ローリングストーン日本版 アーカイヴ・インタヴュー
2015年8月号 表紙巻頭 細美武士 ソロ1万字インタヴュー(前編)
MONOEYES4人でのインタヴューを終え、細美武士と2人で向い合ったのは深夜0時すぎ。そのままお互いビールを飲みながら、じっくりと言葉を交わしていった。
アルバムの歌詞もまだすべて書き終えていない追い込みの時期にも関わらず、自身の心の内を時間をかけて語ってくれた。かなりディープな話になったのではないかと思う。細美のこの言葉は、闇を抱える多くの人たちの灯りになると僕は信じている。
─ソロのインタヴューでは何を聞こうか、ずっと考えていたんですけど、メンバー全員のインタヴューで、細美さんの子供の頃の話が出たでしょ? 子供の頃ってそんなに周りと上手くいかなかったんですか?
うん。だってこのまんまだもん。
─6月24日に発売したシングル「My Instant Song E.P.」の2曲目に収録している「When I Was A King」がそんな内容の詞でしたよね。
歌詞は別に実体験で書いてるわけじゃないから。でもみんなあるよね、拭えない何かって。やっぱり何をやってても、ずっとちょっと悲しいときとかさ。それは持って生まれた何かなのかもしれないけど、俺もずっとあるよ。でも最近は、ほんとに友達だと思える連中がいっぱいいるからね。幡ヶ谷に行ったり、バンドの練習とかに行けば。子供のころ周りと上手く行かなかったことはもうすっかりどうでも良くなっちゃったな(笑)。
─ミュージシャンになる前は、就職してたんですよね?
うん。わりかしいろいろやったよ。
─何をやってたんですか?
建築でしょ。工場勤務とかもしてたね。17か18歳の時は工場の寮に住んでた。そのあと高認とって大学出てからは、バイトしながらバンドやってたけど、さすがに借金やばくなって就職した。
─プロとして音楽をやっていこうという思いはなかった?
ないよ、そんなの全然。
─その先の人生をどうしようっていうのは?
考えてなかったけど、漫然と生きてるのはイヤだった。で、イヤなことを我慢する能力がなかった。そしたら「そんなこと言うんだったら、なんでもひとりでやってればいい」ってことを言われて。「じゃあ、やってやるよ」っていう、それだけ。
─高校を辞めたのは自分から?
停学になって、なんかその流れで(笑)。
─音楽で食っていこうと思って学校を辞めたんじゃなかったわけでしょ?
なかったね。
─それはどこから湧いたんですか?
音楽で食っていこうなんて、本気で一度も思ってないよ。別に明日から他の仕事しなきゃなんなくなるかも知んないじゃん。俺みたいなのはなかなか使ってくれないと思うけど(笑)。
─確かに俺なら使わないな(笑)。
でしょ(笑)。
─つまり、音楽は好きだけど。
仕事っていう感覚ではやってないね。つーか何も考えてないんだよね。ただ、自分の気持ちの中で、今これをやりてえなっていうことがあるんだよ。やるべきだと思うことがある。それの理由をよく聞かれるんだけど、別にないっていうかさ。何ごとも衝動的なんだよね。後から考えれば「こういうことだったのかな」って思うけど。俺、そんなに計算できないから。来年のこともわかんないぐらいで。今もよくわかってないもん。生きていくことって何なのかとか、人生って何なのかとか。ぜんぜんわかってない。
─バンドインタヴューで、「クズにしかわかんねえ言葉がある」って言ってたでしょ?細美さんの音楽を聴いたり、話を聞いたりしていると、クズじゃなきゃ救えないヤツらもいて。それがガキの頃に読んだ『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著、1951年)の、読んだことありますか?
もちろん読んでるよ。あの時代のバイブルだよね
─俺はあの小説が大好きで。『ライ麦畑』の主人公、ホールデン・コールフィールドは金や欲にまみれた大人たちを「インチキ野郎」と蔑んでる。そうして世の中に背を向けて生きているホールデンに、ある時、妹のフィービーが聞くわけです。「将来何になりたいか」って。そしたら「ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ」と答える。ライ麦畑は汚れてない世界の比喩で。ライ麦畑で遊んでいる子供たちがいて、近くの崖っぷちに自分は立っている。子供たちがその崖から落ちそうになったらキャッチするんだ、と。僕は、ホールデンと細美さんがダブるんです。ホールデンほどイノセントじゃないかもしれないけれど、タトゥーの入った「The Catcher in the Rye」とでもいうか。
『ライ麦畑でつかまえて』は、理想とかじゃなくて、甘えを描いたものだと思う。俺はあの主人公ほど甘くはないから。気持ちはすごくわかるよ。それに、よくこれだけ思春期の精神をありありと描けるなっていう所には感動するけど、主人公が好きかっていったら、俺は大嫌いだね。弱えなと思う。俺はあんなセンチメンタルじゃない。共感はしきれないんだよね。
─確かにホールデンはイノセントといえばイノセントだけど、ピーターパンシンドロームっていうかね。現実から逃げてる感じもあるし。
全部人のせいにするじゃん? 大人のふりしてバーへ行くシーンとか耐えられないよね。でも美しい表現がすごくいっぱいあって。水たまりの中の油の虹とかさ。ああいうのはすごい好きなの。
─でも、俺はホールデンと細美さんがかぶるところもあると思う。
誰だってあるでしょ。みんなあの感覚はあると思う。寮で同室のヤツがいて、自分はそいつに勝てないのに自己評価だけは上だとかさ。でもやっぱり甘ったれの物語だなと思って読んでるね。
─なるほどね。
だって、あいつは別にほんとうの意味ではなんも困ってないじゃん。たいした苦境にいるわけでもねぇし。もっと酷いことをされてるヤツが実際にはたくさんいる。そういう人とかと比べたら、ただの甘えでしかないと思う。俺だって強くはないけど、あの物語の主人公ほど弱くはないね。だせぇなと思う。
─ただ、さっきの話を聞いてて、「クズ」という言い方をしていましたが、社会的に成功はしてないけれど、真っ直ぐに生きている人に対するまなざしが似ていると思ったんですよ。
外的な要因ってあるじゃん。子供の頃にものすごい傷つけられたことって消えないんだよ。大人になってからのことはわりかし乗り越えられる。だけど、子供の頃は無垢だから、その時の傷は出血し続ける。さっき言ったのは、そういうことだよね。甘ったれの面倒をみたいなんて思ったことはないよ。

─細美さんはガキの頃に負った心の傷を乗り越えられた?
そんなの乗り越えられないよ(笑)。でも誰だって人は生きていかなきゃいけないじゃん。仲間と酒を飲んでりゃ楽しいし、忘れてるんだよ。だけど、たまによくわからない行動をとる自分のことを紐解いて、「何でだろう」って思うと、根っこは、あの時のあの子がまだあそこで泣いてるからだなって思う。そういうのみんなあるんじゃない?
─その傷に飲み込まれてしまいそうなことって、今まであったんですか?
ないよ。だって、自分のせいじゃないじゃん。
─変な話ですが、死のうって思ったことってないんですか?
どうかな? 俺も、すごい鬱っぽい時もあったからね。
─俺も30代の前半くらいに鬱で、抗うつ剤を飲みすぎて倒れたんです。それで、当時やってた仕事を辞めたのが書く仕事を始めたきっかけで。細美さんは、どうやって鬱を克服したんですか?
ほっといてもそのうち死ぬからね。それまでにやっておきたいこと、やってみたいことのリストが、やり切れるかわからないぐらい長けりゃいいってだけなんだと思う。
─やりたいことがあったから抜け出せた?
だって世界にはまだ見たことがない景色がいっぱいあるし、喋ったことない人もいっぱいいるし。死ぬのはそれをやってからの方がいいって思えるなんて、すげえ恵まれてるじゃん。
─それで必然的に鬱を乗り越えられたっていうか。
よくわかんないけど。じゃあ「自分、今、鬱なんです」って人に対してかけられる言葉なんか、何もねえし。
─何も言ってあげられないですよね。
うん。俺はそんなに博愛主義者でもないし、結構ドライなんだよ。大事な人が大事なだけだから。そういう意味では、俺は実はそんなに弱くないんだと思う。だけど、自分でどうにもならないことはあるからさ。「別にそれはお前のせいじゃねえじゃん」っていうのは言ってやりたいよね。しょうがねえじゃんって。
─細美さんは、何かがきっかけで強くなったんですか?
うーん。俺はもともとすごい無感情だからさ。
─あえてじゃなくて?
ていうか、まぁよくわかんないよね。自分の魂の形もわからないし、何が正しいのか、何が間違ってるのかも、全然わからないんだよ。ただ衝動だけがある。耳元で囁くんだよね。『こっちへ行け』『これをやれ』って。でも、だいたいその囁くことっていうのは、周りにすごい迷惑をかけることだったりするんだよ。俺たちが持ってる時間は、すごい短いわけじゃん。長生きしたところで80年みてえなさ。その中で20年がかぶってる人って奇跡的なわけで。そこにはいつも感謝してるんだよ。ただ、そこに感謝することと、周りが求める自分になろうっていうのとはまた別で。俺は俺のまま使い道があるんだったら、それがいちばんいいじゃん。曲げずに、よじれたまんまフィットできる場所があれば、それがいい。で、そのよじれた部分をもうちょっと真っ直ぐにすれば、ハマれる所が他にもあるんだろうけど。そうやってハマったってどのみち終わりがあるわけじゃん?言って見れば、今も自分の形はわからないけど、そのイビツな形で生まれたことが、俺の持ってるすべてじゃない? その使いどころはどこなんだろう?っていうのはずっと思う。形を変えるのだけがやり方だとは、どうしても思えないんだよね。
─うん。でも、学校や会社はそのイビツなのを少しでも直してハマりなさいって言うわけですよね。みんなそこで苦悩する。ハマらないと自分は居場所がないのかなって。
うん、そうだろうね。
─ただ、自分を曲げて何かにハマることに意味あるのかってことは、誰も教えてくれないわけで。
でもさ、何が正しいかなんて誰もわからないから。俺も、自分が正しいとは思ってないんだよ。ガキの頃から「みんながお前みたいにやれるわけじゃない」って言われてきたのね。たぶん俺は、多い少ないでいえば、少ないほうになってしまうから。「正しい」「間違ってる」でいえば、間違ってるんじゃない? だけど、俺だってもうちょっと器用にやりてえなと思ってるんだよ(笑)。周りのみんなが笑っていられるように、迷惑かけないようにしたいんだけど、できないの。人のことを考えよう、常に感謝を忘れずにやろうって、俺なりにやってるんだけど、俺の一生懸命はこの程度なんだよ。だから他の人には書けない曲を書こうって。それで埋め合わせようと必死なだけで。
~後編へ続く~