綿は、人が溢れる街を、一人で歩いてる。
「どうして僕だけ...?」
忘れたくなかった。
しかし、誰も覚えていなかったら、覚えるの方が、つらい。
「やなくん...。」
何歩歩いて、綿は不意に転んで、そのまま意識を失った。

「病院...か。」
綿は周りを見たが、誰もいなかった。
机に置いてる紅茶はすでに冷めたが、綿は匂いから、義孝が淹れたのわかった。
「僕も帰ろうか。」
帰る...。
綿はその言葉を、不意に可笑しく思う。
彼は病室から離れ、病院の外に向かって歩く。
急に、呼び止められた。
「朝田さん...!朝田さんですね!」
綿は振り向いて、馴染んでる顔を見かけた。
やなの冷たい声「全部。」は、その一瞬で彼を呼び覚ます。
「京子...さん!?」
「はい!久しぶりです!」

「仮釈放ですか?」
「はい。一か月、すぐのことですよ。」
綿はふと思い出した、京子の事件は、やなが手伝う最初の事件だったことを。
それが、やなの推理活動のスタートライン。
「早いですね。ところで、どうしてこちらに?」
「体が弱いし、牢で一か月暮らしたので、念のために健康診断を。」
「そうですか。」
「今は、あの頃の自分が恥ずかしく思いますね。朝田先生こそどうしてこちらに?」
「僕は...」
綿はためらって、結局話せなかった。
「言えないことですか?残念でした。ところで...やなさんは今でも手伝っていますか?あれから、彼女はただの見習いと聞いて、びっくりしました。」
「ああ、彼女は来月で学校に戻る...!待って!誰のこと?」
「誰って...?やなさん...?」
「覚えているの!?」
綿の言葉に戸惑って、京子はふと笑った。
「もちろんですよ、彼女が逮捕してくれましたよ。朝田さん?」
「ごめん!用事ができた!」
「そう...何か手伝えることでもあれば、なんでも言ってくださいね。」
「わかった!やなくんにも伝っておく!」
他の誰かがやなを覚えてることを気付くのは、綿に一番喜ばせる。
それはつまり、やなに関する記憶喪失は人為で、範囲も狭いことだ。

「やなくんを連れて行ったのは皇家、やはり皇家から手を打つ。」
決断をした綿は、義孝に言わず、一人で皇家の別荘へ行った。