彼の作品は、あまり書店で見かけることがありません。
あるご縁で手にすることになり、知らない作家でしたので、しばらく机に載せたままにしておりました。
やっと手に取りページを繰りますと、活字がスルスルと心に入ってまいります。
まるで語り掛けられてでもいるように。
そのうち、私はその本と会話をしておりました。
作品からの返事に思いがけない発見や、成程、などと深く頷いたりしているのです。

今朝読んだ短編から少し。
「トワイライト・シャッフル」という短編集の「サヤンテラス」です。
サヤンテラスとは房総にあるインドネシア語のホテルの名前です。
そこのテラスでオリーというイギリス人女性は、毎日のように日本人夫の仕事帰りを待っていました。
二人はインドネシアで知り合ったのです。

やがて年老いて、一人暮らしになっても彼女はそのホテルのテラスで過ごすことを楽しみました。
そこにこんな一文があります。
「人には老いてゆく体の居場所と若い心の居場所があって、・・・」
ホテルのテラスは彼女にとってそんな場所だったのです。
読みながら、私にもそんな場所があるかしら、とふと考えます。

また、新たな出会いに心が揺れたときの、こんな一文です。
「曖昧な縁にすがるような生き方は性に合わないし、自分を誤魔化して人を恃めばいつか後悔することも分かっている」
異国で一人暮らす彼女の精神性が見えてきます。

私にとって、良い作家に出会いました。