ホテルの屋上でまったりお茶を飲みながら
僕ら4人は建築工事の現場を観察していた。
今泊まってるホテル、ラジパレスは繁盛しているのか
現在3階部分を増築しているところなのだ。
職人が総出で煉瓦を積んでは固め壁を造っている。
「あれって鉄筋が一本も入ってませんよねえ。」スドーくんが呟く。
「ホント地震でも来たらどうすんだろ?」高木さんが呆れる。
「祈るんじゃないの?神々に。」野口さんは達観している。
「いやいやいやあんたら他人事じゃないですからね。」
最後に僕が突っ込みをいれる。
 
マナリはインドでも海抜2000mを越える海抜に位置し、
ダージリンと並び称されるほど避暑地として有名な町である。
温泉があることでも知られており、どうやらインドにおける
ハネムーンのメッカ的存在らしい。
それも頷けるほどに十分美しいところだと僕は思う。
あとチベット人が多いためモモとかトクパとかカレー以外の料理に
ありつけるのも嬉しい。僕自身インドカレーには飽き飽きしており
はっきりいって『見たくない、嗅ぎたくない、消化したくない』
というとこまで拒絶反応が出ていたためだ。
ところがここマナリの米が、ご飯が殺人的に不味い。
沸点が低いためまともに炊けないのは仕方ないのかもしれないが
ただでさえ不味いインドのご飯が、もうなんというか
「米という名の別の何か」 にしか思えない。
プラスチックでできてると言われても信じるね、僕は。
(そんなことを本気でやるのはインダストリアと中国ぐらいだろうけど)
同じインディカ米でもタイでは不味いと思ったことなんか
一度も無いんだけどなあ。
以前に米を炊いてるところを観察したことがあるのだけれど、
①蓋をせずに火に掛け
➁差し水を加えながら煮詰めていき、
③茹で上がったら鍋に残った湯をシンクに捨てる。
日本に於ける炊飯時のあらゆるタブーを集結したような暴虐ぶりである。
『いや、もうなんかの罰ゲームッスかコレ?』
我々日本人の米に対する気配り、情熱、そして執着さえも
インド人と共有することは未来永劫ないと思われる。
 
僕らがマナリに来た目的はラダック地方のレーに行くためである。
それまでシュリナガル経由のルートしか無かったレーへの陸路が
軍用道路を今年から一般に解放したことにより、マナリから
バスで直に行けるようになった、という情報がバックパッカーの間で
飛び交ったのだ。
しかしバス会社に聞いても『ラダック行きの便は無い。』の
一点張り。他の旅行者にも尋ねてみたが皆一様に
『さあ、聞いたこたねえな。』との回答であった。
今と違って情報というものが不確かな時代である。
あまつさえここインドでは都市伝説レベルの怪情報が
佃煮にするほど溢れていた。
『俺達はまたもやそんなものに振り回されたのか?』
と、皆暗澹たる気分になる。
気分転換に町から2km程離れた湯治場まで歩いて行き
温泉に浸かりながら作戦を練ることにした。
「どうする?いっそのこと引き返すか?」
「ばか、道路土砂崩れで塞がったばかりだぜ。
あれが数日で復旧するとはとても思えん。」
「俺はここ結構気に入ってるんで暫くゴロゴロしても良いかな。」
「いやいや、道路自体は解放されてるんだからいっそのこと
ハイヤー雇っちまえばいいだけの話だろ。」
「やだよ。それだと金かかんじゃん。」
ルートが同じという理由でツルんでいるものの、
僕らは所詮『自分勝手』をインティオスでドローイングした後、
上からラスタライズ掛けたような人間ばかりである。
当初の計画が頓挫したと同時に皆好き勝手なことを言い始めた。
ちなみに地元民はパンツ履いたまま温泉に浸かっていたので
僕らもそれに習ったのだが、野口さんだけは
チ╳コベローンと出したまま堂々と入浴している。
いやそんなもん見たかないんでせめてタオルで隠してよ。
 
温泉からの帰り、近くにあるヒッピーの溜まり場となっている
集落に立ち寄ってみる。しかしそこのカフェにたむろしているのは
正直『関わりたくねえええ』タイプの濃ゆい面々ばかりであった。
男女とも昼間っから目をドローンとさせてヘラヘラしており、
挨拶したらマジでピースサイン返してきそうな気がする。
しかしまあ、せっかくなのでラダック行きバスのことを
尋ねてみると薄汚れた白人の男から「キーロンに行きな。」
との答えが帰ってきた。この先の町キーロンまで移動すれば
そこからラダック行きのバスに乗れるというのだ。
「ホンマかいな?」僕らが顔をしかめると
「ウソじゃねぇよ。」男は手を振り回して大げさに反論して見せる。
疑わしい、実に疑わしい。7・3でガセネタの確率の方が高そうだ。
あまり長居はしたくないところなのでさっさと離脱したが
さてどうしたもんかと頭を悩ませる。
こうなったら行くとこまでいくか、はたまた別の策を採るか。
 
お腹が空いたので皆でチベタンレストランに入ることにした。
カウンターのみの小さなレストランで、小綺麗ではあるものの
ファーストフードのような安っぽい内装がどうにも胡散臭い。
しかも厨房にいるのがアーリア系インド人なのもなにやら解せん。
羊肉の入ったトクパ(チベットのうどん)を4つ注文すると
彼はやる気の無さそうな声で「アッチャー」と首を傾げた。
(インドで了解の意)     待つこと20分・・・
そして出てきたのはなんと黄色い麺のトクパ。
コレには皆驚いた。
「おい、この麺黄色いぞ。」
「鹹水か、カンスイなのか?」
「えっ、じゃあ、ラーメンと一緒じゃん。」
「マジかよ。こんなところでラーメンに出会えるとは。」
「「いただきまーす!」」
ズルズルズル・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「うっ・・・」」
廻りの迷惑も省みず盛大な音を立てて啜ったあと
僕らは麺を頬張ったまま歪に顔をしかめた。
カレー粉が練り込んであったよ麺にorz