華麗に舞う「湿原の神」求愛ダンス(2019/2)

         

 

もしまた一陽一陰、何ぞよく物を化(け)せん。

 

羽根を比(なら)べ、鰭(ひれ)を比(なら)べるは人の常なり。

 

【現代語訳】

万物は、もしも一陽一陰が別々にあって和合しなかったとしたら、およそ生まれるものではありません。陰と陽とが和合してはじめて万物は生育するものです。鳥でも比翼(ひよく)の鳥は夫婦仲むつまじく、魚でもひらめは夫婦常に和合しています。人の場合も夫婦和合するのが人倫の道です。(『性霊集』巻第七)

 

 

これは、空海が夫婦関係について最も大切なことを説いている数少ない文章の一つです。陰と陽とが交互に別々にあらわれ、そのために和合することがなければ、万物は生まれない、陰陽が和合してはじめて万物が生まれる・・・。老荘思想の万物創造説を基本に夫婦の当然のあり方を述べています。

 

すなわち、夫婦が仲むつまじく支え合い、和合しているあり方こそが万物の自然の姿であり、人間においては人倫の道である、ということを教示しています。儒教の五つの基本的な人間関係では「夫婦に別(くべつ)あり」ですが、空海は「夫婦は和合なり」といいたいのでしょう。

 

比翼の鳥

(※古代中国の伝説上の鳥。1つの翼と1つの眼しか持たないため、雄鳥と雌鳥が隣り合い、互いに飛行を支援しなければ飛ぶことができない)

 

そして、仲むつまじい夫婦の関係を比翼の鳥ひらめで象徴させていますが、比翼の鳥は、南方にいる伝説上の鳥で、白居易(はくきょい)の『長恨歌』にも出てきます。ひらめは、伝説では東方にいる魚で、一つ目のために二尾並んではじめて泳ぐことができると言われています。(『日本人のこころの言葉・空海』)

 

 

本記事には直接関係ないのですが、1月2日夕方、NHK-BSプレミアムで放送された「千住博~空海の宇宙を描く」を観ました。NHKに限らず、BS放送ではためになる番組が時々あります。なお、放送開始直後に奥之院でのカットが数枚流れますが、合掌されている尼僧さんが、2019年1月5日早朝に遭遇したお婆さんです。主人も「あっ!あの人だ!と云ったので間違いありません。再放送の予定はまだ発表されていませんが、その際には是非ご覧になってください。テレビ

 

「番組スタッフからのコメント」より

長年のお付き合いがある千住博さんから高野山金剛峯寺の44枚の襖絵を描くというお話を伺ったのは2015年の秋。襖奉納は2020年10月。5年越しの大イベントです。千住先生と金剛峯寺の全面的な協力の元、襖絵創作から奉納までを4Kカメラで密着取材させて頂く事になりました。先生は2015年から1年半近くの長い構想期間を経て2017年春から一気に44枚の襖絵を描き切りました。

 

 

アーテイストは普通、自分の創作活動や練習工程などは外に見せたくないものですが、今回は滅多にない画業だったこともあり、我々がその一部始終を4Kカメラで記録することを許して下さいました。とは言いましても先生にとっては、カメラと私がいつも先生のNYのアトリエに張り込んでいる事があまり気持ちの良いことではなく、時々嫌な顔もされてばつの悪い思いもしたのですが、完成試写を見て、「私は命を削って描いたのです」と言って言葉を止めたとき、先生の目の奥に涙がかすんでいるのが映像でわかり、はっとしました。

 

 

撮影は今も続いておりますが、NYのアトリエにはもう何回日本から往復したことでしょうか。更に高野山の四季の移ろい、お寺の撮影も含めて今までに約150時間の4K撮影素材が集まりました。今回は89分で、舞台となる金剛峯寺と空海、そして襖絵の創作過程に焦点を絞ったドキュメンタリーになっていますが、撮影は絵を襖に入れていく表具師の作業、2020年秋の奉納式典まで続けます。そして今からおよそ1年後の年末を目指して、90分の総集編を制作する予定です。これはアートドキュメンタリーとしてヨーロッパやアメリカなど世界各地で上映することも目論んでいます。(引用終了)

 

(参考)千住博 空海の宇宙を描く(見逃したテレビを観る方法)

番組ホームページ(NHK) 空海(Wikipedia)、金剛峯寺HP

 

密教界最大の超人~空海(3)(10/12)より

空海は秘法(虚空蔵求聞持法)の成就に向かって命がけの苦行を開始した。俗世間を離れた静寂の地を求めて四国に渡り、阿波・大滝嶽(おおたきだけ)によじ登り、石鎚山に瞑想し、室戸岬の洞窟結跏趺坐(けっかふざ)した時は、骨と皮ばかりに痩せこけていた。(引用終了)

 

千住博氏が金剛峯寺に奉納する襖絵は、「崖」と「滝」をモチーフにした2種類です。「崖バーション」は大滝嶽(徳島県)をイメージして作られています。また、襖絵の奉納は本年10月となっておりますが、これには理由があります。次の動画をご覧ください。

 

            

 

総本山金剛峯寺 第414世座主 高野山真言宗管長・葛西光義氏

「令和2年は‟弘法大師”の諡号が醍醐天皇より下賜されて1100年の正当年となります。」

 

そうなんです。醍醐天皇から‟弘法大師”という諡号が贈られたのは、延喜21年(921年)10月27日となっております。お大師様(774年~835年)が御入定されて86年経過した秋のこと、醍醐天皇の夢枕にお大師さまがお立ちになったことが切っ掛けとなりました。その際のエピソードについては、「密教界最大の超人~空海(最終回)」でお伝えしております。

 

本年10月17日~27日までの10日間にわたって、諡号奉祝の法要が行われます。今秋に高野山にお詣りされる方は、この10日間を予定に入れるとよろしいのではないでしょうか。ではでは~紅葉