「やな!客だよ!」
机を避けるために必死なやなは、すぐに急ぐ足音と、暖かい感触を感じた。
「気を付けて。」
「綿?」
「来ちゃった。ちょっと話したいことがあって。」
綿にそう言われることに、やなは少し嬉しく思ったが、ちょっとだけ寂しい。
この日は、やなの卒業式。

「卒業おめでとう。」
「はい。色々ありましたが、無事で何よりです。」
後ろで歩く綿は急に立ち止まり、それに気付いたやなも振り向いた、綿の方に。
「先に言っておくけど…皇家に行って、君を迎えたあと、僕は黒沢と約束した。」
「何を?」
「君の前では、自分の感情を隠さない。」
やなはびっくりしたが、何も言わなかった。
「僕は…嬉しかった。感情を取り戻してくれて。」
「はい。私の方は驚きましたけど。」
「それは、僕を覚えてくれた証拠。」
「全部を忘れたとしても、君だけは忘れない…なんて矛盾ですよね?」
「そう?」
「だって君こそ…私の全部だもの。」

やなはポケットから、二つのものを取り出した。
古いお守りと、新しいお守り。
「あれは…!」
「ありがとう…」
涙が、こぼれる。

「ありがとう。ずっと支えてくれて。」