「綿は怒っていなさそうけど...」
綿の姉、朝田昭子は、その偽パピヨンを撫でていながら、ため息をした。
ひららを守るために連れてきたのに、逆に迷惑をかけたことに、昭子はひどく責任を感じる。
その上、先ほど綿から「真田もダメみたい」の連絡が来て、昭子の心配を増した。
リン...リン...。
このタイミングで、朝田家の電話が鳴った。
「...もしもし?」
「すみません、真田やなと申します。」
「へぇ...!」
一瞬、昭子に希望の火がつけた。

「大体の事情は、綿から聞きました。」
「そうですか。直接来ますか?遠慮はいりませんよ。」
「そうしたい気持ちはありますが、犬には少し...苦手です。」
「あぁ...そうですか。わかりました、質問は私が答えます。」
それにしても...女の子から「綿」という呼び方を聞くのは初めてかも。
昭子はこっそり笑っている。
「ひららは朝田さんが連れて行ったと聞きましたが、当時の状況はどんな感じでしたか?」
「綿は生物専門でしょ?ペットを飼うのは上手より、好きな方です。でもほら、彼の性格ですし、ペットを忘れるかもしれません。」 
やなはふと笑い、昭子の心配を理解できそう。
「うちに連れてきてからは、あまりひららを縛っていないんだ。あの子変なところに行かないし、出かけても自分で帰ってきますから。 
「綿がいないせいか、私の仕事が忙しかったか、あの子は随分静かにしています。
「この間、ちょっとのんびりすぎて、病気じゃないかと思って、病院まで連れて行きました。」
そしたら、ひららが妊娠したとわかった。

「まずは、替え玉はありえないと思います。」
「...ふふ。」
「朝田...さん?」
「あぁごめん。綿と同じことを言いましたので。」
「事実によっての推測ですからね。わざわざ柄まで似てるパピヨンを探すほどの動機は、少し想像しにくいです。」 
「えっと...面倒すぎたからですか?」
「その通りです。つまり、問題はひららか、そのメス犬にあります。ひららを使わなければならないか、あのメス犬は朝田家にいなければならないか、どちらかです。」 
やなは語るのを暫くやめて、紅茶のコップを見つめた。
「...後者。」
「はい?」
「たとえどうしてもひららが必要だとしても、わざわざ犬一匹を返す必要はありませんか?」
余計なこと。
わざと違う服を着る女の子のように、バレるために取った行動だ。
「つまり...?」
「...ふふ。綿は信頼されていますね。」
「誰に?」
「もちろん、ひららですよ。」

やなが推測した通り、二日後、ひららが現れることで、事件が終わった。
「やな!黒沢!見て見て!」
綿はパピヨン一匹を抱えて、自慢してる目はキラキラしてる。
「この子がひららですね。」
やなはひららを見つめているが、体は勝手に距離を取った。
「しかし朝田、結局どうなっているの?」
義孝が持ち出した餌を見て、ひららはすぐ綿から離れて、飛びついていく。
やなもすぐ綿の後ろに隠す。
「やなくん...ひららは傷付くよ。」
綿は振り向いて、怖がってるやなをソファに置いた。
「このすべては、ひららの陰謀だったのさ。」
「ひららの!?」
義孝は目の前の子犬を見て、信じれなかった。
「姉の家に住んでる間、ひららはいつも自由で、もちろんそういうことも...。
「とにかく、女の子に妊娠されたんだ。」
綿の言い方が父親みたく聞こえて、やなはこっそり笑った。
「しかしまぁ、僕の犬だ、彼女を家に置いたし、わざとここまで来てくれたのだ。」
つまり、ひららは綿に報告をしに来た。
その結果に、綿はすごく喜んでいた。
「あぁ!これが我が自慢のひららなんだ!」
「はいはい。」
義孝は台所に入って、お茶を用意し始めた。

「そうだ、やなくん。」
「はい?」
パスタを食べながら、やなは目線を上げて、綿を見る。
「今回はありがとう。」
「え?」
「ひららのこと、気付かされたのは、姉から聞いた君の推測だ。」
「...綿は、犬みたいですね。」
「...え!なんで!」
「かわいいぶって、不意に近づいたら、がっと噛みつきます。」
「犬はそういうんじゃないし、僕も君を噛みついてない。」
直接ではないけど、私の方がすごい、その言葉は一番ありがたい褒め言葉と同時に、一番深く傷となるだろう。 
やなは微笑んで、最後の言葉は言えないまま。