綿たちが病室に入ったのを見た瞬間、明はばれたと気付いた。
「ごめん、明。わざとじゃないんだ。」
義孝がへこんでるのを見て、明は大声で笑った。
「あんたじゃないって知っています。
「昔からずっとそう、義理堅いというか、バカというか。
「困らせるのも悩んでいましたけどね。この二人でしょう、ありがとうございます。」
明はやなと綿に頷いて、礼を言った。
「真田……さんですよね?本当にすごいです。」
綿はやなの肩に手を乗せて、にっこりと笑った。
「当然だ、この朝田綿が認めたやつだぞ。」
「失礼しました。」
全員は後ろを見て、ドアの前に立ってる短髪な女性を見かけた。
彼女は泣きそうにながら、病室に入った。
「明…。」
「撫子?大丈夫だよ、心配するな。」
「それはよかった...。あれ?黒沢義孝くん?」
「はい。撫子さん、久しぶりです。」
撫子はすぐ涙を拭き、いつものしっかりした姿を見せた。
「初めまして、白石撫子とお申します。明のフィアンセです。
「みなさんは?」
「警察の佐藤徹、こいつは友人の探偵朝田綿、それで彼女は……」
「僕のファンであり、優秀な助手、真田やなだ。」
「撫子、どうして急に?」
「君のことが聞いて、一刻でも早く来ちゃったの。
「それと、さっき病室の前に医者さんがいて、その...。」
撫子は言い出せなかったが、一瞬だけで、みんなは彼女の話を悟った。
「母が……そうか。彼女まで行ったんだ。」
「うん。ごめんね、こんな報告を。」
「いいんだ。」
彰子を見てる明の目線は、大切してるのに、どこか切ない。
彰子が再び目覚める頃は、また、家族を失う痛みを感じてしまう。
そのあと、警察からの説明は、使用人たちの油断で起こした火事だと。
明と使用人たちもそう言ってるから、事件は無事に終わった。
それ以上亡くなったあの二人に、批判などされたくないから。
「忍野会社の若旦那は会社を引継ぎ、経営を改善している……よかったですね。」
やなはコップを両手で持って、嬉しく言った。
「そうね、心配無用だそうだ。」
コーヒーを一口飲んだあと、綿はコップを皿の上に置いた。
「やなのおかげです。本当にありがとうございました。」
「いえいえ。義孝の友達ですから。」
義孝は笑って、コップを台所へ運ぶ。
やなが振り向いたら、不機嫌な綿を見かけた。
「気にならない。」
「はい。見ればわかりますが。どうかしましたか?」
「君のことが、気にならない。」
「ですから、どこが気にならないのか、教えてもらわないと?」
しかし、やなが何度も聞いたが、綿は自ら話すつもりはなかった。
最後、やなは諦めようと立ち上がったら、左腕が握られた。
綿は顔をソファに埋めて、やなに見させないように。
「娘のために自分を犠牲するのも、ひとつの愛だよね。」
「はい。」
「黒沢のように、君を下の名前で呼びたいのも、ひとつの愛かな?」
やなの頬が赤く染まったが、綿はそれを見ていなかった。
「そのために怒ってるのですか?」
「なんか差別を感じる。義孝って呼んでるのに、僕のことを朝田さんと。」
「敬称です!」
綿は感じた、握ってるあの腕が震えている。
「敬称じゃなかったら、憧れじゃなくなります。」
「かまわない!」
それは君のセリフでしょうか...。
やなは心で突っ込みながら、少し微笑んだ。
「放してください。綿。」