかもしれません。(転載終了)

 

(参考図書)ゼロからわかる心理学(別冊ニュートン)

 

(参考サイト)

損をしてでも保ってしまう「社会的アイデンティティ」とはどのようなもの?(gooニュース)

 

【心理学を学ぼう】内集団バイアス(内集団ひいき)