綿は驚いた顔で、警官を演じてる男を見つめる。
この男は必ずこの事件と関わっていることは予想したが、白柳本人だとは思わなかった。
そして彼を一番驚かせたのは、白柳の判断。
「つまり...この女はやなじゃない?」
「奥様ではありません。ご安心ください。」
空気が抜けたボールのように、綿は席につく。
数多くの事件を解決した彼だが、この事件でつまずくところだった。
しかし、白柳が真相を伝えたおかげで、綿の頭は動き出した。
「ごめん。最初から事件の説明をしてもらう。そして車掌さんは...?」
「灰野です。もしよろしければ、私も協力させて頂けないでしょうか?」
「協力したいと言っても、君は事件の詳細とか、まったく知らないじゃないか?」
「知っています。」
車掌の灰野は真面目な顔で言う。
「私の妹は、その臨海実験所で働いています。」

白柳、そして灰野姉妹の姉─灰野乃瑠からの情報を合わせ、綿はようやくこの事件を把握した。
土曜日の朝、白柳は綿とやなが来るのを期待して、早起きした。
彼はお風呂に入って、ブランチをとったあと、昼十二時ころに、実験所についた。
二階に上がれば、まず黒須の接待室と、その向こうの研究室が見える。
少し遠いのが、白柳の接待室と研究室。
つまり、二つの接待室は隣にあって、向こうには、それぞれの研究室。
そして最後の部屋が、生徒たちが使う実験室。
白柳は二階の階段口で、すでに異状に気付いた。
廊下が汚い。
廊下の果てから、すでに地面に水がある。
そしてその水は階段口で、濁る。
まるで何か、暗い赤色の液体と混ぜ合わせたように。

白柳はこの状況に変だと気付き、先に自分の接待室に確認しようとした。
しかし、彼が黒須の接待室と研究室に通りかかった時、その研究室から、音が立った。
彼はドアを開けてみたら、研究室に、誰もいないと確認した。
窓は開けたままで、カーテンが外の海風でめくれる。
「なんだよ...」
少し文句を言おうと思った白柳だが、急に背筋が寒くなった。
黒須が嫌そうな顔で、生徒が窓を開けたせいで、染料の色が染めきれなかったと、文句を言うところを、白柳はもう何度も見ていた。
そんなに嫌がっていた黒須なのに、自分の研究室の窓を開けたままでいられるのか?
白柳は部屋から去って、ドアを閉めて、そして黒須の接待室を見つめる。
戸の隙間から、僅かな光。
白柳は決意をして、接待室をノックした。
返事がない。
二人の付き合いを賭けて、白柳は接待室のドアを開けた。
そしたら、鼻につく匂いが溢れる。
白柳もやっと、その暗い赤色の液体と、その匂いの由来が見えた。

「...!」
白柳はすぐ振り向いて、警察と救急車を呼ぶために、一階に行こうとした。
しかし、この時、彼は黒須の生徒、黒駒紗穂の目と合った。
紗穂は黒須の生徒の中でも、もっとも優秀な一人であって、黒須への憧れも丸見え。
そんな彼女に、憧れの教授が亡くなったことを、つけるのか?
白柳はそれを嫌がって、目を逸らした。
「白柳さん、黒須さんを探してるのですか?すでに接待室の中にいるはずですけど、いませんでしたか?」
「それは...」
紗穂は疑う顔をして、接待室をのぞいた。
白柳はそれを止めようとしたが、紗穂に大変な現場を見せられた。
「...!あ...!教授!」
紗穂は少し下がって、目線から怒りが溢れる。
「この殺人犯!殺人犯!」
白柳を叱りながら、紗穂は一階に行って、助けを求めた。
誤解された白柳は、現場に残って弁解しようと思ったが、それで通すとは限らない。
結果、彼はもう一つの階段から降りて、裏口から逃げ出した。

一方、灰野姉妹の妹─灰野波彩は、すでに一階の職員室で仕事をしている。
二階から走る音が立ってるのに気づき、波彩は覗いてみたら、慌ててる紗穂を見かけた。
「灰野さん!救急車を呼んで!警察も!」
「えっと...わかった。」
波彩はすぐ救急車を呼び、そして紗穂から状況を知ったあと、警察に連絡した。
警察はすぐ現場について、そしてこの事件を徹に任せた。
だから徹が綿に知らせた。

「ちょっと違うな...」
乃瑠と白柳が語る事実は、ロジックに合ってはいるけど、本当の状況と違っていた。
「朝田さん、僕を信じてください!」
「君は細かく語っているし、君の表情変化を観察してるし、どうしても嘘だとは思わないけど...僕が知ってる限り、白柳恵弦はすでに逮捕された。」
「なんだと...!」
白柳も当然、どうして警察側は自分を探そうとしていないのかに戸惑う。
しかし、その理由は、「もう捕まった」とは想定外だった。
「それなら、波彩からも聞きました。警官たちは確かに、白柳教授を逮捕しました。」
「でも僕はここにいるよ!あの掴まれたのは誰?」
「わかりません。ただ...」
乃瑠は少しためらった。
「裏口から誰かが離れたのは知ったけど、警官たちはその人を、あなたの生徒─白土由起夫と判断しました。」