デブリ


≪黒い雪≫

翌1月3日朝、大晦日から続いていた関東地方の雪は、ようやくやんだ。

新崎原発は、二度の格納容器の爆発で、噴き出すものは噴き出し、一時の小康状態を保っていた。コンクリート建屋基礎にめり込んだデブリと、吹き飛ばされずにプールの底部にとどまった使用済み核燃料、これらが溶け出して地下水に到達すると、再度水蒸気爆発が起こることが予想されていた。

しかし、大半のデブリと使用済み核燃料は、既に爆発とともに、大気中に放出されてしまっていたのだ・・・。あとにはスラリーを流し込む作業が残っていた。が、ニイザキ・フィフティーズたちは、所長代理を含め、連絡が取れなくなっていた。

その新崎県の沿道には、原発とは反対の方向に向かった避難民の多くが行き倒れていた。嘔吐で息を詰まらせ、顔には紫斑が残されている。脱毛してしまっている者も多い。新崎原発の周囲30キロが、70年前のヒロシマやナガサキの爆心地から半径1キロと、同じような状況になっていたのである。(略)

交通規制

           (警視庁HPより)

東京では、昨日は屋内退避していた多くの群衆が、東京駅、上野駅、品川駅、羽田空港、成田空港に押し寄せた。高速道路の入口はすべて封鎖された。これ以上、群衆が集まることは、誰の目から見ても危険だった。至るところでパニックが発生し、一部の群衆が暴徒化していた。

それぞれの駅の入口では、機動隊が整列して群衆を整理、誘導した。しかし、豪雪のあとの東京は線量がかなり高く、思うように動けず避難できないがため、群衆にはイライラが募っていた。午前10時過ぎには、動員された機動隊の人数をはるかに上回る10万人の群衆が、東京駅を取り囲んでいた。もう機動隊では防ぎきれないことが明らかだった。


自衛隊法

総理は、自衛隊に自衛隊法第78条に基づく治安出動を求めた。自衛隊は、災害出動ならば、武力行使もできないし、警察官職務執行法の権限も行使できない。しかし治安出動であれば、自衛隊法第89条に基づき、警察官職務執行法の準用による緊急避難はできる。

外国の通常の軍隊であれば、法律上できないことだけをネガティブリストで軍法に書いている。すなわち書かれていないことは、目的遂行のため原則的にできるということだ。原則は、軍隊は何でもできるという建前なのだ。しかし、我が国の自衛隊は軍隊ではないという建前だから、自衛隊法には、自衛隊が法律上できることしか書いていない・・・。

(次回へつづく)