皇家の別荘についた綿は、迷わず呼び鈴を押しようとしてる。
それよりも早く、一人の女の子が胡蝶のように舞い降りた。
「おはよう!」
女の子は体についてる葉を振り落とし、綿を見つめる。
「おは...よう。」
「朝早いですね。何か御用でも?」
「僕は...人探しに来ました。」
「人探し?」
「ええ、名前は...」
「赤蝶お嬢様!」
綿の話は、急に現れたメイドに邪魔された。
「お嬢様!奥様は、別荘から勝手に出てはいけないと言いましたよ!」
「勝手にじゃない!それに、さっきまで木の上にいたよ!ねぇ?」
そのメイドは、綿の存在を察した途端、女の子を引っ張って、身の後ろに隠し、守ろうとしている。
「どちらですか?」
「人探しに来ました。」
「誰を?」
「真田やなという人。」
綿の理由を聞いて、女の子はすぐ嬉しそうに笑った。
「やな姉さんを探しに来ましたか!」
「お嬢様!とにかく...報告はしますから、暫くここで待ってください。」

暫くして、綿は皇家に入った。
ロビーには、一人華やかな女性と、さっきの女の子がいた。
「初めまして、どの方でしょうか?」
この女性のオーラーを見て、綿でさえ礼儀を気にかけた。
「私は皇楽華、皇家の当主です。」
「僕は朝田綿、探偵をやっています。」
「ほう...あなたが朝田さんですね。そうだ、あなたが来た理由は既に聞きました。」
「やなくんがここに残された理由はわかりませんが、申し訳ない、夏休みが終わるまでは手放すつもりはありません。」
楽華は少し目を細め、綿の心を読もうとしてる。
「彼女がそう願ってる、だとしても?」
楽華に問われた瞬間、綿はわかった。
目の前のこの女性は、ただものではない。
やなの望みだったのかも、誘拐されてないのかも、自分勝手の思いのかも。
綿の心の奥に潜む恐怖を、楽華は見ていた。
「それでも、こんな終わり方は納得できません。」
楽華は少し考えたあと、隣のメイドに目線を送る。
暫くして、綿が思ってるあの姿は、彼の前に現れた。

楽華の配慮で、ロビーでは綿とやな二人きり。
「やなくん。」
「はい?」
「君は...自ら残すと決めたのか?」
迂遠するより、綿は直球勝負と決めた。
どうせ死ぬなら、あっさり死んだ方がまし。
「ええ。自分でそう決めました。」
「どうして...?」
「どうしてもありません。元々そうする権利はあるんでしょう?」
綿はやなを見つめ、彼女は前と違ったと感じる。
「じゃあ...どうしてみんなは君のことを忘れた?」
「そうしてもらいました。今の私には、その名前がいる必要がありません。」
ロビーに入ってから、やなの表情は変わったりしなかった。
「そして今、そうしてもらいます。私を忘れてください。」
「いや!今の君は本当の君じゃない!」
「本当の私を、本当に知ってるかしら?最初から騙されたと思わないのですか!」
綿でさえ、一瞬動揺した。
彼にとって、やなに挑発されるのは、今回で初めて。
「真田やな。」
「はい?」
「騙すのやめよう。」
「な...!」
やなは顔を上げて、綿を見つめる。
「夏休み前の君を、僕は知ってるから。」