午後11時43分。
東京渋谷の飲食店ぷん楽で、探偵神宮寺三郎は、警部補の古畑任三郎と話をしていた。
格調高い店内は薄暗く、テーブルの上で洒落(しゃれ)たキャンドルの火が揺らめいている。
古畑が紙袋を神宮寺に手渡した。
神宮寺は、中年の渋い顔で古畑を見て、
「これは?」
と、きいた。
古畑は、手を差し出して握り込む独特の仕草で、
「え~、新宿歌舞伎町の拉致事件で救出された、桃山ちづるという女性からです」
と、言ったあと、
黒のコートから一枚のメモを取り出して、
「桃山さんから、あなたへのメッセージを預かっています。読み上げてもよろしいですか?」
と、きいた。
神宮寺がうなずくと、古畑はゆっくりと声に出して読み始めた。
「私は法学部出身ですが、弁護士ではありません。人を助けたいという気持ちだけでは、どうしようもないのです。
それに、個人的な見解で申し訳ないのですが、安城アンナさんの場合、明らかに黒だと思われ、私が弁護士だったとしても、黒を白に変える弁護は絶対にできません。