本日未明に義兄が亡くなり、これより葬儀関係で忙しくなるため記事更新はお休みさせていただきます。本日は【空海の言葉】を再掲いたします。お願い

 

≪天も地獄も心がつくっている≫

 

凡夫は幻の男女(なんにょ)に眩着(げんちゃく)し

 

外道は蜃楼台(しんろうだい)を狂執(きょうしゅう)す。

 

知らず自心の天獄たることを、

 

あに悟らんや唯心(いしん)の禍災(かさい)を除くことを。

 

【現代語訳】

愚かな人は幻のような男女の区別に目がくらみ、仏教を知らない者は蜃気楼のような実体のないこの世のものに取りすがっています。彼らは、天界や地獄界というものが自らの心の作り出したものにすぎないことを悟っていません。このようなことで、どうして心の迷いを取り除くことができるでしょうか。(『秘蔵宝鑰』巻下)

 

空海さんの十住心論、心のヒエラルキー10段階表

 

この言葉は、空海の「十住心」のうちの六つ目の段階である「他人の救済を縁にして悟りを求める心」の主旨を述べているものです。

 

意味は、愚かな人や真実の教えを知らない人は、自らの心のつくる幻や蜃気楼のようなものを実在していると考え、それに固執して迷っている、ということです。続いて、天界とか地獄界というものも、自らの心がつくり出したものだということを知らないでいる、と述べています。

 

これらの言葉が明らかにしているのは、真実の見えない人は、自分で勝手に架空の世界をつくり、しかもその世界に迷っているという実体です。そして、迷っている人は、愚かといおうか悲惨といおうか、智慧を絞れば絞るほど眼前の世界が確かなものと思われ、自分の心に迷っていることがわからない。

 

バブル景気の象徴「ジュリアナ東京」

 

実際に、よほどの人でもこの迷いの実体に気づいていません。あたかも、幻のバブル景気を追いかけた現代人の心と行動そのものを映しているかのようです。

 

この愚かさを断ち、悟りの安らぎを自らのものとするために、この「第六住心」は、五十二という数多い菩薩の修行段階を自分の心の中で展開します。大変な年月を要して、感覚や心のつくる全てを断絶しようとします。そのためにまず、「自己の心は常、楽、我、浄という悟りの世界の四つの価値を本来持っている」ことを悟らなければなりません。

 

蜃気楼か?中国に再び【天空都市】が出現?!(2016/4/1)

空中都市01

 

つまり空海は、天界も地獄界も含めてすべての世界と存在は、そもそも自らの心のつくり出したものにすぎない、さまざま縁に寄って生じた実体のない空虚なものである、と説いているのです。

 

このような迷いと愚かさから自由になって悟りの世界に入るためには、この真実を悟り、「利他」を縁とするしか手はありません。仮想的な世界に迷っている人びとを救済しようとするこの教えを、わたしたちはいつも心の片隅に持っていなければならないような気がします。

 

 

紹介した詩句は、あらゆる存在は心のつくり出したものにすぎないという唯識(ゆいしき)について比喩的に述べていますが、この教えを「他縁大乗心」と呼ぶことについて、空海は次のように説明しています。

 

「他縁」とは、全世界の生きとし生けるものを縁として悟るからであり、その点で教えを聴聞して悟る声聞、独力で悟りを開く縁覚に対して「大」であり、自分も他人も真実の世界に到達させるので「乗」(衆生を迷いから悟りの世界に運ぶ乗り物)である、と。

 

(※どんな人でも救われる(悟りを得る)のが大乗仏教、それに対して、出家して修行した人しか救われないのが小乗仏教という)

 

この教えの優れているところは、声聞・縁覚の二つの「乗」を超えた菩薩の心のあり方を説いていることです。他縁というのは、空海のいうように他者を縁としているからですが、具体的には利他行、すなわち菩薩行を縁として悟りの境地に至ると考えているからです。

 

(参考)【仏教】十界という世界観(NAVERまとめ)

十住心論(Wikipedia) 唯識(Wikipedia)

 

ところで、この教義を一言でいうと、すべてのものは自己の心の投影であるということです。そして、その心の働きは、全て自己の深層意識に蓄積され、それが力となって、さらに新たな心の投影として働くと説きます。その意味で悟りの智慧や存在の実体性を追求することよりも、苦の原因である迷いの心のあり方を追求しているといえます。

 

「ただ識(しき)のみ」という唯識の思想は、大乗仏教の基本原理の一つです。また、空海の密教思想を理解する上でも、この唯識の思想は基本になります。(『日本人のこころの言葉・空海』)

 

(過去記事)

量子は「色即是空、空即是色」(2018/1/13)

思い込みの枠にとらわれるな(2)(2/27)