彼女が好きな花
コスモス




夕食を済ませ 一段落した所へ
電話が鳴った
「もしもし」 彼女からだった

~私今 入院してるのよ たいした事ないと思うのだけど 一応言っておこうと思って~

~入院? 珍しいな どうしたのかな?~

電話を切った後
私は彼女の旦那さんに電話をしてみる事にした

「もしもし 彼女からこんな電話あったのだけど」

「、、、、」  重い空気

「そうか」旦那さん

「5月の母の日の頃 下痢が続いて
救急車で運ばれ入院する事になった」

そしてさらに重い声で
「実は 先生から後2週間の命」と言われたんだ」

私は耳を疑った
「2週間?!」  「なんで」

「それでね 二人の間ではお互いに何かあった時には 告知しあう約束になっているんだ」

でも2週間とは
あまりにも 突然で悩んでいると言う

一瞬返す言葉がなく 
私も黙ってしまって
二人の無言が続いた

彼女には二人の子供がいる
二人とも成人していた

「子供達には話したの?」
「いや まだ言えてない」
「子供達と相談したほうがいいよ」
「そうだね」

そんな短いやり取りで
彼を励ましながら電話を切った



日が過ぎて
電話してみた

「どうした?」
「話したよ二人に そしたら
お母さんなら大丈夫だから告知しようと言う事になった」
との事だった

二人で
どうして彼女なんだ
何でなんだ
とりとめのない言葉を繰り返し
悔しい
なんとも言えない気持ちのやり取りが続くばかりの会話をしばらくして 

電話を切った


告知の日
テーブルを挟んで 主治医の先生その両脇に婦長さんと ケースワーカーさん

こちらには ご主人と私
後ろに子供達 

告知を前に
それぞれの心が 無言のなかに宙を飛ぶのがわかる気がした

なんとも言えない無の中に
空気だけが
動き回る 長く感じた
先のない 無
止めようもない 無
無 だけが動く変な感覚



主治医の先生が口火をきる
確か
病気の説明 手だてのない事
ケースワーカーさんのサポートを万全にしてくれる
医師として最善の事をしてくれる等
その他いろいろ 話されたと思う

無が流れる

彼女が話出した

「それで 後どれくらい生きられるのですか?」

「3ヶ月~半年」


沈黙がはしる


*  *  *  *  *

どれくらい過ぎただろうか
彼女は 誰も口を挟むスキがない程
喋りまくった

終わらない 
永久に終わらないかもしれない
そんな感じで喋りまくっている
しばらく
彼女の声だけが響く




ふと 先生方を見ると
ただ 黙ってうなずき聞いてくれている


彼女の気持ちもわかるけど
止めてあげなきゃ
ずぅ~と止まらないと思う

彼女は
「手だてがないなら 退院したい」と言っていた

私は
 「ねえ!~これから先の事は退院してから ひとつひとつ考えよう?」 
と言っていた



ふぅ~・と違う風が流れて
彼女の話も
ふぅ~っ と止まっていった




先生もケースワーカーさんも
十分なサポートをしてくださると言う事で

皆で 頭を下げあい
皆で 席を立った




その夜
私はあまり 眠れていない
彼女を思い
気丈なゆえに 
タガが外れはしないか 
ふと心配になったりしていた




次の日

「あなたさ~この中で 私が一番若いけど」

(6人部屋で彼女以外ご高齢者が多かった)

「多分私が一番重いと思うけど
皆に頼まれんのよ」

「お姉さん 窓閉めて」
「カーテン 開けてくれる?」
なんてね  と
笑っていた

ついつい 動いてしまうらしかった

~大丈夫~ 彼女を信じた
彼女はタガが外れない!!!


彼女は その時
53歳だった


~つづく