さて、三度目の家出も、三度目の正直、とはならず、またまたまた、遥香さんの軍門に下ることになった森野徹42歳は、アメーバのスタッフブログを見て、思わず驚愕の大声をあげそうになった。どこからか漏れたIDとPWを使って、不正アクセスが多発しているというではないか!こりゃ一大事である。ヘヘヘ、あんさんの悪行はみんな知ってまっせ。奥さんにバラされたくなかったら、お金、振り込んどいておくれやす、へへへ、と薄気味悪い脅迫を受けている自分を想像して、背筋が凍る思いの徹であった。
森野徹は小市民である。大げさな悪さはできないかわり、小さな背徳行為を何千回と繰り返す小市民である。フーゾクのおねえちゃんには大枚をはたかないかわり、Hサイトで小金を落とすタイプである。つまり、叩けばなんぼでも埃の出るそこらへんのおっさんである。
慌てた森野は、スタッフブログの指示どおり、あっちこっちのサイトで共通して使っていたIDとPWを全部変更する必要に迫られた。ざっと思いつくだけでも20や30のサイトに登録しているではないか。これを全部違うものに変更するとなると、作業も面倒だし、覚えるのも大変である。
が、背に腹は代えられん、徹はこの際、すべてのIDとPWをそれぞれ違うものに変更し、とりあえず会社の手帳に手控えることにした。だって多すぎて覚えられないんだもん。
こうして、森野の地道な作業が始まった。幸い、月曜日なので、遥香はSummer Nudeとスマスマに夢中のはずである。この2時間が勝負だな、徹は気を引き締めた。
ソファーに座っている遥香を正面にして、徹はダイニングテーブルにノートPCを置いて作業に取り掛かった。仕事?と聞く遥香に、そうなんだよ、明日までにやんなくちゃだからさ。気にしないでTV見ててよ、と何とか冷静を装う徹であった。
が・・・
日頃、家では一切会社の仕事をしない徹が、何やら熱心にキーボードを打つ姿は、それはそれでいかにも怪しい。ポツン、ポツンとキーボードを叩いては、何やら手帳にメモしているところを見ると、遥香さんでなくとも、何やってんだろ?くらいの好奇心を呼び起こすには十分だ。
挙句に、時々、ふーっ、だの、あーぁ、だの、溜息ついたり、そうかと思えば、っち、とかなんとか、舌打ちしているんだから、気にならないほうがおかしい。
どうにも気になり始めた遥香さんは、徹が集中している隙に彼の背後にまわり、そーーーっとPCの画面をのぞき込んだ。
・・・・・何やってんの?
ひえーーーーーーーーーーー、び、び、びっくりさせるなよ!
突然真横に現れた遥香のデカい顔に、それこそ心臓が止まりそうなくらい慌てた徹。大急ぎでPCのふたを閉め、必死で手帳をポケットにしまった。
・・・
大体、森野は夢中になると周囲が見えなくなるタイプである。中学生の頃にも、エロ本を眺めているところを、後ろから妹に、何見てんの?と言われて焦りまくったことがある人物である。その時の経験がちっとも活かされていないところも、徹らしいと言えば徹らしい。
し、仕事のことだから、あ、あっち行っててよ。は、遥香さんにも、、み、見られると、あ、あんまり、よ、よくないからさ・・・
しどろもどろになった徹を見ながら、薄々なーんとなく事情に気付いてしまった遥香さん。このまま生殺しにしてやろうかという軽い殺意で全身に鳥肌が立ったのだが、もう少しちゃんとした保険に入ってからにしーよぉ、っと思い直し、今日は軽いジャブで勘弁してやることにした。
そうなの?じゃあ、終わったら履歴全部きれいにしておかないと、いつものままだとやばいよ。
・・・
わかっ・・・・
そう言いかけて、瞬間、息が止まるのを感じた徹。登録済みのエロサイトの数々が走馬灯のようにぐるぐる回り始めたとさ。
・・・
その数日後、ノートPCをしっかり胸に抱えた徹が、人目を忍ぶように部屋を出て行ったのを、隣の室田さんの奥さんの実家の、麻生久美子には全く似ても似つかない、お母さんが目撃したそうだ。
・・・
・・・
つづく