席に座って、綿は再び携帯を確認する。
電話も、メッセージもない、新たな情報は、ひとつもない。
あるのは、午後二時五十分で、やなが送った「電車に乗った」メッセージだけ。
「車掌も見かけたと言ったし、服も一致してるし、やなは確実に電車に乗ったのだろう。」
でも、一体どこに?
深く悩んでる綿に、ある電話が。
「くそ野郎、大変だ。」
「こっちこそ大変だ。」
「...何があった?」
綿とは長い付き合いの徹は、当然、綿のおかしさに気づく。
「今日、僕はやなと電車で待ち合わせたけど、電車に彼女が見当たらないんだ。やなの事情も知ってるんだろ?勝手に動かないはずだ。」
「電車!?ってことは、お前今電車の上?」
「そうだけど。」
「...こっちには難しい殺人事件があるんだ。お前を呼びたいけど、やなさんが行方不明じゃ、お前も集中できないよな...?」
今の綿にとって、やなを見つけることが最優先だ。
でもやなは?この選択をどう思う?
「今は四時半だから、五時まで彼女を見つからなかったら、お前のところに行く。」
「わかった。今回の現場かなり遠いが、厄介な事件だから、俺に任せたんだ。」
「どこに?」
「北海道室蘭の臨海実験所だ。知ってるか」
綿は驚いて、不意に息をひそめた。
「...誰が殺された?」
「黒須研究室の黒須教授だ。」
白柳恵弦じゃない。
綿はふと息を吐く。
「ひとまず、ある容疑者を逮捕したんだ。」
「誰?」
しかし、世界は簡単に彼を見逃さなかった。
「同じ、臨海実験所にいた、白柳恵弦。」
「...とにかく、お前は義孝に言って、彼に今から臨海実験所へ向かうと伝ってくれ。」
「お前は?」
「僕は...」
綿はためらった、徹に自分の目的地を言うべきかと。
もし徹に、自分は白柳に会いに、北海道に行ったと言ったら、事件に巻き込まれるのだろうか?
自分だけならともかく、やなまで巻き込まれたら...
「さっき言った通り、五時まで探して、そして電車を変えて、北海道に行く。」
「了解。」
徹は電話を切ったあと、深くため息をついた。
彼の目の前に、その殺人事件の資料が置いてあった。
その中には、彼がかなり馴染む名前があった。
「どうして正直に言ってくれない...」
呟いたあと、徹は残ってるコーヒーを一口で飲み干した。
彼の部下も隣に来た。
「車は用意しました。」
「わかった、じゃあ今すぐ出発しよう。」
「さきほど、二人の容疑者の家に電話かけましたが、繋がりませんでした。」
「...それは大丈夫、さっき連絡した。」
「え...?」
「もう一つ、頼み事がある。」
徹は眉をひそめて、書類を鞄に入れる。
「皇赤蝶、名瀨ホタル、黒沢義孝などは、容疑者と関わる可能性があるから、彼らに質問するんだ。」
「はい。」
仕事を任せたあと、徹は車に乗った。
容疑者と待ち合わせた、北海道室蘭へ。
一方、徹と電話をした綿は、疲れからか、眠りに落ちた。
「...」
眠っている綿は、急に鳴らしたアナウンスで目覚めた。
「本列車は緊急事故のため、次の駅で暫く止まります。次の駅で降りるお客様は、ひとまず車両に残って、調査に付き合わせていただきます。繰り返します...」
このような異様なアナウンスを聞いて、乗客たちは戸惑ったが、過剰な反応をしなかった。
しかし、綿にとって、このアナウンスは特別だ。
「調査とか言ったから、警察も入ったみたい。
「それに、緊急事故しか言わなかった。ってことは...!」
信じたくないが、やなはこの「緊急事故」と関係してる可能性が高すぎると、綿はそう感じる。
そして、彼が行動しようとしてるところ、さっき彼と接触した車掌がこの車両に入って、まっすぐに彼の隣に来た。
「すみません、ちょっといいですか。」
「え...はい。」
綿は車掌と一緒に別の車両に入って、そして手錠をかけられた。
「どういうことですか?」
「すみません。あなたには、事件と関わる可能性がありますので、あなたが逃げるのを防ぐために、こうするしかありません。」
「事件?なんの事件?さっきアナウンスで言った緊急事故?」
「...」
その車掌は返事をせず、ただ綿を連れて、最後の車両に入る。
ここは既になんらかの理由で人払いをした。
残されたのは、たった一人の女性。
揺れている車両に影響されず、ひたすら穏やかに席で横になっている。
その顔には、白い布がかけられている。
「...!」
綿は信じきれない顔をして、足に力が入らなかった。
そして、彼は泣き叫んだ。
その女性は、血に染められた白い服と青いジーンズ、そしてブラウンのコートを着ている。
彼女の胸元には、綿がやなにあげた、二つのお守りを飾っている。