「生きとし生けるもの」予告編

 

虚空尽き、衆生尽き、

 

涅槃尽きなば、我が願いも尽きん。

 

【現代語訳】

(生きとし生けるすべてのものに報いたいというわたしの願いは)

 

この宇宙が尽き、衆生が尽き、悟りの尽きるまで、永遠につづく願いであり、宇宙と衆生と悟りが尽きれば、わたしの願いも尽きるのです。(『性霊集』巻第八)

 

 

たとえ今生の生を終えても、この宇宙が尽き、衆生が尽き、悟りが尽きるまで、生きとし生けるすべてのものに報いたい。

 

空海のこの誓願は、その後、十世紀末ごろに成立する『空海入定信仰』と結びつき、現在もなお様々な救済と現世利益を求める人々の『大師信仰』のよりどころとなっています。

 

(※空海入定信仰とは、空海は高野山奥之院で今も生き続け、すべての生あるものを救済しているという信仰)

 

空海は、この願文の冒頭で次のような意味のことを述べています。

 

 

「わたしはこのように聞いています。迷いの暗黒は、人の世の生死の苦の源であり、悟りのあまねき智慧は涅槃の大本であると。そして、迷いの暗黒を照らすのは、大日如来の智慧の光です。したがって、その光が高く上がり、衆生の心を見とおすようになれば、人々の内心の迷い、身体の悪行がことごとく除かれて、自利利他ともにその光を完成することができます。そこでわたし、空海は、多くの弟子たちとこの光の儀式を行い、この光によって自己も他人も苦から救われんことを願うのです。」

 

【空海の言葉】悟りは功徳の報酬である(7/18)より

 

大師信仰で一般にいわれている万灯会(まんどうえ)の誓願とは、空海が「仰ぎ願わくば、この光業によって」と述べて、自己も他人も苦から救われんことを願っていることを指していますが、もう少し詳しく誓願の内容をみてみましょう。

 

【高野山・関西の旅】外国人に大人気の高野山(2018/5/27)より

 

第一に、この世の迷いにさまよう者たちを自己本来の悟りの世界に帰らせ、仏にしてくださいという祈願。

 

第二に、人々が本来的に心に持っている仏となる性質によって無明を取り去ってくださいという祈願。

 

第三に、無数の仏たちが尽きることのない密教の神秘で身を飾り、大日如来の智慧の光を放って、この国土を明るくし、永遠不変の光によって衆生を救ってくださいという祈願。

 

第四に、鳥も虫も魚も獣も、この世の一切の生きとし生けるものはすべて、わたしたちが世話になっているものたちですから、ともに悟りの世界に入れてくださいという祈願。

 

 

この四つが空海の誓願です。これは、空海の晩年の心境をよく伝えていると同時に、空海密教の本質と到達点を示しています。

 

大師信仰は、この祈願の対象となっている人々が、空海のこのような思いを素直に感じ取り理解した真心から生まれた信仰心です。(以下略 『日本人のこころの言葉・空海』)

 

(過去記事)

【空海の言葉】森羅万象の「いのち」を体感する(7/19)

【空海の言葉】わたしたちの心は仏心である(7/29)